10.真名ガチャ

 



 洗濯も終わり、アイドル活動について話し合っているニジホとジュリアに別れを告げたイツキたちは、街から出て少し離れた場所にいた。


「よし、実験を始めよう!」


 イツキたちは戦闘職ではないので、これからの狩りやギルドの依頼のことを考えると、戦い方を模索した方がいいという結論に至った。なのでイツキの『真名解放』で、ガチャ産のアイテムがどのような効果を発揮するか確かめる実験をまず行うこととなったのだ。


「木の棒が相手を遠くに飛ばす効果で、鍋の蓋が吹きこぼれだったか」

「うん、そうだね。『真名解放』で解放された能力は戦闘向けだけじゃないみたい」

「残りのアイテムに有用なのがあったらいいんだが……」


 今イツキたちが所持しているガチャ産で『真名解放』していないのは木の剣と松明だけだ。なのでまずは松明から『真名解放』を行うことになった。なのでレンは次元収納から、火がついていない松明を取り出す。見た目は先端に布が巻いてある木の棒だ。


「この松明、見た目はほとんど木の棒と一緒だね」

「あぁ、そうだな。使い方は思いっきり振ればいいらしい」


 そう言ってレンはブンっと松明を振る。すると、バチバチと音を立てて先端に火が付いた。


「流石ガチャ産だね。振っただけで火がつくとか無茶苦茶だ」


 レンは松明の火に手を近づけたりして、色々と確かめたあとイツキに手渡す。イツキは渡された松明を握りしめ、スキルを発動する。


「『真名解放』!」


 頭の中に堅い口調の声が響く。


【我が名は〝業火の炎〟】


 松明の火が少し大きくなり、火というよりは炎という見た目に変わる。そして、先程まで松明の先端から出ていた煙がなくなっていた。


「成功したのか?」

「……多分したと思う。ちゃんと頭の中に〝業火の炎〟って声が聞こえたから」

「業火の炎か……。名前だけだと効果が分からないな」


 レンはそう言うと炎に手を近づける。


「業火といってたから熱くなってると思ったんだがな、逆に熱を感じなくなってるな……」

「……一体どうしてなんだろうね?」


 レンは今度は松明の火にその場で拾った石を近づけてみる。すると炎はすぐに石に燃え移った。咄嗟にレンは石を手放す。


「石なのに燃えてる……」

「………石でも条件さえ揃えば燃えるだろうが、特に条件も揃ってないのにこの速さは異常だ。どうやらこれが能力のようだな……」


 二人で石が燃えている光景を観察していると、レンがあることに気づく。咄嗟に石を地面に落としたことで、草の上に落ちてしまったのだが……燃え移る様子はない。


「どうやらこの火は燃え移らないようだな」

「良かった……もしも燃え移ってたら、全てを焼き尽くしていたよ」


 しばらく石は燃え続け、やがて灰となった。


「他にも色々燃やしてみるか」

「……なんだかその言い方だと、放火魔みたいだよ」


 その後二人は大きさは関係あるのか、構成物資は関係あるかと実験を重ねていく。


「どうやらこの炎は指定したもの以外は燃やさない性質があるのか」

「石が灰になるのに草を燃やしても灰になったし。なんでも灰にする能力もあるみたい」


レンは次に業火の炎をホームランバットで、飛ばして攻撃できないか試すことにした。もしもこれが可能であれば、遠距離から敵を燃やし尽くすことができる。


 的を遠くの大きな石にして、ホームランバットで殴った業火の炎はクルクルと回転しながら石に命中する。しかし、ホームランバットの勢いで炎はかき消されしまい、石に燃え移ることはなかった。


「これが成功すれば、遠距離で燃やし尽くせたんだがな……」

「そんな物騒なことにならなくて良かったよ……」


 どうやら業火の炎はどんな物も燃やし尽くす能力だけで、水をかけられれば消えるし、強い風でも消えてしまう名前負けした代物であった。


 松明の実験が終わり、イツキはワクワクした気持ちで次に木の剣の実験を行う。


「『真名解放』!」


【我が名は〝ドッキリ木刀〟】


「〝ドッキリ木刀〟って何!? 全く意味が分からないだけど!?」

「舐めた名前だな……。とりあえず総当たりで試すか」


 二人はドッキリ木刀を振ってみたり、地面を叩いてみたり、名前のドッキリという部分に着目して、木刀を持って驚かしてみたりと色々試す。

 そうして思いつくことを色々試してみた結果、この木刀で殴っても痛くも痒くもないということが分かった。


「使えねぇー」

「これで私たちは一つ武器を失ったって事だな」

「何を冷静に言ってるんだよ!」

「安心しろ。元々、木の剣が特別な能力を持たない限り、使うつもりはなかったからな」


 こうして木の剣は殴っても痛くない、ただのドッキリグッズと化した。

 こうして今持っているアイテムの『真名解放』が終わり、次は昨日『真名解放』した木の棒以外の木の棒に『真名解放』を行うと、ホームランバット以外の真名になるのかという実験をしてみることになった。早速、被りで余っていた木の棒に『真名解放』を使用する。


 ……そして結果はダメ、全然だった。


「真名はアイテムに一つなのか……」

「……残念だね」


 もしも、この木の棒がホームランバットではなく、違う効果だったら、コストの安い木の棒だけで様々な武器が手に入れられたのにと落胆する。


「……これで最後の実験だ」

「……まだあるの?」

「実はな、今朝の買い物で他にも買ったものがあったんだ」


 そう言ってレンは次元収納から再び木の棒を取り出した。


「また木の棒……」


 始まりの街ではガチャから排出される、木の棒やスキルまで様々なものが売買されていた。レンはそこでタダ同然の木の棒を複数買ったらしい。


「ガチャ産のアイテムって売買できるんだ……まるでRMTリアルマネートレードだね。俺はあんまり好きじゃないけど……」

「この『真名解放』がもしも、買ったガチャ産のアイテムにも使用できたら便利だと思わないか?」

「確かにそうだけど……そんなことしたらガチャを回す意味無くなるじゃん!」

「ガチャばっかりに固執せずに現実を見ろ!」


 レンに怒鳴られてイツキは不承不承ながら、購入した木の棒に『真名解放』を行なう。


【我が名は〝ホームランバット〟】


「……ああぁぁ、聞こえちゃった」

「よし、これで色々と捗りそうだな」

「ホームランバット! お前は自分を引いた主以外にも真名をバラしていいのか!」

「何を言ってんだ……」


 レンはガチャの価値が下がったことに落ち込むイツキに呆れながら、やる気を出させる言葉を探す。


「……おい、イツキ。職業の固有スキルはその職業の人間が引かないとガチャからは排出されないそうだぞ。だからガチャラーなんて特殊な職業のお前は、ガチャを引かないとスキルは一生手に入らないぞ」

「ガチャラーは神。よっしゃ!ガチャ引くぞ!」


 つまり、これは一点狙いに近いことなのだが、イツキはそれには気付かずにガチャの引く意味を見つけ喜ぶ。


「それにそもそもの話として、私たちに多くのガチャ産のアイテムを買うほどの金がない」

「それは世知辛いね……金策も何かしら考えないとダメなのかな?」

「まぁ、それは後々だな。今は報奨金のお陰で余裕があるしな」


 イツキとレンはこれで実験は終わりにして、今回の実験の中で判明した『真名解放』の能力を纏める。


 1.『真名解放』を行った人間以外も解放された能力は使える。

 2.『真名解放』で解放される能力はアイテム一種類につき一つ。

 3.『真名解放』を行える条件はガチャ産のアイテムであればどれでもできる。


「中々に有意義な実験だったな。明日はこれを使ってどう戦うか考えるぞ」

「……戦闘かぁ。しっかり戦えるかな?」

「大丈夫だろ。あれだけ人間相手に戦えたら」

「……あの時は必死だったから偶然上手くいっただけで、練習の時みたいに途中で手助けしてくれる人もいないから心配だよ」

「……まぁ、これに関しては頑張るしかないだろ」


 二人は明日からの戦闘に不安を覚えながら、街へと帰っていった。


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