幕間.ギャンブラー
始まりの街などが属するニアルータ王国の王都。世間的に胸を張 って仕事ができない者が集まる地下の賭博場。
「お前っ、さっきからイカサマしてるだろ! これで俺は破産だ!」
その一角のルーレットでガラの悪そうな男が、赤い鼻を付けたブカブカの服の白髪の青年をイカサマだと怒鳴りつけていた。
「あなたの運が悪いのを僕のせいにしないでよ……」
「なんだとこの野郎ッ!」
男は激昂して懐から隠し持っていたナイフを取り出して、青年に突き刺そうと懐に飛び込む。
──しかし、ナイフは不運にも手から滑り落ちる。
「いきなり抱きついてきてどうしたのかなッ!」
青年は冷静に無防備に飛び込んできた男の溝内に膝で打つ。男は衝撃で床にひっくり返り、口から血の泡を吹く。
そんな事態が起こっているというのに、周りはいつものことだと関心は一切向けず、職員がやって来て倒れた男を何処かへと運んで行く。
男を一撃で倒した青年は興が削がれたので、もう帰ろうかと考えていると背後から声を掛けられる。
「すみません、ラスティさん。仕事が入りました」
「仕事って誰からかな? ……またあのよく分からない人たちじゃないよね?」
「……違います、我らが神から任された仕事です」
その言葉にラスティの呼ばれた青年は、表情を嬉々としたものに変えて振り返る。
「本当なの!? 我らが神は僕を見捨ててなかったんだね!」
「仕事の内容は数日中に課金者ギルドへ運ばれる、職業抽選紙の回収とのことです。……その後はいつもの場所に運んで欲しいと」
「やっぱり僕はツイてる! たまたま王都にいた事でこんな仕事を任せるなんて!」
ラスティは居ても立っても居られず、つまらない勝ちが決まっている場所から去ろうと出口へと向かう。すると出口横に立っていた警備員が声を掛けてきた。
「……帰りはお気をつけください」
「僕は運がいいからね、心配しなくていいよ」
ラスティは純然たる事実を告げて賭博場を出た。
ラスティが自分たちの隠れ家へと向かっている途中、いつの間にか周りを囲まれていることに気づく。
「……どういうつもりかな。僕は何も悪いことしてないよ?」
ラスティが立ち止まり、囲んでいる者たちに警告する。それは他の人間が聞けば子供の言い訳のようであったが、ラスティにとってはこれが最後通告であった。
自分たちの尾行がバレたことに気づいて、闇の奥から先程の警備員が姿を表す。
「出ていく時に警告しただろう? 君は勝ちすぎた。……死んでもらう」
「言ったよね、僕。運がいいから心配しなくていいって。……やっぱり運を舐めてるからこういう人たちが出るんだ。僕が運は最強だって証明しないとダメみたいだね」
よく分からないことを述べるラスティに向かって、警備員たちは容赦なく全方向から魔法を放つ。
……しかしながら、それらは運悪く軌道が全て逸れ、あまつさえ同士討ちを発生させてしまう。
運良く仲間の魔法が当たらなかった、ラスティに警告した警備員はヤケクソで魔法を乱射する。
「おおおおおおぉぉぉぉ!」
魔法のレベルから課金者としてのレベルは中課金はありそうだった警備員だったが、やはり魔法は全弾外れてしまう。
「ど、どういうことだ……」
「これが運だよ。運が良い奴がこの世界で最強なんだ。『ダイスロール』」
ラスティはいつの間にか指に挟んでいた、三つの六面ダイスを宙に投げて掴み取る。
「六六六、今日も僕は最高に運がいいね」
その言葉を言い終えるとラスティは有り得ない瞬発力で警備員に近づき、真上からこれまたいつの間にか持っていたナイフを振り下ろす。
警備員は咄嗟に腕でガードしたが、腕はバターのように切り落とされ、頭から股下までナイフが貫通して警備員を真っ二つしてしまった。
その光景を目にしてしまった、他の警備員たちは悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「これでまた運の強さが広まったかな」
ラスティは全身に浴びた返り血を気にする素振りすら見せず、再び帰るためにフラフラと歩き始めた。
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