12.エンカウントガチャ

 



「久しぶりの外はいいわね。ずっと壁に囲まれてると、やっぱり気持ちが沈むわ」

「……そ、そうかな。わたしは気にならなかったけど」


 正反対なジュリアとニジホを連れて街の外へと出たイツキたち。レンが二人にクエストを受けていることを説明して、依頼で必要な素材をドロップする芋虫ことアシッド・ワームを探す。


 街から少し離れた場所を探していると、離れたところにアシッド・ワームの姿を見つけた。


「あれが魔物なの、気持ち悪い……」

「そうですね……」


 初めて魔物を見た二人はただでさえ気持ち悪い幼虫の見た目に加えて、二足歩行で歩いている姿に嫌悪感を抱いている様子だった。イツキはそんな二人に人攫いから教えてもらった定石を教える


「自分たちより格上の相手にはまず、見つからないよう── 」


 イツキが二人に説明していると、横からカッキーンという音が響く。それと共に芋虫の胴体がぶち抜かれ、体液を撒き散らしてこの世から姿を消した。


「……えっ、何が起きたの!」

「ホームランバットでその辺の石を飛ばしただけだが? ……よし、中々の威力だなこれは」


 一人で勝手に納得しているレンを横目で見ながら、イツキは投げやりに説明を再開する。


「……こんなふうに奇襲を仕掛けます。以上!」

「ちょっと待ってよ! あたしたちにそんなことできるわけないじゃない!」

「大丈夫! これを使えばねっ」


 イツキは作戦変更して次元収納から、既にホームランバットと化した木の棒を取り出した。


「これってただの木の棒じゃない。こんなものでどうするっていうの?」


 先程のレンのバッティングを見ていなかったジュリアは、最低レアの木の棒を見て疑問を浮かべる。


「それはこうやって使うんだよ」


 イツキも手のひらサイズの石を広い、上に投げてからホームランバットで打つ。やはり、カッキーンという軽快な音と共に石は真っ直ぐ飛んでいった。


「なにこれ……」

「凄い……」

「これが俺たちの武器、ホームランバットだよ」


 そして、イツキは二人にホームランバットを手渡し、残念ながら最初の芋虫は納品アイテムを落とさなかったので、芋虫狩りを始める。


 二人は最初、中々上手く石を飛ばせずに戸惑っていたが、何匹も狩っているうちに慣れてきたようで、次々とアシッド・ワームを倒していく。だが、納品アイテムが中々に落ちない。


「魔石や足はドロップするが……肝心の体液が落ちないな。これだけ倒しても出ないとなると、受けるクエストを間違えたか?」

「体液って直接取るのじゃダメなの?」

「倒したら消滅するから無理だろ。受付嬢の話だと、倒したらその場に体液が散らばるらしい。それをギルドで渡されたアイテムで回収すればいいと言っていた」


 レンの『幸運上昇』を使用してこのドロップ率なので、中々に厄介そうだった。


「一旦休憩しましょ。流石に疲れたわ……」

「うん、芋虫ばっかり見て気分も悪いし……」


 女子二人にはどうやら芋虫は不評なようだ。イツキやレンも休憩には賛成だったので、見晴らしのいい草原のど真ん中で休憩を開始する。


 イツキとレンは地面に腰を下ろしたが、女子二人は次元収納から小さな椅子を取り出した。


「……草原で家にある椅子って、雰囲気がぶち壊しだよ」

「……イ、イツキくん、あたしの膝の上に座る?」


 セリフだけを見れば親切に見えるが、顔が興奮していたのでイツキは丁重に断る。


「(俺たちもこれからは椅子を持ち歩こう……)」

「(そうだな……)」


 休憩も終わりいざ芋虫狩り再開と行こうと思っていると、イツキの耳に微かに地響きのようなものが聞こえてきた。


「なんか聞こえない?」

「……そうか、私には聞こえないが?」

「あたしも微かに聞こえるかな」

「うん、わたしも聞こえる……」


 イツキがよく耳を澄ましてみると、やはり地響きというか、足音が聞こえた。……それも先程より大きくなって。


「……何か近づいてくる!」


 その声にレンは咄嗟にホームランバットを構え、遅れながらジュリアたちも構える。全員が木の棒を構えているので格好はつかないが、臨戦状態に入った。


「あ、あれっ見てください!」


 ニジホが指さす方を見ると、遠くに色鮮やかな羽根を羽ばたかせる蝶々がいた。そのサイズは辺りに疎らに生える木よりも高い。……そして折角の羽根は使わずに──二足歩行で地を揺らしながら走っていた。


「もしかして、あの芋虫の親!?」

「見た目的にそうみたいだな……そして、どうやら私たちを逃がすつもりは無いようだ」


 二足蝶(仮称)はイツキたちを見て、怒りを表すかのように鱗粉を撒き散らす。どうやら鱗粉には幼虫だった頃の名残か酸性があるらしく、浴びた植物は溶けていた。


 そのシュールでありながら、巨体が迫ってくる恐怖にニジホは腰を抜かす。


「ああぁぁ……」

「ど、どうするの! めちゃくちゃこっちに向かって来てるけど!」

「ど、どうしようレン……」

「お前たちサラッと私に頼るが、私だってまだこの世界に来て四日しか経ってないんだぞ!」


 レンは焦った表情で叫びながらも思考を働かせる。


(……このまま全員でここに固まっていても死ぬだけだ。だからといって全員で逃げたとしても、あの化け物の足の速さだとすぐに追いつかれる。……いや、でもそれは)


 レンは思いついた作戦とも言えない作戦を言うかどうか迷う。しかし、その間も二足蝶は地面を揺らしながら近づいてくる。


「レン、何か思いついたんでしょ! 俺のことは気にしないで言ってよ!」


 レンは再びイツキに負担を掛けてしまうことに、苦い気持ちになりながらも説明を始める。


「あの化け物のサイズだ、さっきまで俺たちが飛ばしてた石ころ程度じゃ、ビクともしないだろう」


 それにはイツキも同感なので頷く。


「だから、もっとデカい巨岩をあの巨体にぶつけてやる」


 そう言ってレンは少し離れた場所に見える、これまた大きな岩を指さす。


「それならあいつも倒せそうだね!」

「やるじゃない優男!」

「……ですけど、あれ程の大きさの岩を狙った場所に飛ばせるでしょうか……」


 レンは優男という言葉にムッとしながら、ニジホの質問に答える。


「……お前の言う通りだ。石ころと違ってあれ程の大きさだ。軌道を操作するのは難しいだろ。そのため、あの化け物を巨岩の真ん前まで引っ張る必要がある」


 レンはここで一旦言葉を切って、


「それであの化け物の速度から考えるに……この中でまともにあいつから逃げれるのはお前だけだ、イツキ」


 とイツキの目を見て言い切る。……心の中の危険なことはしないで欲しいという気持ちを押し殺して。


「うん、分かった。俺があの化け物を引きつけるよ」


 イツキはレンが頼ってくれたことに、不謹慎ながらも喜びながら頷いた。


「……これを持っていけ」


 レンは腰の次元収納を隠すためのポーチから、最後の下級ポーションを取り出して渡す。


「大切に使うよ」


 イツキはそう言って下級ポーションをポーチに仕舞ったのだった。


 神妙な顔のイツキとレンに横合いから怒りの声が掛かる。


「ちょっと! イツキくんにそんなことさせるなんて絶対に反対だから! それぐらいだったら、あたしが囮をするわ!」


 レンは自分だって本当はそうしたいが、そんな感情を押し殺して言っているというのに、それを考え無しに言うジュリアに苛立つ。


「出たばっかりの人気もないアイドルのお前に何が出来る?」

「そ、それは……」

「そもそも、こんな言い争いをしている時間も勿体ないんだ。イツキの生存率を上げたいと思うなら黙ってろ!」

「まぁまぁレン。そんなに怒らなくても、俺を心配して言ってくれてるんだからさ」

「……イ、イツキくぅん」


 捨てられる子猫のような目で見てくるジュリアに、イツキは苦笑を浮かべながら説得する。


「大丈夫だって。俺、ドロップ運が悪い時ほど、他の運はいいから!」


 全く意味の分からない言葉にイツキ以外は疑問符を浮かべていたが、その言葉と共にイツキは二足蝶に向かって走り出す。


 その背中に向けてレンは『幸運上昇』を掛け直しておいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る