6.闇鍋ガチャ

 



 ギルドを出たイツキたちは大通りを進み、始まりの街中央の広場へとやって来ていた。


 広場には噴水などそこに存在して一般的なものと共に、余りにも風景から浮いている……ガラスの球体を赤い円柱が支えている十メートル程もある、ハンドルと排出口が付いた──ガチャとしか形容できない物がそびえ立っていた。


 それをイツキとレンは呆気に取られたように見上げる。


「ガチャポンだ……。こんな形のガチャなんて、ガムのガチャぐらいでしか見たことないや」


 ガラスの球体の中にはこれまたこの世界にミスマッチな、カラフルな丸いプラスチックの容器が所狭しと詰められている。


「確かにこれは異様だな……」


 ガチャの前には多くの冒険者たちが列を作っていた。


「とにかく並ぼうよ!」

「そうだな……」


 イツキたちがガチャ待ちの列の最後尾に並ぶと、ギルド職員がやって来る。


「ギルドカードをご提示ください」


 二人は言われた通りにカードをギルド職員に渡す。


「はい、レン様とイツキ様ですね。どうぞお返しします」


 ギルド職員が去った後、二人でこれからのことについて話し合っていると、前から声を掛けられる。


「やあ、新人かい? 俺はベニルよろしくな」

「……よろしく、私はレンでこのちっさいのはイツキだ」

「ちっさいってなんだよ!」

「ハハハッ、仲がいいね。キミたちはガチャを回すのは初めてかい?」

「そうなんだよ! ……あぁ、早く回したい!」


 二ベルは何か考え込む仕草を見せると、パッと顔を上げる。


「そうだ! 君たち俺のパーティに臨時で入らないか?」

「……それはお前にとって何かメリットがあるのか?」


 人をあまり信用しないレンは嫌そうな雰囲気を出しながら、男に質問する。


「……レン、せっかく親切で言ってくれるんだから、そんな言い方したらダメでしょ」

「別に気にしないよ。課金者ならこれぐらい要心深い方が将来性があるしね。……それでメリットだっけか。新人だけを外へと送り出して、帰ってこなかった時に俺が落ち込むじゃだめかな?」


 恥ずかしそうに頭を掻く二ベルに、イツキはこんなに良い奴がいるもんなんだ、と思ったがレンは病的な程に人を疑うのを止めない。


「いや、私たちは二人で──」

「分かりました! 是非お願いします!」


 レンの言葉を遮るようにイツキが返事をする。


「……おいっ!」

「いいじゃん、折角親切で言ってくれてるんだから。人の親切は無下にしないものだよ」


 偉そうに指を振りながらそう言うイツキに、レンは苦い表情を浮かべ、イツキの耳元に顔を寄せて小声で言う。


「(知らない人に着いて行ったら行けない、という言葉を子供なのに知らないのか?)」

「(別に俺だって考えなしに返事をした訳じゃないし! ……普通に考えたら元サラリーマンの俺たち二人だけで、いきなり魔物を倒すなんて無理でしょ。だったらパーティを組んで教えてもらった方がいいじゃん)」

「(確かにお前と二人じゃ無理だな……)」

「(その言い方だと、俺に全責任があるみたいじゃん……)」


 レンはイツキがマトモなことを言ったことに、少し驚きながらも納得した。しかし二ベルを信用したという訳ではないので、自分が常に気を張っておこうと心に決める。


 ついにベニルの順番となり、ベニルはハンドルに魔石を翳して回す。するもハンドルが二ベルの動きと同じように回りだした。手の中の魔石はハンドルが回りきると砕け散る。

 カランと軽い音を立てて排出口から、人の手のひらサイズまで小さくなったカプセルが排出された。


「さて、何が入ってるかな?」


 ベニルはカプセルを捻ってあげると、中から光が溢れ、カプセルがいつ間にか剣の形へと変貌していた。その剣の柄に金で細工がされており、見るだけで高価レアそうだと分かる。


「よっしゃ! 鉄の剣だ! じゃあ俺は仲間たちと街の入口で待ってるから、君たちもガチャを引き終わったら来てくれ」


 そう言い残してベニルは颯爽と去っていった。


「怪しいな……」

「レンはまだそんなこと言ってるの? そんなことよりガチャだよガチャ!」


 イツキは早足にガチャの前へと立つ。


「ほら、レン。バフかけてよ」

「……バフってなんだ?」


 バフという言葉を知らないレンにイツキはバフの意味を教え、レンに『幸運上昇』を使用してもらう。


「よっしゃ、回すぞ!」


 イツキは意気揚々とポケットから魔石の入った袋を取り出し、何故か袋のままガチャに翳して回す。


「おい、バカ! 何やってんだ!」

「あっ、余りにもガチャが引きたすぎて……手が勝手に」

「はぁ……」


 魔石はハンドルが回りきると全て砕け散る。そしてカランと軽快な音とともに十一個のカプセルが排出された。


「あれっ、なんで一個多いんだ?」 

「多分お前のスキルのせいだろ」


 イツキはガチャラーには『魔石消費軽減ⅰ』があったことを思い出した。


「ああっ、そうだった!」


 イツキはカプセルを抱えて列から外れる。そして何故かまだガチャを引いていないレンも付いてきた。


「……あれっ? レンはまだガチャ引いてなかったよね?」

「お前が魔石を全部使ったからな、私まで引いたらお前がもしもの時の石が無くなるだろ」

「レ、レン~! 俺の為にガチャを我慢させてごめん!」


 そう言ってイツキはレンに抱きつく。


「お、おい! 何してるんだこんな公衆の面前で! ……恥ずかしいだろ!」


 レンは男女でのことを言っていたが、周りの人たちは親子だったり兄弟かと温かい気持ちで見ていた。


「俺が当たりを引いたらレンに一番レアな奴をあげるね」


 二人は広場の隅のベンチに座り、ガチャの開封を始める。


 一連目:木の棒(C)

 二連目:木の棒(C)

 三連目:鍋の蓋(C)

 四連目:木の棒(C)

 五連目:松明(C)

 六連目:木の剣(N)

 七連目:下級ポーション(N)

 八連目:下級ポーション(N)

 九連目:木の棒(C)

 十連目:木の棒(C)

 十一連目:『移動速度上昇ⅰ』(N)


 頭の中にアイテム名とレアリティが浮かび上がる。


「……なにこれ闇鍋ガチャじゃん! それに爆死だああぁぁ……」

「今使った魔石は最低レアのCコモンだから、一個うえのNノーマルまでのレアリティしか排出されないそうだぞ」

「……それを早く言ってよ!」


 ガチャから排出されるのは武器と道具にアクセサリー、そしてスキルの四種の闇鍋で、レアリティは六種類あり、UR>SSR>SR>R>N>Cという並びだそうだ。

 ちなみにレアリティはギルドのランクとも関係しており、Cは無課金者、Nは微課金と対応しているらしい。

 そのため、対応したレアリティのガチャを規定数回せば、そのランクまで上がるシステムになっているそうだ。


 二人は当たったアイテムをどちらが使うか話し合い、木の剣や松明、下級ポーションなど体型的にイツキが使いにくいものはレンが使うことになった。


 そして、スクロール状になっているスキルの『移動速度上昇ⅰ』は、子供の身体になり歩く速度が遅くなったイツキが使うことになった。


「これどうやって使うの?」

「破り捨てればいいらしい」


 イツキはそう言われスクロールを破ろうとするが、なんだかまだ使っていない紙を破るようでもう一度確認してしまう。既にイツキは何枚もの職業抽選紙を無駄にしているというのに……。


「……ホントのホントに破っていいの?」

「早くしろ」


 イツキは意を決してスクロールを破り捨てる。すると、頭の中に言葉が浮かび上がった。


【パッシブスキル『移動速度上昇ⅰ』取得】


「取得できたって頭の中に浮かび上がったよ。早速試してみる!」


 イツキは興奮気味にそう言って歩きだす。


「おお! なんだか早くなってる気がする」

「気の所為ではなさそうだな……」


 今までイツキの速度に合わせていたレンから見ると、イツキは実際に大人程の速さで歩いているように見えた。


「これは凄い。もっとスキルが欲しいなぁ〜。チラチラ……」

「もうガチャはダメだ。それにお前はもう石がないだろ」

「はーい……」


 その後、余った木の棒とお鍋の蓋が勿体ないので、イツキに気休め程度として装備させることになった。


「ふっ、子供のごっこ遊びみたいだな」

「笑うなし! それと子供って言うな!」


 二人は人から見えない場所で残ったアイテムを次元収納した後、余りにも冒険者とかけ離れた装備で、始まりの街の入口へと向かった。


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