3.異世界転移ガチャ
椅子の硬い魔鉄車に揺られること十五分ほど。遠くの方に二階建ての一軒家程の高さの、木の塀で囲われた街が見えてきた。
「……凄いけどなんで木で出来てるんだろ? 普通石とかで作るものなんじゃ?」
「それはな、この辺りが安全というのと、この街が出来たのが比較的最近なのが理由だな。それに木といっても燃えにくく硬い材質だからか、一箇所火がついたとしても全部燃えちまう心配もねえ」
「それはもう木材ではないだろう……」
しばらくしてイツキたちを乗せた魔鉄車は、街の入口まで辿り着いた。ヤマモトは魔鉄車を門番の前で止めて話をする。
「……今日も草原で拾ってきちまったぜ」
「ヤマモトさんまたですか……。あまりに身元が分からない者を街の中に入れるのは感心できませんが……」
門番は後部座席に座る外套を纏った怪しい二人組を見ながら言う。
「安心しろ、ギルドマスターからの許可はあるからな、ハハハッ」
そう言ってヤマモトは門番の肩を叩きながら、腰のポーチから一枚の紙切れを取り出す。
「はぁ……どうぞお通りください」
ほとんど止められることもなく、後ろに外套を被った怪しい二人を乗せて魔鉄車は街の中へと堂々と入った。
街の中はしっかりと区画整理がなされているのか、整然と建物が並び、道も魔鉄車が走りやすいようにか広く、そして平に造られていた。
道の端には露店が立ち並び、冒険者風の格好の人たちで賑わっている。
「まさに異世界って感じだ」
「異世界がよく分からないが、海外に来た気分だな……」
魔鉄車は速度を落として、しばらく道なりに進む。すると他の建物と比べて一際大きく、シンプルな作りの建物が視界に入る。
「あれが課金者ギルド……あぁ、手が震えてきた」
「……止めろ恥ずかしい。お前みたいな奴がいるんだから、ガチャは禁止されて当然だな」
「……違うって、逆に禁止されたせいでこうなったんだよ」
「……お前のそれは元々だ」
──レンは思い返す。イツキは小さい頃からカードアーケードが好きで、ゲームの内容自体は歳を追うごとに変わっていったが、高校を卒業するまでは何かしらのカードアーケードをプレイしていた。
大学生になってからはソシャゲのガチャにハマっていたが、ある出来事により一時期はなりを潜めていた。……しかし、あることがキッカケで再びガチャの沼へと落ちてしまったのだった。
卒業間際にはガチャが法律で禁止されたことで、イツキはガチャ熱の発散場所を失い、最近は仕事をしては寝てと人間とはいえない生活を繰り返していた。
魔鉄車をギルドの駐車場に停めて、ヤマモトに続いてイツキたちはギルドの中へと入る。
中は木の温かみがある酒場のような造りだった。奥にはカウンターがあり、そこでは冒険者がクエストの受付などを行っていた。
イツキたちはそこを通り過ぎ三階へと案内される。
そして廊下で一番大きな扉の前へと連れてこられる。
「この部屋には既にお前たち以外の転移者も集まってる。まぁ、そんな緊張することはない。皆、お前たちと同じ境遇なのだからな!」
ヤマモトは他に用事があると去り、イツキたちは該当を脱がされて部屋の中に入る。中には高校生ぐらいの大人しそうな少女と勝ち気そうな少女、それと知的そうな少年。事務机には頬が痩けた不健康そうな中年の男が座っていた。
イツキは何故か部屋に入ってからずっと、こちらを見詰めてくる勝ち気そうな少女が気になる。何か用があるのか聞こうかとイツキが迷っている間に、頬が痩けた男が部屋に集まった全員を見回すと、手を抱擁するように広げた。
「……ようこそ課金者ギルドへ。ボクが課金者ギルドのギルドマスター統括兼魔鉄車販売責任者兼始まりの街代表兼始まりの街ガチャ管理責任者、ササキだヨ」
あまりにも癖のある自己紹介に部屋の人間はポカンと口を開ける。その中で勝ち気そうな少女がギルドマスターの決めゼリフを無視して、熱い視線をイツキに向けて興奮した声で尋ねてくる。
「……ねぇ、ちょっと君? どうしてスーツなんて着てるの? ハァハァ……」
「……息切らしてるけど大丈夫?」
「質問はスルーされたけど……心配してくれるなんて、とても優しいのね!」
こっちはこっちで強烈だな……とレンが考えていると、無視される形となったギルドマスターが咳払いをして話を戻す。
「こほん、どうやら全員が揃ったみたいだからネ……そろそろ話を始めようと思うヨ」
そう言ってササキは全員を見回す。
「……ちょっと待って、これで全員って本当? 私の友達が居ないんだけど?」
先程までの興奮が嘘のように消え、顔面を蒼白にさせた勝ち気そうな少女の言葉に、イツキも闇ガチャの部屋には他にも人がいた事を思い出す。
「──そう、これで全員だヨ。ボクたちには正確に転移者が現れる場所が分かる方法がある。……そして、これに反応があったのはキミたち四人だけサ」
少女は小声で何か呟きながら、その言葉を理解したくないように頭を振る。そして顔を上げてササキを睨みつける。
「本当にしっかり探したの!! その方法とかに欠陥があるかもしれないでしょ!!」
「いや、その可能性はないヨ」
迫力のある少女の叫びにササキは動揺するなく、淡々と事実を述べる。嘘でもいいから生きている可能性かあると、そんな言葉が聞きたかった少女は、意気消沈といった感じに地面に座り込む。
……ササキはそれを傍目に話を始めた。
「じゃあ改めて、ボクはこの世界『アトランダム』。勝手に呼んでるだけだけど、それに来てから既に十六年になる」
その言葉に部屋にいた全員が凍り付く。十六年といえば少年少女たちからすれば、自分の一生と変わらない長さである。そんな長期間も別の世界にいるというササキに同情を抱くと同時に、自分たちもこの世界から出れないのかと身体が強ばる。
大人しそうな少女は「家にはもう帰れないの……」と泣きそうな声で呟き。少年は気丈そうに腕を組んでいたが ……その脚は震えていた。
そしてイツキも残してきた家族や会社のことなど考える。
「だからキミたちにも元の世界に帰る手段を探すのを手伝って欲しいのサ。もちろん最大限のバックアップはするヨ」
……勝ち気そうな少女以外にも理解させられる現実。それぞれどうしようかと考える中、
「俺も協力してやってもいい。だけどな俺は既にこの世界で生きていくと決めた」
と少年はササキを見て断言する。
「ボクも別にキミがここで生きていくというなら、別に構わないサ。それに協力はしてくれるそうだしネ」
少女たちは少年を信じられないという目で見ていた。一方イツキは迷っていたので小声でレンに相談する。
「(どうせ会社なんて有給を盆と正月に使わせるブラックだし、異世界に来ていっそ清々したけど、心残りなのは実家の家族だよなぁ……。でもレンと一緒に消えたんだから、まだ安心してくれるなかな?)」
「(何言ってんだ、バカ……)」
「(……ごめん、不謹慎だったよね)」
レンがバカと言ったのはそれではなかったが、勘違いしてくれるならそれでいいと話を続ける。
「(今すぐ考えないといけない訳でもないだろう)」
「(確かにそうだね……ガチャを引いてから考えよ)」
しばらくして少女たちは元の世界に帰るために協力すると頷いた。ササキはまだ答えを言っていないイツキたちに視線を向ける。
「それでキミたちはどうする?」
「……俺は協力して良いと思うけど、レンはどうする?」
右も左も分からない転移者が、ギルドの支援がなければ生きていくのは難しいと考えレンも頷く。
「じゃあ具体的な支援について話そうかナ。キミたちを課金者兼ギルド職員として、毎月ギルドから給料という形でお金を支給させてもらう。部屋もギルドの宿を無料で使ってくれていい」
至れり尽くせりな内容にレン以外の者たちはギルドマスターに感謝の念を覚える。逆にレンはギルドマスターの援助が手厚くなればなるほど不信も大きくなっていた。
(……どうしてここまでの私たちを手厚く保護するんだ? 十六年も探して見つからなかったものが、私たちが増えたとこで到底見つかるとは思えないが……)
それとも自分の考え過ぎで、このギルドマスターはただの善人なのかとレンが考えていると、
「そもそもガチャってなんですか! こんな中世みたいな世界にガチャなんておかしいですよ!」
と少女の叫び声が耳に入った。
話を聞いていなかったレンは、勝手に大人しそうな印象を抱いていた少女がヒステリックに叫んだことに驚く。状況把握の身長の関係でイツキの頭を肘でつつき、どうなっているのか聞こうとしたが……イツキの顔が強ばっていることに気づいた。
「(すまない、話を聞いてなかったんだが……何があったんだ?)」
「(え、えっと。なんかガチャを回さなかったら俺たち死ぬって)」
動揺しているイツキの話では、一週間に一度はガチャを回さなければ、徐々に身体の先から浅黒く変化していき、最終的には魔物になってしまうという話だった。死んでしまうというは、魔物になればその人間には意識は残っておらず、普通の魔物と比べて危険な魔物になってしまうので、討伐されてしまうからだということらしい。
他の人間が混乱していることにより、逆に冷静になれたレンは、この話でどうしてギルドマスターが手厚く保護をするのか理解した。
(……なるほど、私たちを監視するためか)
それならば納得できる話だった。そんな魔物に変化してしまう人間など野放しに出来るわけがない。ならば少しの出費をしてでも鎖で繋いでおきたいということだろう。
「……まぁまぁ落ち着いて。もちろんボクがそんなことにはさせないヨ。だからこその始まり街代表兼ガチャ管理責任者なのサ」
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