第4話 目的
「で、君の目的は一体何なの?」
僕はパンを皿に残ったスープにつけて食べていたミキに話かけた。
さっきまで僕とミキは睨み合っていたが、彼女が空腹なのを知り、少しながらのインスタントスープとパン、後、楓姉さんが作ってくれた残りものを提供した。
よほどミキは空腹だったのか、差し出した物を手に取りほおばり始めた。
「なんのことだ?」
ミキはパンを食べ終えると、僕の質問に質問で返す。
「さっき君が言ってたことだよ。 私には目的があるとかないとかって」
「ああ。 そのことか」
彼女は皿に残った最後の料理を平らげると、水を口に含み嚥下し、窓の方向を見ながら返答した。
「それを言っても信じてもらえないし、お前には関係ないことだ」
ミキはそう言うと、意味がないという感じで言った。
「それに私がお前にそれを話した時点で巻き込んでしまうことになる。だから聞かない方がいい」
彼女は首を横にふりやめたほうがいいと諭すように口にした。
彼女は完全に話すことに迷っているのか、拒否しているのかわからないが、悲しげな表情をしていた。
そんな風に言われて引き下がることもできたが、このとき僕はなんとなく気持ち的にああ、そうですかと引き下がる気持ちになれず、ミキをしっかり見て言った。
「僕は君に助けられたし、力になりたいと思ってるし、信じるか信じないかは僕が決めることだ。 それに巻き込まれているならすでに巻き込まれてるし、君をこの家に運んだ時点でもう首を突っ込んでるよ」
僕は強い気持ちで彼女に言った。
これは本心だし、なぜだかわからないけれども僕はここで彼女と関わることで何かが変わる気がしていた。
「…………そうか。 わかった」
ミキは瞼を伏せると口元を緩ませ、微笑んだ。「これから話すことは他言無用だよ」
彼女は人差し指をたて、口の前に持って行く。「わかった」
僕はゴクリと音を立てつばを飲んだ。
これから話すことが僕にとって、どう影響するかはわからなかったけれど、心が惹かれていた。
「まず約束してほしい。 驚いて声をあげないでほしい」
「ああ。 わかった」
「まず最初に私について説明する」
ミキはそう言うと、開いた状態の右手を僕の方に見せる。
「単刀直入に言うと私は魔法使いなんだ」
そういうと開いた右手にあっという間にどこからともなく錆びたナイフが握られていた。
「これがその証明だ」
彼女はそういい、握っていた錆びたナイフを消して見せた。
「……!?」
僕は驚いてはいたが、すでに驚くことを昨日の時点で見ていたから今更、疑う気持ちが起きなかった。
ただどう反応すればいいのかわからなかった。そんな僕をみてミキは言う。
「大丈夫か? マジックか、何かの類いかと疑ってもかまわないが、今のは一部分にしか過ぎないし、どう思ってもらっても私はかまわない」
「いや……。素直に驚いてるだけ。昨日、君に助けてもらった時に、君が持っていた棒が変形したのを見てたから心の準備はしてたけど、間近で見るとすごいね」
僕は素直に彼女に言った。
「そうか。 驚かないなんて肝の座ってる奴だなって思ったけど、驚いてたんだな」
ミキは苦笑いを浮かべる。
「魔法使いってことはわかったよ。 ただなんであの公園で戦ってたの?」
「奴に大切な『物』を盗まれたんだ。私はそれを奪い返そうとしていた」
昨日のことを思い出しているのだろうか、ミキは唇をかみ、悔しそうな表情をする。
「大切な『物』?」
「そうだ。 奪われた『物』はとてつもなく重要な物で使用されたら大変なことが起きてこの文明が無くなってしまうかもしれないと言われるほどだ」
「…………!?」
「私は魔法使いだと言っただろう。 私の家系は代々、その『物』が開けられたり、他の魔法使いに悪用されたりしないように管理し、守ってきた。 管理者として悪用される前に取り返さなきゃいけない」
彼女は決意の堅い表情で言った。
「その『物』はなんて呼ばれてるの?」
僕は気になって彼女に質問した。
「『物』は別名、『パンドラの箱』と呼ばれている」
僕はその言葉に昨日の朝、楓姉さんと話たことを思い出した。
『パンドラの箱をあけさせるな』
たしかそんなことを言っていた。
今、彼女が話したことと関係があるのかはわからないが、僕はなんだか胸騒ぎを覚えた。「でもなんで大変な代物なのに、あの仮面の女の子は盗んだんだ?」
僕はふと思いついた疑問を彼女に問いかけた。「『パンドラの箱』の中身については古い文献で災厄としかかかれていない。 開けてしまえばこの世界に災厄をもたらすことは確実だ。だがもう一つの側面があってそれが狙いで『パンドラの箱』を手に入れたかったんだろう」
「もう一つの側面て?」
「『パンドラの箱』は開放したときに災厄を放つと言われているが、同時に開けた者に巨大な力が与えられると言われている」
「…………!? じゃあ、早くしないと大変なことに…」
「大丈夫だ」
彼女は僕が言おうとしたことを遮った。
「『パンドラの箱』を開ける為には七つのキーが必要でそれに、開けられたとしてもこれで封印することができる」
ミキは自身の手の平をかざすとそこに彼女が昨日、戦いの時に使用していた長い棒が出現した。
「これはただの棒じゃ?」
昨日、彼女が戦っている最中にこの棒を変化させとして使用していたが、ただの棒にしか思えなかった。
「これはただの棒じゃない」
彼女は棒の先端を天井に向けるようにして縦に持つ。
「『ルール・オブ・デスティニー』だ」
彼女は僕の瞳をまっすぐに見て言った。
「災厄を封じる為に造られた聖なるで同時に、災厄を制御させるためにも造られている。 奴はこのの存在を忘れていたようだな。『箱』だけでは意味がない。だからこれがある限り安心できる」
ミキはそう言って口角を上げ、自慢するように『ルール・オブ・デスティニー』と呼ばれる棒を見せる。
見てみるが、何の変哲もないものだった。
「だから私はできる限り、最悪の事態だけは避けたいんだ。 このを使わなくても」
彼女は下唇を噛み、棒を握りしめた。
「そうしないと死んでまで命を助けてくれた父に申し訳ない。 父の想いを無下にはしたくない」
「命を助けたって、どういうこと?」
「父は私を助ける為に敵に殺された」
僕はその言葉に絶句した。
「数日前、父と私の前に黒づくめのマントをかぶった正体不明の奴が現れた。 そいつは『パンドラの箱』が狙いだった。 戦闘が始まり、私はマントの奴に狙われた。 そこをかばって父は負傷した……。 その際に追った傷が原因で父は……」
彼女は目に涙を浮かべながら悔しそうに言った。
「私はただ逃げることしかできなかった。このを守り抜けと言われ、父をその場に残した。 戻ってもどうすることもできなかったかもしれない。 それでも私は……」
ミキは後悔しているのかもしれない。
それでも彼女は感情を必死に押し殺し、やるべきことに目を向けようとしている。
確かに魔法使いだのよくわからないのことなんてわかりやしないし、疑ってしまう。
でも兵頭ミキ、彼女は苦しそうに自身のことを話している。
信じる信じないは別としてそんな彼女を僕は助けたいと思った。
「だから私には敵から『パンドラの箱』を奪い返す」
彼女は涙をぬぐいながら強く言った。
「これで話は全部だ。 気が済んだか?」
彼女は僕の顔をのぞき込むように言った。
「うん、わかった。 ミキさん、ありがとう」
僕は彼女をしっかりと見据える。
「正直。すべてを信じることはむずかしい。でも話してくれたこと信じるよ。 だから僕に君のことを手伝わせてほしい」
僕は彼女に向けて手を差し出した。
「いいのか? 命の危険が訪れるかもしれないんだぞ?」
ミキは少し不安そうな顔をしながら、問いかけてきた。
「正直、覚悟なんてないよ。 でも君を手助けできたらと思うよ」
「君は初対面でそういうことがよく言えるな。 不思議な奴だよ」
ミキは困ったように笑いながら言った。
そして瞼を伏せ、少し考える仕草をすると、瞼を開けて僕を見据えた。
「いいでしょう。 君の想い、受け取ります」
ミキはすっと僕の手を自身の手で握る。
思ったより、小さく細い年相応の手をしていて冷たくひんやりとしていた。
僕は彼女の手を握り返す。
「ところでミキさんはなんだか慣れないから、ミキと気軽に呼んでくれ」
「わかった」
僕がそういうと彼女は優しく笑った。
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