ガチャ回しますか? それとも人間止めますか?~ガチャラーはゴミアイテムの真の力で戦う~

翠南瓜

第一章 リセマラが終わればガチャが始まる

0.プロローグガチャ

 



『デジタル景品乱数提供禁止法』、通称『ガチャ禁止法』により、乱数による抽選での景品の提供するという、所謂ソシャゲやゲームセンターのカードアーケードなどに存在するガチャは全て禁止された。

 この法律が制定された背景には、老若男女問わないガチャへの依存による社会問題があった。それにも関わらず、パチンコや競馬などのギャンブルは存在するという矛盾などあり、大きな反発もあったが無理やり公布されることとなった。


 大きな打撃を受けたソシャゲ業界は仕様変更を余儀なくされ、あるソシャゲではガチャで排出されていたアイテムを買い切りにしたりと様々な試行錯誤がなされた。だが、ほとんどのソシャゲは採算が取れずサービス終了を迎え……ソシャゲ最盛期は終わりを告げたのだった。


 ──しかし、ここにまだデジタルな乱数ガチャを引いている男がいた。


「うおおおぉぉぉ!! 来い来い来い来いッ!!」


 カードアーケード筐体の画面上に表示される金色に輝く確定演出に、脳汁が溢れ出した男は人目も憚らず叫ぶ。

 画面から眩しい光が消え、可愛いらしい少女がマスターと告げながら現れる。


「すり抜けの上に被りかよ! 最悪だあああぁぁぁ!!」


 何度もガチャを回していた男にとって、この少女を見るのはこれで三回目であった。その怒りを筐体に向けて叫ぶ男に、横で座っている女は呆れながらも声をかける。


「……周りに人がいるのに叫ぶな。恥ずかしいだろ」


 そう言って女は視線で周りを指す。男が女の視線の先を見ると、明らかに未成年の女子二人組や、不健康そうな男がこちらを見ていることに気づいて、男は顔を紅潮させて身を縮ませる。それでもガチャは止められないと、画面に視線を戻した男は財布を取り出すと、少ししてから気まずそうな表示を浮かべて、女に頭を下げながら手を合わせる。


「……ごめん、お金貸してくれない?」


 ここは法律で禁止されたカードアーケードが遊べる……闇カジノならぬ、闇ガチャと呼ばれる場所だった。

 語呂が悪い呼び方だが、一般的にこの呼び方が浸透するほどには社会問題になっている場所であった。部屋の中には筐体が所狭しと並べられ、決して多いとは言えないが犯罪と知りながらも、ガチャを回しに来た依存者たちが集まっている。


 その中の客の一人であるスーツ姿の男は、同じくスーツ姿の女から貸してもらった小銭を躊躇なく筐体へ投入する。その姿に金を貸した女は、ここに男を連れてきたことを後悔と共にため息を吐き出した。


「……はぁ、ここまでテンションが高いと流石に引くぞ」

「なんだよ……いいじゃん、久しぶりのデジタルなガチャなんだよ! それにここに連れてきたのはお前だし……」

「まぁ、そうだが……お前はもう少し限度というものを考えろ」


 この二人は昔からの幼なじみで、今日は落ち込んでいた男のために、女が男の好きなガチャできる店(違法)に連れてきたのだった。……決して二人は恋人ではない。


 男はその後もガチャを楽しみ、閉店の時間が差し迫った頃、部屋の奥にいつの間にか──全身が雪のように白く、冷たさを感じさせる美女が存在していた。髪や肌、そして服までもが全てが白で統され、この世のものとは思えない空気を醸し出している。

 最初に気づいたのはガチャをしていなかった女だった。その白い女の周りとは明らかに異なる雰囲気に、何故か女は視線を離せなくなる。この状況はマズいと感じ取った女は、掠れた声でガチャに集中していた男に声をかける。


「……おい、あれを見ろ」

「なに……今いいとこなのに」


 声を掛けられた男は不承不承ながら画面から目を離し、女が見ている方向に目を向けた。その頃には他の客たちも異変に気づいて、いつの間にか全員が女へと視線を集中させていた。


「……皆さんの視線がこちらに向いたようなので、話を始めさせていただきますね」


 部屋に無数に置かれた筐体の騒がしい音はシャットアウトさせられ、女のずっと聞いていたくなるような綺麗な声だけが耳元に届く。


「閉店間際までガチャを回している選ばれしガチャラーの皆さん、こんばんは。わたしは別の世界で神をしていた者です」


 突然自身を神と自称する白い女。普通なら余りにも馬鹿馬鹿しい話である。しかし、客たちは白い女の異様な雰囲気により、もしかしたら本当に神なのでは……と思い始めていた。


「ガチャが大好きで大好きで止めれない皆様の為に、誰に咎められることなく、逆にガチャを回すことが世界貢献となる──ガチャ回し放題の世界を用意しました」


 そう言って女は細く白い指を鳴らす。……すると白い女の横に突如中空に青白い光を放つ渦が現れた。その見た目はまさにワープゲートである。


 ワープゲートは超強力掃除機の音を何倍にもしたような爆音を鳴らしながら、周りの物を無差別に吸い込み始める。

 ゲート近くにいた人は突然の出来事に固まってしまったことで、声を出す暇もなく吸い込まれてしまう。


「いやああぁぁぁ!」「た、助けてッ!」


 その吸い込まれる姿を見た、ゲートから遠くにいた客たちは叫びながら急いで出口に向かおうとするが、ゲートの強烈な吸引力により足が地面から離れ、ゴミのように次々と吸い込まれていく。


 ──そんな中、男と女は地面に固定されたテーブルにしがみついていた。


「死ぬ死ぬ死ぬッ! えっ、何これ何これ!」

「ッ……うるさい黙れ!!」

「あっ、もう無理。腕がプルプルしてる……」

「耐えろ! あんな得体の知れない物に吸い込まれたらどうなるか分からないぞ!」


 男は限界が来たのか優しい笑みを浮かべて女を見る。


「ええっと……今日は久しぶりにガチャが回せて楽しかった。……ありがとう」


 そう言って男はテーブルから手を離す。こうして男はゲートへ吸い込まれるかと思ったが、女がガシッと男の手を掴んでいた。


「お、おい! そんなことしたら煉まで吸い込まれるよ!!」

「……そんな、こと、言われて、見捨てれるわけないだろう!」


 男は女の言葉に焦った表情を浮かべる。


「……いや、俺のことはいいよ! それに吸い込まれたってガチャが回せる世界に行けるそうだから心配はないって!」


 男の言葉に長年友人として付き合っていた女は全てを察してしまった。


「伊月、お前、もしかして……? ガチャを回したくてわざと手を離したんじゃないだろうな!?」

「──え、えっ! そ、そんなわけないじゃん! ガチャ回し放題って言葉がいくら魅力的だからってそんな危ないことしないって!」

「はぁ……」


 目を泳がせなら早口で言い訳を捲し立てる男に、女は一気に脱力する。そのまま女はついテーブルから手を離してしまった。


「……あっ」


 そして二人は仲良く手を繋ぎながら吸い込まれていく。その最中に男は何故か驚きの表紙を浮かべる白い女と目が合った。


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