24.襲撃ガチャ

 



 昼頃はまだ明るくただの汚れた路地であったが、深夜ともなると路地は先を見通せず、中々に趣のある場所となっていた。


「……夜の路地はやっぱり怖いなぁ。昔、ずっと男に付けられたことを思い出すよ」

「怖いって、幽霊じゃなくて人間のことか……」

「……もしかしてレン、幽霊とか信じてるの……ぷぷっ」

「……私が信じてるなんて一言も言ってないだろ」

「見てあそこ、何か──」


 レンはイツキが全て言い切る前に、咄嗟にイツキの腕を掴む。それを見てイツキは馬鹿にした笑みを浮かべる。


「やっぱり怖いんじゃん」

「黙れ……再び殴られたいのか」


 これから戦場に赴こうというのに締まらないイツキとレンのやり取りに、緊張していた後ろのタイタツとサーベイは自分たちの緊張をほぐそうとしているのかと深読みする。


「(そういえば深く聞いていなかったが、あの二人は何者なんだろうな? ラリアちゃんの話だと本部からやってきた職員件課金者らしいが?)」

「(職業抽選紙の運搬は腕利きの職員がするって聞いたことがあるべ。……実際に今日盗まれたばかりなのに、もう職業抽選紙を見つけてるからな優秀な人達なんだろうさ)」


 イツキとレンが知らぬ間に上がる期待。まだ課金者になったばかりの二人からすれば勘弁してくれという話である。


 会話もないのにイツキとレンは評価を上げながら、イツキたちは裏路地を抜けて貧民街の潜伏場所へと到着する。レンはまだ職業抽選紙がここにあるのか、確認のために導きの杖を倒してみる。杖はしっかりと昼間と変わらぬ場所を指し示す。


 タイタツとサーベイは何かは分からないが凄いことをしていると、他人からすれば全くの謎の儀式を邪魔しないように無言で眺めていた。


「では、早速だが鍵開けと偵察を頼む」

「……任せてください」


 突然態度が変わったサーベイに違和感を感じたが、人に興味が無いレンはどうでもいいかとスルーする。イツキは明らかに態度が変わっていることに気付いたが、ガチャが絡まない危ないものには近づかないイツキは触れないでおく。


 サーベイは扉に近づくと、鍵穴に手を当てて何かしらのスキルを使用する。少ししてガチャリと音を立てて鍵が開く。鍵の開く音で誰かが気づいて出てくるかと、四人は扉の前で待機するが人の気配は一向にしなかった。


「……では行ってまいります」


 そう言い残すとサーベイは扉の中へと姿を消した。残された三人は無言でサーベイの帰りを待つ。だが、イツキが自分たちが来た道の方から誰かがやって来ることに気づく。


「誰か向こうから来るよ……」

「とりあえず、物陰に隠れるか。もしも、そいつらがこの建物に入ろうとした時は襲撃をかける。……分かったな?」

「分かりましただべ」

「……お前たち、さっきからおかしくないか?」


 レンはタイタツもおかしな態度を取ることに気づいたが、問い詰める暇もないので、丁度よく人が隠れれそうな木箱の後ろに隠れる。こちらにやって来るのは二人組の男のようだった。


「……ホントにチョロいもんすね。何が課金者ギルドですっての」

「あぁ、本当にそうだな。中には誰もいねぇしよぉ。俺は課金者共を殺れるって期待してたんだがな。ガハハッ」


 二人の内の下品な笑い声を出しながら近づいてくるのは、昼間に見張りをしていた男のようであった。


「(あの男か丁度いい……私の記憶を消し去ってやらねばな)」

「(勝手に見せられて襲われる男の人が可哀想……)」


 レンはあの男と共にいることでもう一人も仲間と判断し、こちらにやって来る前に仕留めることにする。ホームランバットを物陰から構える。

 夜中なので暗く当たらなさそうなものだが、レンには『幸運視』によるオーラが見えるため、暗闇でも人の形がはっきり見えていた。これはイツキがサーベイを見失っていた時に、レンにはオーラでサーベイが見えたことで気づいたことである。


 レンはホームランバットで先に昼間の男の腹に頭にぶつける。男は自分が攻撃を受けたことにも気付かずに地面へと倒れる。突然横で同僚が倒れたことに動揺した横の男も、すぐにレンによって昏倒させられた。


「凄いんだべ……」

「そうだよ、レンは凄いんだぞ」

「……どうしてそこで、何もしてないお前が威張るんだ?」


 レンたちが倒した男たちを縛り上げている間に、偵察を終えたサーベイが帰還する。


「中はどうだった?」

「……一階は奴らの生活スペースのようでした。どうやら地下もあるようでしたが、俺だけでは見張りがいたせいで侵入できませんでした。しかし職業抽選紙を一階で探した感じではなかったので、きっと地下にあるはずです」

「ご苦労だった」


 まるで組織のリーダーの様に労うレンに、イツキは笑いを堪える。労われた方は方で嬉しそうにしているのがまたおかしい。


「……何ニヤついてるんだ?」

「……別に何もないよ」


 建物の中を把握したレンは細かな作戦を決める。その結果、一階はサーベイとタイタツに任せ、地下はレンとイツキが向かうことになった。レンとしてはどちらかに地下に着いてきて欲しかったが、二人に足でまといになると断られてしまった。


 レンは最後の準備として全員に『幸運上昇』を掛ける。


 こうして最初に建物に突入するのは事前に決めた作戦通りにタイタツは扉を吹き飛ばして中に突入した。


「どかないと死ぬべ!」


 中から激しい音が聞こえると同時に、イツキとレンも中へと突入する。サーベイは先に侵入しておいて、タイタツが突撃すると同時に暴れる手筈になっている。


 建物の中はまさに汚部屋といった惨状であった。衛生概念が低いこの時代で男が集団生活すればこうなるものなのかもしれないが、レンは露骨に顔を顰める。


「汚いな……」

「そんなこと言ってないで、早く行こうよ!」


 既に地下の見張りはタイタツに抑えられていたので、この場はタイタツに任せてイツキとレンは地下へと向かう。地下への階段は螺旋状になっており、明かりは一切ないので足を踏み外すしてしまいそうであった。なのでレンは業火の炎を取り出す。


「この松明は煙が出ないから、閉鎖空間でも使えて便利だな」

「……業火の炎が泣いてるよ」


 イツキとレンはカツカツと先が見通せない階段を下っていく。



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