第22話ティアナの憂鬱(2)
聖女が救うこの世界で、王子様と結婚すると聞いて私は夢が叶った気持ちだった。
それに、ティアナが見たエリオル王子は、子どもの頃に見た絵本の王子様そのものなのだ。
(まるで雪王国の物語みたい…!)
でも、自分だけが完璧じゃない。
母譲りの茶色い目と髪。
いくら美しいドレスで着飾っても満足できなかった。
(この王子と釣り合うには、金髪と青い目が必要だわ)
やがて、私は植物と話せるようになり、薬や毒を作れるようになった。
「金髪に青い目になる薬は作れないかしらね」
《それは無理だろう》
「役立たずな力だわ」
《それよりティアナ、こないだ精製していた薬は何に使ったんだ?》
「何でもいいでしょ」
エリオル王子に擦り寄る、気に入らない令嬢に飲ませたのだ。
1週間ほど寝込んだ挙句、目が見えなくなったと聞いた。
(身の程を知らない女だわ。今度は、もう二度と踊れなくしてやろうかしら)
勿論、植物と話せることや、薬が作れることは公言していたが、毒が作れることは誰にも秘密にしていた。
(虫を追っ払うのに、その虫に警戒されては困るもの)
薬が作れることは社交界で一目置かれた。
この国では漢方が主流だったからだ。
風邪から肥満に効く薬まで広く作った。
社交界で一目置かれるのに時間はかからなかった。
「聖女様」と呼ばれ、尊敬される心地よさにどっぷりと浸かる。
自己肯定感が満たされていく。
この世界を救うには宝石の輝きを取り戻すこと。
私は泉に願った。
(輝く宝石の様な美しさをどうか私に授けてください)
泉から戻った私を見て皆が歓声をあげた。
宝石が元に戻ったのだ、聖女の願いが叶えられた、と。
見よ、聖女様は宝石の様な美しさを身に纏われた、と。
でも、いつまでも宝石の輝きは戻らなかった。
当たり前だ。宝石の輝きは私が貰ったのだから。
それでも、誰も何も言わなかった。
なぜ?
私は美しいから。
私は聖女だから。
私は王子様と結婚するから。
しばらくして、採石場所で事故があったと聞いた。
宝石が戻ったと思い込んだ人々が大挙して押し寄せた場所が落石したらしい。
そんなの知ったことではなかった。
私は薬を皆に与えたじゃない。
次は私が貰ったって良いはずよ。
今更気づいても、もう遅い。
美しい私を、聖女の私を、お姫様の私をとやかく言う人はどこにもいない。
エリオル王子、完璧な私を見て。
その後、いくら待ってもエリオル王子と私の婚約式は行われなかった。
あれよあれよと言う間に一年が過ぎようとしていた。
その間沢山の手紙を送って、何度か返事が来た。
その内容は、婚約を白紙に戻すと言うものが大半で、そんなことをして私との愛情を量ろうとする王子が
「可愛くて仕方ないわね」
でもね、おかしな女が現れた。
自分が聖女だと言うの。
笑っちゃう。
この世に聖女は一人でいい。
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