18.買い物ガチャ

 



『防御上昇ⅰ』の確認は上手くいかなかったが、二人では確かめようがないので諦め、イツキたちは再び街へと繰り出していた。


「やはり、誰も彼も大小の差はあるがオーラを纏ってるな」

「やっぱりオーラがデカかったら運がいいってことなのかな?」

「自分の手を見ると、他の奴よりは濃いオーラではある……」

「間接的に運が良い自慢、俺悔しいよ……」


 新たに手に入ったスキル『幸運視』には、やはりどんな人間のオーラでも見ることができた。オーラの大きさや色の濃さは千差万別であり、外見からして強そうな者ほど強いオーラを纏っていた。


 レンは『幸運視』の実験を行いながら、今夜のポーション作りに必要な下級ポーション、水やガラスの瓶などを購入していく。エリクサーが水で薄まるのかは甚だ疑問ではあるが……信じて試すしかないだろう。


「必要な物も買ったし、そろそろポーション作りしようよ」

「……おい、忘れたのか? 私たちの一番の目的はスキルの購入だろ」

「……あんまり気が進まないなぁ。どうせだったらガチャで当てたかったよ……」


 どうしてスキルの購入をするという話になったかというと、ガチャで狙ったスキルを当てるよりも、購入した方が被りなどもなく、確実に狙ったスキルを手に入れられるからだ。


 ガチャ産のアイテムを購入するという話もあったのだが、下級ポーションが思ったよりも値段が張ったために、当たり外れがあるガチャ産のアイテムは残念ながら後回しになってしまった。


 始まりの街にはスキルを取り扱う店は数少なく、イツキたちは目に入った小さな店に入ってみる。店は外見通りにこじんまりとしていて、カウンターのみで穏やかそうな男が立っていた。

 てっきりイツキはスキル屋というぐらいだから、ガラスケースにいくつものスキルが並べられているのを思い浮かべていたので……少しガッカリだったが。


「いらっしゃいませ。購入ですか? 売却ですか?」

「購入だ」

「探してるスキルはありますか?」

「とりあえずNとRのスキルが見たい」

「汎用ですか? それとも専用ですか?」

「……専用は知ってるが汎用とはなんだ?」


 人間不信に陥っているイツキたちは特にスキルについての情報収集を行っていなかったため、専門用語を出されても意味が分からなかった。


「どの職業でも使えるスキルを汎用スキルと呼びます。……もしも、あまりスキルについて詳しくなければ、よくある注意点だけでも説明しましょうか?」


 店員は汎用スキルという言葉をイツキたちが知らなかったことを踏まえて、スキルについての注意点を話した方がいいのではないかと考えた。


「本当に! それは助かるよ!」


 イツキはそれにすぐ飛びつき、レンも別に悪意は感じなかったので聞くことにする。


「スキルにはⅰやⅱとレベルがありますよね。よく勘違いなされる課金者さんがいるんですが、ⅰのスキルを覚えていないと、ⅱのスキルは覚えられないんですよ」


 よく購入した後に使えないと文句を言いに来る課金者を思い出しながら、店員は丁寧に説明してくれる。


「それは知らなかったな……」

「ギルドで教えてくれたらいいのにね」


 全く同感だと、クレームを入れられる店員は思った。店員の注意も終わったのでレンは汎用のスキルを頼む。

 店員は棚からいくつかの、スクロール状のスキルを取り出して説明を始めた。


「今わたしの所で扱っているのは、『移動速度上昇』『持久力強化』『防御強化』のⅰとⅱ。『筋力強化ⅰ』ですね」

「たったそれだけか?」


 スキル屋というのだから、もっと多くのスキルがあると思っていたレンは店員に尋ねる。


「……元々スキルの流通数は少なく、そこからRとなるとさらに少ないんです。それに加えて、昨日珍しい黒髪の少年が、NとRのセットを買い占めましたので……今はあまり在庫がなくて。申し訳ないです……」

「……あなたが悪いわけじゃないのだから、謝罪する必要はない」


 イツキはギルドマスターの執務室であった、同じ転移者の少年を思い浮かべる。


「黒髪の少年って絶対にあの子だよね……」

「スキルを買い占めとは……一体どうやって稼いだんだ?」


 レンは報奨金やドロップ品の金で、他の転移者よりは稼いでいると思っていたので疑問に思う。だが、今は関係ないことだとさっさと忘れ、スキルに思考を戻す。


「それで如何なさいますか?」


 レンは店員に値段を聞いて、どれを購入するか考える。


「ちなみにSRこスキルはいくらなんだ?」

「Rスキルの十倍程です……」

「たっか……」

「買うとほとんど無くなってしまうな……」


 月に貰える給料全てでRスキル一つなのにそれの十倍と、あまりにも法外な値段に唖然とする。


「SRスキルには一つ上のランクの魔石が必要になるのに加えて、スキル自体がほぼ出ませんからね……。やはり、それぐらいの値段になってしまいます」


 レンは考えた結果『防御強化ⅰ』『移動速度上昇ⅰ』『移動速度上昇ⅱ』を一つずつ。『スキル威力上昇ⅰ』『持久力強化』のⅰとⅱを二つずつ購入した。『防御強化ⅱ』も二人分買おうとしたのだが、在庫が一つしかなかったらしく、一つしか買えなかった。


「ありがとうございました」


 人のことを言えない程、スキルを買い占めたイツキとレンはスキルとガチャ産アイテムの実験のために、いつものように外に出ようとしていると……昨日のように歌が聞こえてきた。


「今日も歌っているのか……」

「すごい熱意だよね。……俺にその熱意を向けるのは止めて欲しいけど」

「……せっかくだから歌でも聞いていくか」

「……どうしたのレン? 昨日精神汚染とか言ってたのに?」

「あの女たちにも実験に付き合ってもらおうと思ってな」


 歌の方に足を向けると昨日よりも多い人集りが見えてきた。レンはそれを見てげんなりした表情をする。


「あの中を突っ切らないとダメなのか……。なぁ、イツキ? そこら辺の奴に殴られてこい」

「……えっ、嫌だよ! というか実験って俺を殴る実験のことなの!?」

「人聞きが悪いな。これはあくまで防御上昇スキルの実験だ」


 サラッと酷いことを言うレンにイツキは、知らない奴に殴られるぐらいなら、と一人でジュリアたちの所へと向かう。


 歌に近づくたびに決意と心配のない交ざった気持ちが強くなってくる。昨日は感じなかった心配の感情に疑問を覚えながらも、イツキは子供の体格を活かして、集団の先頭に躍り出る。どうやらジュリアはイツキを見つけたようで、目を一瞬後ろに向けてなにかを伝えようとしてくる。

 イツキはジュリアが目を向けた場所を見るが、そこには何もない。……というかいない。


(……そういえば、ニジホは後ろで楽器を引いてるって言ってたっけ?)


 よくよく考えれば今日の歌はアカペラであることに気づく。ニジホに何かあったのだろうかと考えながら、イツキはジュリアの歌が終わるまで路上ライブを楽しんだ。


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