4.職業リセマラ
「まずボクの権限をフル活用してキミたちをガチャ調査員とする。これで課金者ギルドが管理しているガチャは大抵回せるし、普通は魔石の貸与はギルドでは初回だけなんだけど、研究ということにすることで、もしもの時は貸与が可能になるしネ」
ギルドマスターは苦笑するように言う。それに対して大人しそうな少女は納得してはいないようだが、引くことにしたようだった。
「まずはガチャについての基本的な説明をしようかナ」
その言葉にイツキは自分が魔物になるかもしれないことなど忘れて、一語一句も聞き逃さないとばかりに真剣な表情を浮かべる。
「ガチャとはボクがこの世界に連れてこられた一年前に、この世界に現れた五つの異物サ。その内の一つは壊れていて使えないんだけド、魔石という魔物が落とす石によって、武器や道具、そしてスキルを手に入れることができるのサ」
「まさにガチャじゃん! それで武器とかスキルってどんな奴なの?」
今まで会話に入ってこなかったのに、突然食い気味に入ってきたイツキに驚きつつも、ササキは説明を続ける。
「ゴミみたいな物から……もしかしたら元の世界に帰れるかもしれない物まで千差万別だヨ」
元の世界という言葉に大人しそうな少女が反応する。
「ガチャを回したら帰れるってことですか!」
「その可能性もあるっていう話だけどネ。実際に瞬間移動のスキルもあるから、ボクはゼロではないと思っているのサ」
その言葉に希望を持ったのか少女は落ち着きを取り戻す。
「説明はこれぐらいにして、まずキミたちには職業を決めて貰わないといけないんだヨ」
「職業? ゲームとかの奴か? 本当にこの世界はゲームみたいだな……」
「あぁ、そうだとも。……しかし何になるかはランダムだけどネ」
「ランダム……?」
「職業というのは──」
ギルドマスターの話を要約すると、職業には下位職・中位職・上位職の三種の位があり、下位職の戦士や弓使い、上位職の勇者や賢者などからランダムで決まるという話だった。
そして転移者には白い女の加護があり、比較的上位職が出やすいらしい。
ちなみに職業ガチャは引き直しが可能らしく、ギルドで高い金を払うことでできるそうだ。
「だとしたらレベルとかもあるのか?」
「レベルはないヨ。だからこそガチャでいい武器やスキルを当てることで強くなるしかないのサ」
「面白くなってきたな……」
イツキは傍目からイキイキとした少年を見ていると、なんだか暖かい気持ちになってきた。……俺も昔はああやって未知に飛び込んで行ったけど、今はしがらみばかりだなと。
しかしこれが自分がガチャについて話している時の、他人の感想だとは決してイツキは思わないのであった。
「今回はボクの自腹でキミたちに好きなだけ引き直しをさせてあげるヨ」
「おぉー最高すぎる! リセマラ無制限って! ……も、もしかして、特定の上位職だけ出ないとかないよね?」
「もちろんそんなことはないサ」
「きたあああぁぁぁ!!」
……どうやらイツキに対して思うのは暖かい気持ちなどではなく……ドン引きであったようだ。
「黙れ、恥ずかしいだろ……」
今にでも部屋から飛び出しそうなイツキの首袖を後ろからレンが掴む。
「そんなに喜んで貰えて嬉しいヨ」
「ありがとうギルドマスター!」
その後、イツキたちや少年少女たちは会議室と思われる、巨大な円卓が中央に置かれた部屋に案内された。
そしてそれぞれの前に、文字が書かれた積み重なった紙と針が置かれていた。
ギルドマスターは仕事が忙しいので執務室に籠るらしく、イツキたちはメイドの様な格好をした、ギルドの職員と思われる女性の指示にしたがうことになった。
「では、これから職業抽選紙を一枚取ってください。そしてそこの針で指を刺して紙に指を押し付けます」
イツキは職員言う通りに紙を一枚取る。紙には見た事が無い文字が書かれていたが、何故かその意味は理解できた。
《職業抽選紙 確率 下位職……80% 中位職……15% 上位職……5%》
「ガチャの確率だろこれ!」
イツキが叫ぶ前に少年が思わず声を上げる。
「……どこまでこの世界はバカバカしいんだ?」
少年が呆れている一方でイツキは楽しみに身体が揺れていた。
「ねぇ、レン! 狙うのはもちろん上位職だよね!」
「もしかしたら下位職の方が強い可能性だってあるだろ……」
「確かに高レアリティでも弱いやつはあるし、低レアリティでも強いのはある。……でもガチャっていうのは引かせるために、本当に強いものってのは高レアリティで、そこから限定やら更に確率を下げられたものに入ってるんだよ」
イツキのガチャの話についていけないレンは首を傾げたが、周りにいる人間はガチャが好きでこんな世界に来てしまった人間なので頷いている。
「だから俺は上位職の中でも確率が低い職業を狙う」
「だが職業の個別確率は書いてないぞ?」
「いや! 確率が書いてないからこそ、このガチャには絶対に高レアリティの中の高レアリティがある!」
イツキは拳を振り上げ熱弁する。
「……まぁ、頑張れ」
……本当に存在するのかとか、どうやって低確率なのか判断するのかとか、レンには言いたいことが沢山あったが、決して付き合うのが面倒くさい訳でなく、自分の職業抽選紙に視線を落とす。
それぞれが自分の指に針を刺すの怖がっている中、ガチャの前にイツキは指に針を刺すのがなんだと躊躇なく刺す。するとプクりと血が浮き出てきた。イツキはそれを職業抽選紙に押し付ける。
──瞬間、職業抽選紙が青い光を放ち、紙の上でイツキの血が動き文字を形作る。
《遊び人》
「クソっ、ハズレかよ!」
見るからにハズレの職業にイツキが落胆していると、突如頭の中に情報が流れ込んでくる。
【〝遊び人〟 パッシブスキル:『幸運アップⅰ』 アクティブスキル:『鞭操作ⅰ』】
イツキは頭の中に遊び人の詳細が入ってきたことに驚きながらも、や遊び人というだけでゴミと決めつけて次に移ろうとする。
ちなみにパッシブスキルとは常に発動しているスキルで、アクティブスキルとは自分で任意に使えるスキルである。
イツキを見ていた面々は後に続けと職業抽選紙に血判を押していく。最初は戦々恐々でゆっくりだったペースは、指に針を刺すことに慣れたのか早くなり。イツキに至っては一回の針で何枚も職業抽選紙を消費していく。
「やったぞ! 勇者だ!」「……わ、わたし、戦うの怖いから、直接戦わなさそうな結界術師にしようかな」「神ってなんだろう? でも神ってついてるぐらいだからきっと強そうだし、これにしよ……」
中にはそれって職業じゃないとツッコミどころ満載の職業もあったが、イツキとレン以外は職業抽選を終えてしまった。そして終わった面々は会議室を出ていく。その中で勝ち気そうなだった……今はあまり体調が良く見えない少女はイツキに近づいてくる。
イツキは少し身構えるが、弱々しい少女を見ているとそんな気は失せた。
「ごめんね。今日のあたしは君に構ってあげれる余裕がないんだ……また元気になったらいっぱいお話しようね」
「う、うん……」
イツキとしてはあまり関わりたくないが、追い打ちをかけるようなことは言えないので頷く。そして少女は会議室から去っていった。
その後もイツキはリセマラを続ける。レンはこれだ、というのを決めていないらしいが、職業をキープして既に終わっていた。
「おい、イツキ……もう止めとけ。顔は青ざめてるし、両手は小指から親指まで真っ赤だぞ」
同じ指に刺し続けると痛いので、何度も指を変えてリセマラを行っていたイツキの指は真っ赤に染まっていた。そのせいで血を抜きすぎたため、顔は青ざめてまるで白い化粧をした食人族のようだった。
「いや、だ。俺は絶対に最高レアリティの職業に付くんだ!」
「……分かったから落ち着け。 私がどの職業がレアなのか職員に聞いてくるから大人しく待ってろよ」
「あぁ、確かにその手があった! なんで早く言ってくれないんだよ!」
「……悪い、そこまで真剣に考えてなかった」
レンはどうして自分が謝っているのだろうか、と不思議に思いながらも職員にどの職業がレアなのか聞きに行く。
職員から話を聞き終えたレンが帰ってくると、そこには机に身体を預けるイツキの姿があった。
「おい、大丈夫か!?」
「あ、ああ……だ、大丈夫」
「どこが大丈夫だ、コラッ!」
そう言ってレンはイツキの身体を退かす。そこには血文字が浮き上がった職業抽選紙があった。ジト目でレンがイツキを見ると、イツキは観念したのか謝る。
「……ご、こめん、待てなくて。それでレアな職業ってなんだったの?」
「──今日はもうダメだ」
「ごめん、てへっ。それでレアな職業ってなんだったの?」
「可愛く言ってもダメだ」
するとイツキは子供のつぶらな瞳でレン見詰めてきた。どれだけレンが視線を外そうと追ってくるし、目を閉じても無理やりこじ開けてくるので諦めたレンは許可を出す。
「はぁ……しょうがないな。聞いた話では勇者や神、そして王などがレアらしいぞ」
「あああああああああああぁぁぁぁ!! やっちゃったああああぁぁぁぁ!!」
「突然発狂してどうした?」
「あの少年が勇者すぐに出てたから、レアじゃないと思って消しちゃった……」
「バカだろ……」
いい加減にイツキの体調も心配だし、この変なテンションのイツキに付き合うのにも疲れたレンは、最終作戦を実行することに決めた。
「私の祈祷師で運を上げて回すぞ」
「祈祷師って運を上げる職業だっけ?」
イツキの祈祷師が職業抽選紙で出た時の記憶だと、確か中位職で自分の運や他人の運を上げるスキルがあったはずだ。
「それでお前の運を上げて上位職を出す」
「ありがとうレン! それでこそ心の友だよ!」
イツキの調子のいい言葉に苦笑を浮かべながらレンは、キープしていた祈祷師でスキルを使う。
「『幸運上昇』」
するとイツキが優しい青い光に包まれる。
「おぉ、なんだか運が良くなってきた気がする!」
そう言うとイツキは職業抽選紙に血判を押す。
「すげえぇぇ! いきなり上位職きたあああぁぁぁ!」
「それでどうなんだ?」
「ハズレだけど……」
本当に運が上がってるのかプラシーボ効果なのか分からないが、いきなりの上位職にテンションが上がる。
なので作戦継続となり、持続時間が分からないので、何度もレンがバフをかけてはイツキが血判を推していくという、わんこ蕎麦のようにリセマラを続ける。
やはり『幸運上昇』は効果があるようで、使用前は何度も下位職が出ていたが、今は軒並み中位職以上であった。
「………これは、本当に、効果がありそうだね」
「はぁ、はぁ。そうだ、な」
しかし、イツキは血の使いすぎ、レンは魔力の使いすぎによりバテていた。
「──って、これが最後の一枚じゃん!」
「どうするんだ? 今の武器マスターで止めとくか?」
「いや、ここで回さなきゃ男じゃないでしょ!」
レンにはこれは重症だな……という感想しか浮かばなかったが、水を差す必要もないと思い、心に留めておく。
「じゃあ行くぞ『幸運上昇』」
「うおおおおぉぉぉ!! 神様仏様レン様お願いですお願いですッ!!」
最後の職業抽選紙にイツキの血判が押される。すると、今までと違い職業抽選紙が白く輝き出した。
「よっしゃあああああぁぁぁぁ!! 確定演出きたあああぁぁぁ!!」
イツキは何度も飛び上がり、ゴリラのように手で自分を叩き喜びを表す。その度に指から血が流れることなど気にせずに。
そして職業抽選紙には《ガチャラー》という職業なのかよく分からない文字が浮かび上がった。
「……えっ、なにこれ? ガチャラー?」
そう言い残しイツキは後ろにぶっ倒れていく。
「お、おい、イツキ!」
レンが倒れゆくイツキを後ろから支えようとしたが、レンはレンでスキルに魔力を使うことを知らなかったので、自身の許容量以上に魔力を使用してしまったことにより、支えきれず共に床に倒れ込む。
イツキは既に気を失っており、レンには退ける力もなかったので……仕方なしにイツキに押しつぶされながら眠りに就いた。
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