21.修行ガチャ
翌日、商業ギルドでの契約を終え、ポーションを納品したイツキたちはいつものように街の外へと出ていた。
「明後日が遂にギルドからの依頼の日だ。その前に私たちの戦い方を確立しないといけない」
「確立って、ホームランバットでカーンじゃダメなの?」
「……前のアシッド・バタフライだったか。あの化け物に対して無力だったからな。何か知ら他にも考えた方がいいだろ」
確かにそれはそうだと、まずイツキたちはスキルを覚えることにした。
【〝ガチャラー〟 パッシブスキル:『魔石消費軽減ⅰ』『移動速度上昇ⅱ』『防御強化ⅱ』『筋力強化ⅰ』『持久力強化ⅱ』 アクティブスキル:『新名解放』】
【〝祈祷師〟 パッシブスキル:『強運』『移動速度上昇ⅰ』『防御強化ⅰ』『筋力強化ⅰ』『持久力強化ⅱ』 アクティブスキル:『幸運上昇』『幸運視』】
一つしかない『防御強化ⅱ』をイツキに付けたのは、イツキには運による防御がないからだ。
「こんなものか……」
「結構スキルが増えたね。早速試そうよ!」
まずは確認しやすい『移動速度上昇』と『持久力強化』を試すため、イツキとレンは走ったり歩いたりする。
「これはいいな。中々疲れない」
「歩く速さも結構速くなったよね」
上々の結果に満足する二人。
「『防御強化ⅱ』の実験もしないとダメだよね」
「だが、どうやってする? 私が殴っても分からないぞ?」
イツキは息を吸って決意した表情で言う。
「──俺、ホームランバットで飛ぶよ」
「……本気か?」
二日前に死にかけたというのに、再びホームランバットで飛ぼうとするイツキが理解できず、レンは問いかけてしまう。
「……うん、昨日考えてたんだけど、ホームランバットで怪我しなくなったら、絶対に便利だと思うんだよね。……実際にあれがなかったら避けれてなかったし」
イツキはホームランバットでアシッド・バタフライの筋力を間一髪避けたことで、ホームランバットに対する信頼が高くなっていた。
逆にレンは死にかけのイツキを見て、ホームランバットをあまり信用しなくなっている。
「だから、レンは俺がもしも怪我をした時に、
レンは止めろという言葉が喉まででかかっていたが、寸前で飲み込み頷いた。そして、別の言葉を弱々しく呟く。
「……死ぬなよ」
「死亡フラグ立てないでよ!」
レンがイツキの飛ぼうとしている場所に、先回りして待っているのがイツキから見える。
……イツキは二日前のことを思い出し、再びあの状態になるかもしれないことを考えると怖くなる。だが昨日の死にかけのレンの姿が頭にフラッシュバックし、またあれを繰り返したらダメだと強く思う。
……そのためにはホームランバットを使いこなさないといけない。そう考えたイツキは恐怖を振り払い、ホームランバットを背中に回す。
「俺は無傷で地上に降り立つ!」
イツキは背中を斜め上にホームランバットで叩く。イツキの決意とは違い、軽い音が草原に響く。
そんな決意は角度が付いていたせいで、想像より高く飛んだことで簡単に砕ける。
「……やっぱり怖いいいいぃぃぃぃぃ!!」
「────」
レンが下で何やら叫んでいたが、声はイツキまで届かない。何故ならイツキがいる場所が、始まりの街が見渡せる程の高さだからだ。
焦ったイツキは強く下にホームランバットで叩いてしまう。イツキは急激に下へと落下していく。
「バカ野郎! 早く上に上がれ!」
下に降りたことでレンの声が聞こえ、イツキは急いで上に叩く。
その後イツキは地上に降り立つために何度も何度も、自身の身体をホームランバットで叩く。それを何度も繰り返している内に、イツキはホームランバットでの空中軌道の操作のコツが分かってきた。
自分が飛んでいる方向と逆から叩けば止まり、止まった瞬間は下に下に落下するが、そこから行きたい方向に叩けば無限に飛べた。
「なんか楽しくなってきた!」
「何してるんだ! 早く降りてこい!」
イツキはレンに言われた通り、下に降りるためにできるだけ角度を水平に近づけていく。
「これでどうだ!」
飛行機の着陸のように横から地面に入ったイツキは、地面を転がりながら勢いを落とす。レンは急いで転がるイツキへと駆け寄る。
「イツキ、大丈夫か!」
地面に打ち捨てられたようなイツキは、腕を上げて親指を立てる。
「『防御強化ⅱ』の効果凄いよ!」
服はドロドロだったが、無傷で地上へと帰ってきたイツキは、レンに楽しげにホームランバットの使い方を語る。
「ホームランバット上手く使えれば、空を自由に飛べるよこれ! 空中で行きたい方向に叩けばその通りに飛んでくれるし、強弱を調整したら勢いを弱めたりできるし、今回は『防御強化ⅱ』の実験のためにやらなかったけど」
「下から見てたが、人が生身で飛んでるのは不気味だったな」
「今の言葉で世界中の生身で飛ぶヒーローを敵に回したよ!」
『防御強化ⅱ』の効果とホームランバットの新たな可能性を見つけたイツキとレンは、次に『筋力強化ⅰ』を試すために重そうな膝丈程もある石を持ち上げることにした。……持ち上げるのはもちろんイツキだ。
「お、重い……」
「だが、少し浮いてるんじゃないか?」
実際に石は一センチ程地面から浮いていた。イツキは力尽きるように石を離す。
「も、もう無理……。こんなの持ったら腰がおかしくなるよ」
「まだ若いから大丈夫だろ」
……イツキは負担を分け合おうと言ってから、負担が増えまくったなと考えていた。
スキルの実験は終了して、次に真名解放の実験を始める。まずは木の杖から始めることにした。木の杖の見た目はほとんど木の棒と変わらず、違いは持ち手が少し出っ張ってるぐらいだった。
「『真名解放』!」
【我が名は〝導きの杖〟】
「なんかカッコイイ名前のが出た! 〝導きの杖〟だって!」
「名前からすると強そうだな……」
まずは導きの杖で殴ってみたり、導きの杖を上に掲げて「導いてくれ!」と叫んでみたりと色々と試す。
「何も起きないね……厨二ネームを名乗らないで、ホームランバットぐらい分かりやすい名前が良かったよ」
「名前か……導きは意味で案内とかあったなそういえば」
「案内する杖…………あっ」
「どうした?」
イツキは何が思いついたのか「始まりの街」と言ったあと、導きの杖を離す。すると杖はグルリと一回転して、始まりの街の方角に出っ張りを向け倒れる。
「猫型ロボの道具じゃんこれ……」
「ああ、あれか……。だが、それだけあって便利だなこれは」
「そうだけど、なんだか異世界にパクられたみたいで釈然としないなぁ……」
「……お前は誰目線なんだ?」
導きの杖の使い方が分かったので他には、どんなことができるのか試していく。すると導きの杖は場所の案内だけでなく、一番近い魔物の位置や探し物の場所まで指し示すことが分かった。
欠点としては木や岩などの障害物があっても、一直線に指し示してしまうこと。確率で見当違いの場所を指し示すことだった。……しかしこれについては、レンが自身に『幸運上昇』をかけて倒すことで、百発百中であったため問題ないと判断した。
「これで依頼が捗りそうだな」
「……レンの豪運でデメリットが無くなったし、ただのチートアイテムになっちゃったよ」
「エリクサーとかいうチートがあるのに今更だろ」
「確かに……」
木の杖の実験が終わり、次に錆びた剣の実験に移る。早速イツキは『真名解放』を行ってみると……錆びた剣が目が眩む程に明滅を始めた。
「えっ、なにこれなにこれ!?」
「とりあえず離せ!」
「……でも、なんだか離したらダメな気がする!」
──言い争っている内にイツキの頭に声が響く。
【我が名は〝エクスカリバー(充電式)〟】
光の明滅が収まるとイツキの手の中には、光り輝く剣身に見たことの無い文字が彫られた、まさに聖剣といった姿があった。
エクスカリバーという聖剣の中でも一番有名であろう名前に、イツキは興奮を抑えられなかっただろう。……充電式という異物が混入していなければ。
「……えっなにこれは?」
「……どうした?」
レンはてっきり光り輝く剣を見て、イツキが興奮すると思っていたので、イツキが困惑する態度に逆に困惑を隠せない。
「……エクスカリバーかと思ったら、充電式とか付いてるせいでおもちゃにしか見えなくなった」
充電式という言葉のせいでイツキの脳裏には、乾電池で動く剣の玩具というイメージで固定されてしまっていた。
「だが、エクスカリバーということには変わりないんだろ? 落ち込んでないでさっさと試すぞ」
イツキよりレンの方が興奮気味にエクスカリバー(充電式)をイツキから奪い取る。エクスカリバーを手に持ったレンは中々に様になっており、それこそ聖騎士のようだった。
「これで純白の甲冑を着けたら完璧だね」
「……何を言ってるか分からないが、遊んでないで実験するぞ」
レンはエクスカリバーを振ってみたり、突いてみたりと動かしてみる。
「結構重たいな……筋力強化がなかったら危なかったかもしれない」
「俺にも持たせてよ!」
時間が経って充電式だろうが、エクスカリバーを持ちたくなったイツキは、レンにエクスカリバーを渡してもらう。
「お、重い……」
イツキはエクスカリバーを持ちきれず、先端を地面に突き刺す。
「やっぱり、エクスカリバーって言ったら、こうやりたいよね」
イツキは突き刺したエクスカリバーの柄頭の上に手を重ねて置く。
「……お前が楽しいんだったら別に良いが、お前には重すぎて使えなさそうだな……」
「……そうだね」
先程までおもちゃと馬鹿にしていたイツキは切なそうに呟くのだった。
「──でも、エクスカリバーだったらビームが撃ちたいよね」
「……剣なのにビームなのか?」
剣とビームが結びつかないレンは疑問を浮かべたが、イツキはそれを無視して自分では出来ないのでレンにビームを撃たせようとする。
「ほらほら、剣を上に持ち上げたら、エクスカリバーッ! って叫んびながら下に振り下ろして」
「それこそ、お前が言ってたおもちゃでのごっこ遊びだろ……」
「いいじゃん、ごっこ遊び。……俺子供だから楽しいなぁ」
「都合のいい時ばかり子供になるなお前……」
レンは文句を言いながらも何時もやろうとするので、イツキが調子に乗ることに気づかず、律儀に剣をイツキから受け取る。
そして、イツキの指導の元に剣の柄を頭まで持ち上げて、叫び声と共に思いっきり下に振り下ろす。
「エクスカリバーッッ!!」
──振り下ろした剣先から光の本流が溢れ、真っ直ぐに地面を抉りながら突き抜ける。
「…………」
「ほんとに出ちゃった……」
二人はエクスカリバーが作り出した惨状に立ち尽くす。地面は抉れて茶色がむき出しになり、少し先にあった森はまるで切り開かれたように、真っ直ぐに木々が消滅していた。
「……おい、イツキこれを見てみろ」
イツキはレンに言われて惨状から目を離し、レンを見るとエクスカリバーが元の錆びた剣に戻っていた。
「……充電切れってこと?」
「そういうことなのかもな……」
充電式なので何かしらの充電方法があると考えたイツキたちは、この世界では燃料的な扱いの魔力をエクスカリバーだった錆びた剣に注いでみる。
「どうやら魔力は受け付けないみたいだな……」
「この世界に電気とか無さそうだしなぁ」
イツキとレンが考察していると、剣の錆の一部がポロリと剥がれ落ちる。
「……錆が落ちたね」
「本当に地面に落ちたがな……」
「なんでだろう、時間経過とかかな?」
「……もしかして、太陽光じゃないのか?」
「ありそう……」
確かに二人は外で錆びた剣の実験をしていたので、その可能性は高かった。
「錆びた剣はしばらく野ざらしだね」
「そうだな」
二人は錆びた剣が本当に太陽光で充電されるのかを確認するために時間潰しとして、本来の目的であった戦闘方法の模索を始める。
ホームランバットでの回避や業火の炎での攻撃方法を実際に試してみたりする。
ホームランバットでの回避は『防御強化ⅱ』により、怪我をしなくなったので有用そうであったが、業火の炎は前の実験通りに荒い使い方をすると、すぐに火が消えてしまった。
……こう考えると自分たちの攻撃手段の少なさにレンは頭が痛くなる。レンは課金者ギルドの依頼が終われば、真剣に自分たちの強化をしようと決めたのだった。
……そして、日が暮れ始めた頃だった。
「……錆びた剣がエクスカリバーになってる」
地面に突き刺して放置されていた錆びた剣は、再び輝きを取り戻していた。
「太陽光で正解みたいだな」
二人は結果に満足したが、あまりにも高火力過ぎるエクスカリバーの使い道に困る。
「こんなの人に撃ったら消し飛びよね……」
「基本的には魔物に使うことになるだろうが、昼から夕方まで充電が掛かるからな。ここぞという時に使わないとダメだな……」
「面倒臭いことはレンに任せた!」
「……そもそもお前はエクスカリバーを持てないだろ」
レンは光り輝やいて目立つエクスカリバーを次元収納に仕舞い、二人は始まりの街の門が閉まる前に急いで帰った。
……翌日はジュリアたちの騒動に巻き込まれたり、慌ただしく過ごしながら、こうして依頼当日となったのだった。
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