22.王都ガチャ

 



「では、よろしく頼みますね」

「イツキくん、気を付けてね……」

「頑張ってください」


 課金者たちが慌ただしく動く早朝、課金者ギルドの受付嬢であるアルペラと、どこから嗅ぎつけたのかジュリアとニジホがイツキたちの見送りにやって来ていた。


「大丈夫なのレン、運転できるの?」

「安心しろ、バリバリのペーパーだ」

「安心要素ゼロじゃん……」


 二人は課金者ギルドからの依頼で王都へと向かうため、ギルドに魔鉄車を一台貸し出したもらっていた。それで運転するのはどちらという話になったのだが、運転免許を持っていないイツキは当然論外であり、運転手としてペーパーだがレンに白羽の矢が立ったわけだ。


「……なんだか私まで心配になってきましたけど、道なりに進めば王都に着くはずです。王都に到着しましたら、課金者ギルドの支部で職業抽選紙を受け取ってくださいね。……絶対に失くしたり奪われたりしてはダメですよ。……そうなってしまったら、ギルド追放もあるかもしれません」


 念押しするアルペラにイツキは頷いた。


「しっかりと仕事を成し遂げてギルド内の評判を上げてまいります」


 謎に敬礼をしてからイツキとレンは始まりの街を出発したのだった。


 久しぶりの運転であったレンだったが、元の世界の車と運転操作があまり変わらない魔鉄車は、自分で思うほど上手く運転できていると感じていた。


 始まりの町を出て少しすると、レンが横に座るイツキに話しかけてくる。


「……なあ、イツキ。人間なのに運が一切ないって有り得ると思うか?」

「藪から棒にいきなりどうしたの?」


 レンは不可解そうな表情を見せると運転しながら語り出す。


「さっきアルペラが見送りに来てただろ?」

「来てたね」

「今日始めて『幸運視』でアルペラの姿を見たんだが、あいつには一切オーラがなかった……」

「めちゃくちゃ運が悪いってこと。可哀想だね……」


イツキは呑気そうに運がないアルペラに同情していたが、レンはそんなことがあるのかと疑問を持ち続けるのだった。


 疑問が残る一方、レンの運転は順調でありしばらくは快調だったのだが、左右に分かれている道で立ち往生していた。


「どこが道なりなんだ……道が分かれてるんだが?」

「……でも大丈夫。俺たちは今からでも入れる保険に入ってるから」


 イツキはそう言って導きの杖を地面に倒す。すると導きの杖は不自然な動きで右側に倒れた。


「これがなかったら危なかったね……」

「帰ったら文句言ってやる……」


 途中で魔鉄車に交代で魔力供給しながら二人は草原を抜け、山道を走っていく。途中で空が暗くなり始めたので二人は山の平坦な場所で一晩明かすことにした。


 二人はまず次元収納から時代にそぐわないキャンプ用品を取り出した。そしてテントを組み立てて、魔道具で焚き火を起こす。こうして野営地を地 作り上げたのだった。ちなみにこれらは課金者ギルドが出資している店で買ったものである。


「しっかりとテントの中で眠れるのはいいよね。ギルドマスター万歳!」

「好き放題し過ぎな気がするがな……」


 二人は呑気にキャンプ気分で食材を鉄の串に刺して、焚き火で焼いて食べる。この世界には調味料は少ないので、素材そのままの味だったが、雰囲気の力もあり美味しく感じられた。


「先に私が見張りをするな、起こしたら起きてくれよ」

「うん、分かった。じゃあ、おやすみ!」


 イツキの返事に不安を隠せないレンだったが、イツキは起こすとしっかりと目覚め交代したのだった。

 こうして、特に魔物が野営地を襲うというハプニングもなく朝を迎え、キャンプ用品を片付けた二人は魔鉄車で今日も王都を目指し走り続ける。


 そして昼になった頃だった。二人の視界に巨大な城壁で囲まれた王都の姿が入った。


「おおーまさに異世界って感じの建物だ!」

「……中々に迫力があるな。王都ってだけはある」


 イツキもレンも観光気分で感想を言い合う。魔鉄車はしばらく進み、王都に入ろうとする列に並んだ。近くから見る王都の城壁は威圧感が凄まじい。少ししてイツキたちの順番が回ってくる。


「お二人は何しに王都へ?」

「課金者ギルドの使いだ」


 レンはそう言ってアルペラに渡されていた、入国する用事などが書かれた入国書を門番に渡す。


「……そうですか、あなた方が受け取るはずだった方なんですね……」

「……それはどういう意味だ?」

「詳しいお話はギルドの方で聞くといいですよ」


 門番の不穏な言葉に胸をモヤらせながら、魔鉄車は王都の中へと入った。


 王都は始まりの街のように道の整備はされておらず、魔鉄車が二台並べばギリギリの広さだった。行き交う人々の中には課金者の姿は少なく、質素な色の服を来た人たちで溢れている。

 こういった始まりの街との違いを楽しみながら、二人は徐行で王都の道を走る。


「そういえば課金者ギルドの支部ってどこにあるんだろ? レンは知ってるの?」

「あぁ、大通りを真っ直ぐ行けば、始まりの街の課金者ギルドと似ている建物があると言ってた」


 しばらくするとレンの言う通りに課金者ギルドに似た建物が見えた。……一回り小さい建物だったが。


「小さいな……」

「支部だしこんなもんなんじゃない?」


 レンは課金者ギルド横の駐車場に魔鉄車を停める。そうして二人は課金者ギルド支部へと足を踏み入れようとしたが……何故か入り口が開かない。


「開かないぞ……」

「そういえば門番の人が何か言ってたよね……」


 レンは入り口の両開きのドアを叩く。その音に気付いたのか、扉の中から女性が顔を出した。どうやら女性はメイドのような服装からするに受付嬢らしい。


「……申し訳ありませんが、課金者ギルドは今日はお休みなんです。また後日お越しください」

「……違う、私たちは職業抽選紙を受け取りに来た、課金者ギルドの受付嬢だ」

「……あぁ、そうでしたか。どうぞお入りください」


 覇気のない受付嬢に案内され、二人は課金者ギルド支部の中へと入った。


 ──その中はそこらじゅうが荒らされ、廃墟のような姿だった。


「……これは酷いな」

「……何があったんですか!?」


 受付嬢は言いにくそうに視線を逸らしながら、ポツポツと話し始める。


 今朝ギルドを開ける番であったこの受付嬢がギルドに来ると、既にギルド内はこの有様だったようだ。そして、何が盗まれたか確かめたところ、課金者ギルド本部に運ぶはずだった職業抽選紙が全て盗まれていたとのことだった。


「不味いな……」

「俺たち追放されちゃう!!」


 アルペラの〝ギルド追放〟という言葉が二人の脳裏をよぎる。


「衛兵に通報したのですが昼になっても進展がなく、昨日ギルドの戸締りだったわたしのせいだって他の受付嬢は言うし、ううっ、このままじゃわたし、クビになっちゃう……」


 膝から崩れ落ちて泣き始める受付嬢を見て、こっちが泣きたいとレンは苛立つ。


「……このままじゃ、私たちもお前もギルドをクビだ。だからってな、メソメソ泣いてる暇なんてないんだ! お前もクビになりたくなかったら私に協力しろ!」

「…はっ、はいいぃ!!」


 泣いてる受付嬢を脅しつけたレンは作戦を話す。


「私たちには探し物を見つける能力がある。お前はそれを信じて戦力を集めろ。分かったな!」

「分かりました! はい!」

「なら今日の夜にギルド前で待ち合わせだ。犯人がいつまでここに留まるか分からないからな」

「イエッサー!!」


 受付嬢はもしかしたら自分がクビにならない可能性を信じ、またレンに脅されてギルドを飛び出していく。


「私たちも犯人の居所を探すぞ」

「──導きの杖の出番だね」


 やることが決まれば即行動、二人は受付嬢の後を追うようにギルドを飛び出た。


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