第12話言い合い
私は覚束ない足取りで席に戻ると、
花梨は眉間に皺を寄せてブスッとしていた。
次々に挨拶の人が訪れてくる。
無限にも感じる時間と、無数の視線。好奇の目。
(この針の筵から…帰れない…って…?)
私はてっきり、石と化した宝石の輝きを取り戻せば元の世界に帰れると思っていた。
(それにティアナという女性は…聖女…なのよね…?)
聖女ということは異世界からの漂流者ということになる。
ティアナは石を宝石に戻せなかったということなのか、それとも…
(一体、この世界は…)
エリオル王太子を見る。
「…怒っているのか」
「エリオル王太子、なぜ今まで黙ってたんですか。周りの人も誰も言わなかった」
「ティアナのことか。帰れないことか」
やや沈黙があって、エリオル王太子はぽそりと言った。
「君は帰れない」
「…哀れに思って結婚してくれるんですか」
「違う、そうじゃない」
「じゃあどうしてですか」
「やめろ。嘘のわかる君が追求したらいつか答えに辿り着くんだろう。それとも、心の声でも聞くか」
言ってエリオル王太子は親指で自身の心臓あたりを指した。
「エリオル王太子…あなた…」
「幻滅すればいいさ」
「…嘘」
国王が咳払いすると、側近が耳打ちした。
「君たち、それくらいにしたまえ」
「ですが父上」
「うむ。ユーナ、カリン。落ち着いていなければ聞けない話じゃろうて。我々もな、考えあって今まで黙っておった。すまない」
国王の言葉を受けて、エリオル王太子も口を挟んだ。
「君たち、この世界に召喚されて、ただでさえ動転してるだろうに何だか険悪だし、会議室で倒れるし、火は出すし。話せたもんじゃなかったよ」
私と花梨は顔を見合わせた。
「私たちのせいですか」
「はーいすいませーん。私たち、ここに来る前から喧嘩してたんで」
「まあ、なんだか色々と騒動があったからの。一人ずつ呼び出して説明するのは、あまり好むところでなくてな」
ふむ、と国王は思案した。
暫く目を閉じて、ゆっくりと口を開く。
「今日は記念すべき祝賀祭だからなあ。まずはパーティを楽しむとよいぞ」
「父上!」
「エリオル。ユーナを大事に思うか?なら、場所を変えねばなるまい」
国王はじっと私を見つめた。
「ユーナ、君は聖女の力を覚醒させたね?」
(気づいている!)
「っ…!黙っていろと言ったのは僕です」
すうと息を吸うと二言目に国王は意外な事実を口にした。
「そしてカリン、君もな」
(え…カリン、も!?)
「バレちゃいましたか」
花梨は意外なほど冷静だった。
グノーシス伯爵は知らなかったのか、明らかに動揺している。
「君たちはこの世界の犠牲者だ。今後も手厚く見守るよ」
国王は前を見、ホールの貴族に向けて手を上げた。
建国記念の祝賀祭が始まる。
一方のエリオル王太子は耐え難いというような表情で俯いた。
「さあ、そろそろ聖女たちを紹介する時間だ。話はその後でもいいだろう」
いつの間にか途切れた挨拶の列。
明るい午後の日差しが窓から差し込んで、この国の最高位、レオンダイナル国王陛下を照らした。
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