17.クリティカルガチャ
専属の契約については明日することになり、今日のところはドロップ品を高く買い取ってもらうだけとなった。そうして商業ギルドを後にした二人はガチャ広場へとやって来ていた。
「ふふふん、ガーチャ、ガチャガチャ」
「……なんだその歌は?」
「ガチャが引ける喜びを表した歌だよ!」
イツキたちはアシッド・ワークを多く狩ったことで、
……イツキが強固にガチャを回したいと主張したので仕方なしではあるが。
イツキたちは課金者ギルドの職員にギルドカードを見せてガチャ待ちの列に並ぶ。
「Rの魔石はレンが回していいよ」
「ガチャ狂のお前が珍しいな……何を企んでる?」
イツキのありえない発言にレンは疑いの視線を向ける。
「……酷い! 人の善意をそんな言い方するなんて! 強いて言えばCを全部引かせて欲しいなー、とか思ったりしてるだけだもん……」
「欲だらけだなお前……」
「Cを全部引きたいのは本当だけど、今のレンは攻撃スキルが一つもないじゃん。それにレンは運がいいらしい、一発でスキルぐらい引けるんじゃない?」
今のレンのスキルは『強運』と『幸運上昇』という運特化のスキル構成だった。イツキはレンは特別運が良いと聞き、レンが高レアのガチャを引いた方がいいと考えた。
「それを言ったらお前も攻撃スキルはないだろ。運がいいなんて曖昧なものに頼るのか?」
「──当たり前じゃん。今日は運が良いなと思ったら、ピックアップじゃなくたってガチャは引くでしょ!」
「……分かったから落ち着け。私はRガチャでお前はCガチャ十連だな」
「なんで十連なの!? 俺はある石は端数でも全然引くよ!」
「お前の事情なんて知らん」
「しょぼーん……」
十四連ガチャを切り捨てられて落ち込むイツキだったが、自分に順番が回ってくると、先程までの落ち込みようが嘘のように元気になる。
レンは自分とイツキに『幸運上昇ⅱ』を使用する。
「うおおおおぉぉ!! ガチャ引くぞ!ガチャ引くぞ!ガチャ引くぞ!」
周りからの奇異の目も気にせずにイツキは、再び袋ごと魔石をガチャに近づけて回す。コロンコロンとカプセルが『魔石消費ダウンⅰ』により十一個排出された。
「次はレンの番だよ! 絶対に職業スキル当ててね!」
「あまり期待はするなよ」
レンは少し大きい魔石をガチャに翳して回す。すると、イツキの時とは違い……ハンドルが二回転した。そして銀色のカプセルが排出される。その光景を目にした周りからの歓声と嫉妬の野次が飛ぶ。
「おめでとー!」「確定なんて運がいいな!」「……クソが、メシマズだわ」
イツキは自分が出した訳でもないのに、目を輝かせて確定演出の余韻に浸る。
「あれが確定演出かぁ、このガチャめちゃくちゃ射幸心煽ってくるね。……俺も確定演出だしたいなぁ」
「とにかくここは目立つ。……早く去るぞ」
確定演出のせいで目立ってしまったレンは、イツキの手を引っ張りながら早足にこの場から去る。ここら辺には他にも用事があったのだが、人攫いの件もあり慎重になっているレンはイツキと共に一旦、カプセル開封をするために課金者ギルドのイツキの部屋へと向かった。
「……レンは慎重だよね。わざわざ部屋で開けなくても良くない?」
開封をお預けされたイツキは少し不機嫌になっていた。
「もう開けていいから機嫌を直せ」
「きちゃあああぁぁぁぁ!!」
一瞬であまり賢くない犬のように、機嫌を直すイツキ。それを見てレンは呆れるばかりだった。
「よし、行くよ!」
次々とカプセルを開封していくイツキ。そして床に散乱していく木の棒や鍋の蓋。
「このなんとも言えない結果……堪らないな」
イツキは満足そうだったが……開封結果は被りばかりで、新しく出たのは木の杖(
「やはり、Cの魔石ではあまり期待できなさそうだな……」
「さぁさぁ、レン! 開けちゃいなよ!」
「お前は人のガチャを引くのを見るのも好きだよな? ……一体何が楽しいんだ?」
「……そんなの決まってるじゃん。人の不幸を楽しむためだよ」
「性格悪いな……」
「でも、今回は心の底からメシウマを願ってるから!」
レンは意を決してカプセルを開く。
一連目:『幸運視』(
「SRだが、明らかに攻撃スキルではないな……」
「攻撃スキルじゃなくても、SRとかやっぱりレンは運がいいんだなぁ。それでどんなスキルなの?」
「『幸運視』ってスキルだ。名前的には運が見えるとか、そんな感じなんだろうが、使ってみないと効果はよくわかならんな」
カプセル開封が終わったので二人はスキルの実験を行う。『防御強化ⅰ』はイツキが覚え、レンは祈祷師専用スキルの『幸運視』を覚える。
「ねぇ、何か見える?」
「いや、見えないな。スキルの確認をしてみる」
【『幸運視』アクティブスキル:幸運が具現化し、形として見える】
「どうやらアクティブスキルらしいな。早速使ってみるか……『幸運視』」
すると、レンの視界に写っていたイツキの周りを、薄い黄色のオーラが覆っているのが見えた。
「イツキが黄色のオーラを纏ってるな……」
「そうなんだ、俺もどんなのか見てみたいな……」
「それでこれはどう使えばいいんだ?」
「……俺に分かるわけないじゃん」
「どうやら魔力の消費は僅かみたいだから、常時使って他に能力がないか実験するか……」
期待はずれな効果に肩透かしを感じながら、レンはイツキの『防御強化ⅰ』の効果を確かめることにした。
「こっちは実用性があればいいが」
「よし、ドンと来い!」
レンは思いっきりイツキの腹を殴る。すると、レンの視界でレンが纏ってる幸運のオーラがイツキのオーラを押しのけるのが見えた。
「グハッ、い、痛い……」
「これは面白いな……」
「人を殴って面白いってサイコパスかな……」
レンは先程見えたことをイツキに説明する。
「俺の幸運のオーラがレンのオーラに押しのけられたって言ったけど、それで何が変わったの?」
「それは私にも分からない。お前のゲームの知識で何か思いつかないか?」
「うーん、運と言えばクリティカルとかかな?」
「なんだクリティカルとは?」
イツキはレンにクリティカルの説明をしようと思ったが……あまり上手い説明が思いつかない。いざいつも使ってる言葉でも、説明しろと言われると難しいとイツキは思った。
「なんだろう……痛恨、会心? ……これはただの言い換えか。とりあえず攻撃が確率でいつもよりダメージが出るってことだよ!」
「……なんとなくだが理解した。つまり、あのオーラ押しのけられる現象は、その確率を具現化したということだな」
普段見えないものが観測されることで、確率で決まっていた物が確率ではなく、運と運のぶつかり合いという現象になったことで、クリティカルヒットが確率に左右されなくなっていた。しかしレンとイツキは確率の具現化までは理解しても、クリティカルヒットの確率がなくなったことには気づかない。
「だとすると、私より運が低い奴には高威力の攻撃が出せるわけか……」
「そう考えると強いね……」
……しかし自分より運が低いければ、クリティカルヒットが発動するという本質は理解していたので関係はなかった。
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