26.エピローグガチャ
レンは荒い呼吸で、服が身体に張り付く不快感で目覚める。窓の外を見るとまだ空はまだ薄暗く日が昇る前であった。
昨晩、ラスティを倒したレンは、後のことはタイタツとサーベイに任せ、気を失ったイツキを背負って課金者ギルドへと戻ったのだった。
その際にゴタゴタで宿も取っていなかった二人に、ラリアは好意で普段は貸し出していない、ギルド二階の寝室を一部屋だけ使わせてくれたのだった。
普段使わない部屋と聞いたが中はしっかりと掃除されていた。
しかしながら、一人部屋なのでベッドは一つしかなく、レンは仕方なくベッドにイツキを横たえ、自分は硬いソファーで眠ることにしたのだった。
不快な気分で目覚めたレンはソファーで眠ったせいだと誤魔化したかったが……本当の理由は分かりきっていた。
……相手の自爆に近い形であったとしても、人を殺してしまったからだった。昔のことであるが、間接的に大事な人を殺したことがあると思っているレンは、他人、それも自分たちを殺そうとした人間相手に生まれる罪悪感に苛立ちが湧く。
「外の空気でも吸うか……」
レンは胸の内に溜まった重苦しい空気を変えるため、汗ばんだ服を着替えて一階へと降りる。
「レンさん、おはようございます!」
朝っぱらから元気な声がレンに飛ぶ、レンはその声の主を見ると受付嬢のラリアの姿があった。
「お前居たのか……」
「そりゃぁ居ますよ! いくらレンさんたちが同じ職員だとしても、このギルドの職員がギルド内に一人もいないのに、人を泊めることはできませんもん」
泥棒が入ったばかりの課金者ギルドに、いくらギルド職員といっても、別の課金者ギルドの職員だけを泊めるなど有り得ない話だとレンは納得する。
「それは苦労をかけたな」
「いいえ、わたしの方がお二人に苦労をかけましたよ。……本当にありがとうございました。おかげでわたしの首は繋がりました」
普段イツキ以外から感謝されることが少ないレンは、真正面からの感謝に少し照れくさくなる。
「私も首が繋がったからな、お互い様だ」
レンは照れ隠しのように謙遜する。そんなレンにラリアはずずいとレンに近寄ってきた。
「実はレンさんにお礼がしたくて……」
「別にいらないが」
モジモジと恥ずかしそうに告げるラリアに嫌な予感を覚えてにべもなく断るレン。しかしラリアはつれないレンに諦めることなく強引にアタックする。
「……そう言わずに、さぁさぁこちらに来てください!」
レンは引きずられるようにギルド奥へと連れていかれる。その強引さにレンはギルドに戻ったばかりの時の出来事を思い出す。
血が滲んだままの服でギルドへと戻ったレンとイツキに、ラリアは心配して怪我をしてないのかとしつこく服の下を確認しようとしてきた。
その結果、レンは無理やり服を脱がされて女性であることがラリアにバレてしまったのだった。
「……実は課金者さんにプレゼントを貰ったのですが、サイズも考えずに適当に見繕ったのか、巨女が着るようなサイズの服だったんです」
「……巨女って私に言ってるのか?」
「いえいえいえ、違いますよ! ……そんなことより、これをレンさんに差し上げます!」
この世界での女性の平均身長は140から150の間であったので、レンは巨女の範囲に入る。しかし、ラリアは出会った時のレンを思い出して必死に否定する。
ラリアは巨女を誤魔化すために差し出してきたのは、清楚な感じの明るい水色のワンピースであった。
「……私は女であることを隠してると言ったと思うんだが?」
「いいじゃないですかたまには! ここはそれに王都ですからね。課金者の方もそんなに居ないですし、差し上げますからどうぞ着てください!」
……レンは抵抗を見せたが、いつの間にか着替えさせられてしまった。最初に出会った時とは逆転した立場に、レンは因果応報かと思う。
「……私にこんな可愛らしい服、似合わないだろう?」
巨女用と言われた服のサイズはレンには丁度よく、生脚が少し見えており、いつもとは違い色っぽさが出ていた。
「全然そんなことありませんよ! 美しいです!」
「可愛いじゃないのか……」
レンは可愛いと呼ばれたかったのか、とラリアはなんだかレンが愛おしくなった。
「今の言葉をいえば絶対に可愛くなります!」
「そ、そうか……」
レンは本来の目的を思い出して、ラリアから気分転換にオススメの場所を聞き、王都中央にあるという噴水広場へとやって来る。
広場には始まりの街とは違い、意趣が施された大理石の像が中央に置かれた噴水や、まるで角の様な形の剣を持った銅像が立っていた。
レンは噴水の縁に座って、朝の独特の何ともいえない空気を楽しむ。しかし、時間が経つにつれて人通りは増えて空気は淀み、レンの心も淀み始める。
本当にあの時、ラスティを殺すしかなかったのか。倒れた時にエリクサーを使えば救えたのではないか。自分には最初から救うつもりなどなく、殺すつもりだったのだろうか。……答えの出ない問答を繰り返し続ける。
「ち、ちょっと、レン!」
レンが考えに耽っていると、聞き慣れたイツキの声で現実に引き戻される。いつの間にかイツキは目の前にいた。
「……イツキ、目覚めたのか?」
イツキは不思議そうな表情を浮かべている。レンはてっきりこの服装のことを聞かれると思ったが、予想とは違う答えが返ってくる。
「どうしたのレン? ……元気ないみたいだけど、俺が倒れたあと何かあった?」
レンは自分がイツキにバレてしまうほど、参ってしまっていることに気づく。
レンはそんな心の内をイツキに悟らせたくなくて話を変える。
「……別になんともない。そんなことよりも、お前も自分が倒れた後にどうなったか知りたいだろ?」
イツキは何か言いたそうであったが飲み込んで頷く。レンはそれにホッとしながらイツキが気絶した後のことを話しだした。
「よくレンだけでラスティを倒せたね。俺が一撃でやられたのにさ」
「運がよかっただけさ……」
実際に博打だらけであった戦いを思い出していたレンの頭に、血の水溜まりに沈むラスティの姿が蘇る。
「う"っ」
「……レン、大丈夫!?」
心配そうにレンの顔を覗き込むイツキに、レンは手を振って大丈夫だと伝える。しかし、イツキはその手を退けてレンの顔を見据える。
「とりあえず、レンにこれだけは言っておきたかったんだ。……生き残ってくれてありがとう」
……レンはその言葉になんだか救われた気がした。たとえ人を殺したとしても、自分が生き残ったことを喜んでくれる人がいることに。
だからといって、自分がしたことの全てが肯定させる訳ではないが。
「……うん、そうだな。今はそれでいいか」
ウジウジと悩むのは止めて、今は圧倒的に不利な状況の中で生き残ったことを喜ぶことにした。
「……あっ、そういえば言い忘れてたけど、その服似合ってるね。いつもカッコイイ男装ばかり見てたけど、女の格好したらしっかりと美人なんだねぇ」
「なな、何を言ってるんだ!」
突然の不意打ちにレンは顔を赤く染めるのだった。
ガチャ回しますか? それとも人間止めますか?~ガチャラーはゴミアイテムの真の力で戦う~ 翠南瓜 @suikabocha
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