5.ガチャラー

 



 翌日、ベッドの上で目覚めたイツキは、どうして自分がベッドの上にいるのだろうか、と考えながら思い出す。


「……たしか俺は確定演出でガチャラーを当てたあとに倒れたんだっけ? ──あっ、そうだガチャラー!」


 昨日イツキは頭の中にガチャラーの知識が入る前に気絶してしまったので、ガチャラーの詳細をまだ確認していなかった。

 まだ知識が入ってきていない状況で倒れたせいで、思い浮かべてもガチャラーの詳細が思い浮かばないかも、と心配しながらイツキはガチャラーについて思い浮かべる。


【〝ガチャラー〟 パッシブスキル:『魔石消費軽減ⅰ』 アクティブスキル:『新名解放』】


 気絶していたことで分からないということはなく、頭の中にしっかりとガチャラーの詳細が浮かびイツキは安心する。


「魔石って確かガチャを回す石のことだよね。……それよりも『新名解放』ってなんだろ?」


 イツキがそう考えていると再び頭の中に言葉が浮び上がる。


【『新名解放』アクティブスキル:ガチャ産のアイテムの真の力を引き出す】


「なるほど、スキルを思い浮かべたら詳細が分かるのか。でも真の力ってなんだか厨二臭いな」


 真の力という得体の知れないものに、厨二という烙印を押したイツキがこれからどうしようかと考えていると、ベッドの横の丸テーブルに服と紙が一枚置かれていることに気づいた。イツキはベッドの上から紙を手に取る。


 《目が覚めたら置いてある服に着替え、一階の受付カウンターに集合》


 イツキは紙の指示通りに冒険者風の服装に着替え、一階の受付カウンターに向かう。一階は受付も酒場も人の姿が疎らで、昨日入った時のような活気はない。

 そんな中でイツキは酒場に似合わないスーツではなく、イツキと同じように冒険者の装いに着替えたレンを見つける。……そして何故かレンは他の女性冒険者のように、脚が出てたり飾りが付いた服装ではなく、長い髪を後ろで纏めてイツキのような服装。つまり男装をしていた。

 レンもどうやらイツキに気づいたようでこちらにやって来る。


「ようやく目が覚めたか」

「……おはよう、レン。もしかして、見た目が変わって男装に目覚めたの?」

「何言ってるんだ……。これはギルドの職員が私を男と勘違いして用意しただけだ」

「だったら職員に言って女性用に変えてもらえばいいじゃん」

「……少し考えたんだがな」


 レンはそう言って文句を言わなかった理由を述べる。


「これから私たち二人で行動するんだったら、子供と女二人じゃ変な奴に目をつけられるかもしれないだろ。だったら、このまま勘違いさせておこうと思ったんだ」

「……確かに、そっちの方がいいかもね。でも、レンはそれでいいの?」

「別に他の奴になんて思われてもいい。それと別に私だけが偽る訳じゃないからな」

「……えっと、それはどういうことですか?」


 ……何故か敬語になりながらイツキはレンに聞く。レンは笑みを深め言った。


「もちろんお前も子供の振りをするんだよ」

「……えっ、なんで!? さっき、子供と女二人だと危ないって言ったばっかじゃん!」

「もうお前はどうやっても子供にしか見えないんだから、だったらいっそのこと、子供の振りをして油断を誘う方がいいだろ」


 レンも男の振りをするというのに、自分だけが我儘を言ったらそれこそ本当に子供だと思い、心だけは大人でいようと渋々頷く。


「……そういえば集合はどうなったの?」


 イツキはカウンターの方を見るが、職員の姿しかない。


「お前がずっと寝てるから既に終わったぞ。ほら」


 レンは手に持っていた袋と長方形のカードを渡してくる。


「袋の方はお金みたいだけど、このカードは何? クレジットカード?」

「どうしてここでクレジットカードが出てくるんだ? ……これはギルドカードだ。この街に入る時やガチャを回す時に必要らしい」

「なるほど、認識票みたいなものね」


 イツキは渡されたギルドカードを見る。そこには自分のイツキという名前と無課金という文字が書かれていた。


「何この無課金って?」

「これは私たちのギルドでのランクだそうだ」


 課金者ギルドのランクの順番は下から、無課金・微課金・中課金・重課金・廃課金という並びだそうだ。


「無課金って、このギルドなんでも名前もそうだけどガチャに絡めてくるね」

「そうだな……とにかく他にも話はあるが、まずは飯にしよう」


 イツキはレンと共に酒場のテーブルに付く、そして運ばれてきた質素な遅めの朝食を取る。


「そういえばレンの職業ってどうなったの?」

「……お前が職業抽選紙を全部使ったそうで、このギルドにはもうないそうだ。だから私は昨日まま祈祷師だ」

「なんかごめん……」

「別にいい。どうやら祈祷師は人気の職業らしいしな」

「そうなんだ」


 どうやらレンは朝から一階の酒場で情報収集をしていたらしい。


「私が祈祷師と言うと、いろいろな奴からパーティに来てくれって誘われたしな」

「へぇーそうなんだ。それでガチャラーの情報は?」


 レンはガチャラーという言葉を聞くと、食べる手を止めてイツキを見る。


「誰も知らないみたいだった。朝にはギルドマスターもいたから聞いたんだが……知らないようだった」

「じゃあガチャラーって、ものすごくレアってこと?」

「……そうなのかも、しれないな」


 煮え切らない返事だったが、イツキは気に来た様子はなく食べ続ける。


「それでガチャラーってどんな職業なんだ?」


 レンの質問にイツキはベッドの上で確かめた情報を伝える。


「実際にガチャを引いてみないと分からないか……」

「あっ! そういえばどうやってガチャ回そう? 俺たちだけで魔物とか倒せる気がしないんだけど……」

「それは心配ない。ギルドマスターから十連分の魔石を貰った」


 そう言ってレンは『次元収納』を使用して、空中から袋を取りだしてイツキに渡す。


「レンもうスキル使いこなしてるんだ……」

「……そうだった、ギルドマスターが言ってたが『次元収納』は人前で使わない方がいいらしい」

「どうして?」

「このスキルものすごくレアらしくてな。使えると分かると騒がれるレベルらしい」

「……だとしたらちょっと不便だね」


 イツキも使えるように後で練習しよう、と心に決めてから渡された袋を開ける。中には黒く輝く小さな魔石が十個程入っていた。


「初回無料十連なんてギルドマスターは本当に太っ腹すぎる! 早く、早く引きに行こう!」

「全部使ってどうするんだ! これはもしも私たちが魔物を狩れなかった時のための保険だぞ!」


 もしもガチャを回せなければ魔物になるとイツキは分かっていたが、胸の内から溢れるガチャ欲には抗えない。なので、何とかガチャを引かせてもらえる方法を考える。


「で、でも今の俺たち武器もスキルも初期しかないじゃん。だから初期投資として引くのはありだと思うんだけどな」

「……別に私もガチャを引くなとは言ってない。全部を使うなと言ってるんだ……」

「うん、分かった! 全部使わないから、ほら! 早く行こ!」

「その前に飯を食ってからな……」


 レンは食べ終わってからこの話をしたら良かったと後悔しながら、ソワソワしながら早食いするイツキを傍目に、自分ペースで食事を続けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る