15.品質ガチャ

 



 翌朝、イツキとレンは依頼の納品を行っていた。対応した受付嬢はアルペラである。


「依頼完了です。初の依頼でしたがいかがでしたか?」

「あの芋虫全く体液落とさなかったんですよ。どうなってるんですかあのドロ率!」

「おかしいですね? アシッド・ワームの中で体液は一番ドロップ率が高いはずですが……」


 アルペラは顎に手を当て考え、レンに視線を向けると理由に思い至ったのか顔をパッとさせる。


「……分かりました、きっとレンさんのせいです」

「私のせいだと……?」

「……レンさん、あなたずっと『幸運上昇』を掛けてたでしょう? そのせいで元々確率が高いせいで、レアではない体液のドロップ率が下がり、逆にドロップ率の低い足のドロップ率が上がったんだと思います」


 運を上げたせいでドロップ率が下がるという、皮肉めいた出来事に泣きたくなる。


「難しい話だな。早く手に入れようとスキルを使ったことが裏目に出るとは……」


 レンも同様のことを考えたようで落ち込んだ表情を見せる。しかし、気を取り直して昨日のアシッド・バタフライのドロップ品を買い取ってくれる店をアルペラに尋ねる。


「素材にもよりますが、大抵の物は課金者ギルド斜め向かいの、商業ギルドで買い取ってくれると思いますよ、ふふっ」


 早速、アルペラに教えてもらった商業ギルドへと向かう二人。商業ギルドの外見は課金者ギルドと違い、煌びやかな装飾が施され、さながら高級店のような雰囲気を感じ、庶民には入りがたい空気を纏っていた。


「ほ、本当にここには入るの? こんな小汚い格好の子供が入って叩き出されないかな?」

「その時はその時で受付嬢に文句でも言ってやれ」


 そう言って躊躇なくレンは建物へと入っていく。イツキは庶民感丸出しで、キョロキョロしながらレンの後ろに続いた。


 建物の中も課金者ギルドと異なり、絹のカーテンや何かの模様が編まれた絨毯などが引いてあり高級感を漂わせていた。イツキたちが中に入るとしっかりと教育されたであろう、綺麗に筋の通った歩き姿で職員が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。本日は何用ですか?」


 そう言って出迎えた職員だったが、無愛想な男と子供というのに加えて、安っぽい場違いな服装に僅かに眉間を寄せる。だが、プロとして決して客に悟らせないように、決して笑みを絶やさない。


「素材の買取をお願いしたいんだが」

「……畏まりました。では、こちらの奥にお越しください」


 職員の案内したのはロビーとは違い、床が石造りの巨大な部屋だった。中央にはこれまた大きな台が置かれている。室内には誰もおらず、あまり儲かっていないのかとイツキは失礼なことを考える。


 案内した職員は色々と道具を取り出す。どうやらこの職員が買取を行うようだった。


「私はアルシールと申します。商業ギルドでは買取を主に行っております。まずは身分証明書として、ギルドカードのご提示を」


 そう言われイツキとレンはバレないように、次元収納からギルドカードを取り出してアルシールに渡す。ギルドカードの確認を行ったアルシールは無課金者という文字に、こいつら何しに来たんだと感想を抱く。


 本来、商業ギルドでの買取とは小さな買取場で買い取れない、大口の買取の場合使用される。つまり、ATMでは引き出せないような、巨額を引き出す銀行のような役割だった。


 アルシールは一瞬叩き出してやろうかとも考えたが、商業ギルドの評判のことを考えるとそんなことはできず、グッと堪えてニコニコ微笑みながらギルドカードを返す。


「それでは買取の品をお出しください。外に置いてある場合はお申し付けください」

「その心配はない」


 レンは予め腰に付けていた素材が入った大きな袋を取り出す。またまた安っぽい袋にうんざりしながら職員は受け取る。袋を受け取ったアルシールは袋から漂う、生臭い匂いに息を止めながら、中身を鑑定用の台上に取り出した。


 袋から何本も出てくるブヨブヨした足に、アルシールは嫌悪するかと思われたが目の色を変える。


「お客様、すみませんが質問よろしいでしょうか?」

「別に構わないが」

「とても不躾な質問ですが、お客様のどちらかが祈祷師でしょうか?」


 レンは自身が祈祷師と言い当てられ、警戒した目付きでアルシールを睨みつける。


「……何故そう思う?」


 アルシールはレンの豹変に焦ったように言葉を捲し立てる。


「これだけのアシッド・ワームの足を無課金者で手に入れられたということは、祈祷師ではないかと推測しただけでございます……」

「……ああそうだ。私が祈祷師だ。これは他言無用で頼むぞ」

「畏まりました」


 レンはドロップ品のレアリティで職業を看破されるとは思ってなかったので、また一つ反省しないとなと心に刻む。


「……これで全てでしょうか?」

「いや、まだある。これも他言無用で頼むぞ」


 レンは次元収納から巨大な羽根と先程までの足が小さく見える、巨大な足を台に乗せる。


「アシッド・バタフライの羽根と足だと!」


 アルシールは次元収納から取り出されたことなど気にも留めず、取り出された素材に目を見開く。アシッド・バタフライ自体がレアな魔物であるのに、ドロップ品の中でも羽根と足はレアリティの高い素材であったからだ。


「……ど、どうしたんですか?」


 アルシールの変貌に少し引き気味にイツキが尋ねる。


「あなたたちは無課金者だったはずだ!? なのにこの素材どうしたんだ!?」


 綺麗な言葉使いは綺麗に消え失せ、食い気味に迫るアルシール。レンはイツキと職員を遮るように立つ。


「そんなの考えれば分かるだろう? 私たちが倒したからだ」


 アルシールはここで意識を商人切り替える。商業ギルドに勤める者は皆元商人で、もちろんアルシールも商人だったからだ。


 無課金者で課金者クラスでないと倒せない魔物を倒し、パーティーには祈祷師がいるという将来性が溢れる二人。……この二人は何としても商業ギルドで抱え込まねばとアルシールは考える。


「……すみません、取り乱してしまい。その分色をつけさせてもらいますね」

「それは助かる」


 アルシールは駆け出しの課金者は基本的にお金に困っているのを知っていた。それを上手く利用しようと考えながら、素材の品質チェックを行う。

 品質のチェックには素材の魔力含有量を測ることができる、特殊な鑑定魔石が使用される。魔石の色が変わらなければ劣悪品、魔石が虹色に輝けば最高品質といった感じだ。


 アルシールは鑑定魔石を台に置かれた素材に近づける。すると鑑定魔石は虹色に輝き出した。アルシールは予測していたことなので、顔には出なかったが、これは何がなんでも二人を取り込まねばという気持ちになる。

 そして、次々と鑑定していくアルシールだったが、全ての素材が最高品質と判明したことで我慢が出来なくなった。


「──全て最高品質だとおおぉぉ!!」


 突然の発狂にアルシールの考えなど知らないイツキたちは、こんな奴に任せて大丈夫なのかと心配になってくる。皮肉にも先程までアルシールがイツキたちに抱いていた感想だった。


「(……レン、本当にここで大丈夫なのかな?)」

「(分からん……これ以上おかしな様子を見せるようだったら、違うとこに行くか)」


 発狂していたアルシールだったが、お客の前だと思い出し今更マトモな職員という態度を繕う。そして、今すぐにでもギルドマスターの許可を取り、この二人を商業ギルドの専属にせねばと逸る。


「……少しお待ちいただけますか?」

「……イツキどうする?」

「せっかく鑑定してくれたんだし、少しだったら待ってもいいんじゃない」


 待つことを了承した二人は他の職員が持ってきた椅子に座り、走って何処かへ行ったアルシールを待つ。しばらくすると、焦った様子でアルシールが戻ってきた。


「お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。……どうぞ二階へ」

「ここで買取をしてくれるんじゃなかったのか?」

「お二人に大事な話がありまして……不躾なお願いでございますが、よろしくお願いします」


 入った時にアルシールに嫌な感じを覚えていたレンだったが、今のアルシールからはそれを感じなかった。なので悪い話ではないのだろう考えたレンは受けることにした。


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