第25話ティアナを断罪する!

ティアナは王宮の中ををずんずん進む。

老齢の執事を捕まえて襟を鷲掴んだ。


「エリオルは!エリオルはどこ!?」


「なんと、ティアナ様…!?ご勘弁下さいませ!お会いさせるわけにはいきませぬ…!」


「役立たず!」

そのまま執事を突き飛ばす。

執事は転倒して呻いた。

ばたばたと人が集まってくる。


「エリオルはどこなの!?会わせなさいよ!」


集まる使用人達を睨みつけた。


「ティアナ様、どうか落ち着かれて下さい」

「勝手に困ります!」


その場を諌めようと口々に懇願の声が聞こえる。


「エリオルに会うまで帰らないわよ!」


そこに、遅れて駆けつけた優奈が現れた。

先ほど優奈を神殿に案内してくれた執事が尻もちをついたまま青い顔をしている。

息を切らして優奈は執事に近づいた。


「大丈夫ですか!?」

「どうやら、腕の骨をやってしまった様です…歳は取りたくないものですな…」

執事の言葉を受けて私はティアナを睨んだ。

「ティアナ、あなたが!?」


ティアナは青い目をこちらに向けた。

「あら、だってエリオルに会わせないと言うんだもの。いらないじゃない、そんな執事」

「なんですって…!?」

「ユーナ様!ティアナ様はどうも様子が変です。ユーナ様はお逃げ下さいませ」

執事が私の袖を掴んで必死に訴える。

「何を言うんですか!だったら尚更そのまま逃げるわけにはいかないわ!」


その時、その場にいた誰もが動けなくなる様な威厳ある声が響いた。


男性の割には高い声。


「執事に手を出したのは貴様か、ティアナ」

「エリオル!会いにきてくれたのね!?」


使用人達はエリオル王太子の出現に慌てふためいた。

「王太子様、なぜいらしたのです!」


「うん?廊下が騒がしかったんでな。おや、ユーナもいるのかい」

「はい、おります」

「ははは、君は勇ましいな」


エリオル王太子は目を瞑ったまま、メイドに脇を支えられていた。


「行って差し上げて下さい」

そう執事に言われ、エリオル王太子に触れようとしたその時。


「触らないで!アンタもよ!使用人の分際でエリオルに触らないでよ!」


私は手を叩かれ、メイドは突き飛ばされた。

メイドはよろめき倒れた。

「きゃあ!?」

私はメイドに駆け寄る。


「エリオル、何で会ってくれなかったの!?」

「…触るな」

「え?」


「僕に触るなと言った。ティアナ」

「まあ!人が見ているところでまで私の愛を確認しなくても良いのですよ」


「ユーナ、どこだ…いるんだろ?何をされた?」

「…メイドの方が突き飛ばされたので、一緒におります」

「ティアナ、貴様、王族の使用人に二度も手を上げたな?」

「あら?それがなんですの?使用人なんて使い捨てのゴミでしょう?エリオルに触るからいけないんだわ」


私はハッとして、言った!

「エリオル王子!毒を盛ったのはティアナです!」

「なに!?」

「正確には違うわ。私が作った毒を侍女が飲ませたのよ。役立たずね、間違えてエリオルに飲ませるなんて」

「いや、あの侍女が間違えたんじゃない。ユーナの飲むお茶に万が一毒が入っていたらと、僕が毒見したんだ」


ティアナはよくわからないと言う顔をした。


「え?ちょっと待って、エリオルが?なんで?」

「ユーナが大切だからさ。誰よりも」

「どうして?私たちは婚約しているでしょう?」

「何を言っている?婚約式はしていないし、婚約者でもなんでもないじゃないか」

「分かった、またそうやって私の愛を確かめようとして…」

「いや、無理」

エリオル王子はビシッと言った。

その場にいた全員が固まった。


「考えてもみてくれよ、確かに召喚したのはこちらだよ?…まあ正確には神殿側だけどそこは置いといて。聖女だから結婚しなさいと言えば国のためにするさ!でも君は何をした?宝石の輝きを自分の美しさに変えてしまっただろ!どうするんだよそれ!?そんな奴が将来この国の国母になるなんてゾッとするよ!毒まで盛って!僕にだって選ぶ権利があると気付かされたさ!あとその目、キラッキラして無理!反射で光るんだもの!こわい何それ!あと髪の毛もさ、金髪じゃなくて金?金糸?金でできてるよね?こわいよ!」

「…もしかして、私昔の方が良かった…?」

キョトンとした顔でティアナは言った。

「いやー、昔がどうだったか覚えてないけども…興味がなさ過ぎて…申し訳ないけれど…」

「あ、だからそんな地味な女を…!?」

ティアナは私を指差した。

「いや、ユーナは地味じゃないぞ。可憐で美しい。すごいかわいい。あと、考え方がちゃんとしてる。尊敬できるところも多いぞ。そういうのも大事なことだな、うん」

私は慌ててエリオル王子を止めた。

「ちょ、ちょっと、エリオル王子?目が見えるようになる為にはティアナの植物を操る力が必要なんだそうです!そんなこと言って協力してくれなかったらどうすんです」

ティアナはなるほどと手を打った。

「あら、良いわね。私と結婚してくれるなら目を治してあげるわよ?」

ティアナは先ほどまでの勢いを取り戻した。

しかしこれにもエリオル王子は固辞した。

「えー、いや、良いかな…目が見えるようになってもティアナと結婚するのは無理…無理だなあ…うーん。毒を盛る様な人、嫌だろ、普通に」

ティアナはその場にへたり込んだ。


そこへ、国王陛下が現れた。

使用人達は皆頭を下げた。

そして、私たちを見回して国王は言った。


「ティアナを捕らえよ。手が空いているものは怪我人を運びなさい。それからティアナはエリオルの目を治しなさい」

「いやよ」


使用人達は縄を持ってきてティアナを縛り上げた。

「ちょっと!聖女に何すんのよ!痛いわね!は、離しなさいよ!」

縛られてもなおジタバタと暴れている。


「ふむ、君は使用人に怪我をさせたね。王太子が自ら飲んだとは言え、王族に毒を盛ったのだぞ。ただで済むと思うのかね?」

「あら、私は聖女よ。使用人なんてゴミクズ、私が何しようと良いじゃない!」

ため息をつきながら国王は言った。

「エリオル…本当にティアナと結婚しなくて良かったのお」

エリオルはやや笑って言う。

「お陰様で」


国王はティアナを見据えて言った。

「その諸々の罪、エリオルの目を治したら減刑してやらんでもないがどうかの?」

「絶対に嫌」

「不敬罪どころではないからのお、王族に対する殺人未遂じゃからなあ。死罪は免れないと思うが…」

「結構よ。私は聖女なのよ?私が死んだらこの世界は救われないわ」

「おや、聖女はここにおるがな」

国王は私を指した。

「そんな女、聖女なわけないでしょ!馬鹿馬鹿しい。聖女は私一人で十分なのよ」


国王は私に向き直って言った。

「ユーナよ、なにか神殿でできるようになったかの?」

「心を癒すことができるようになりました。それから、心を読むこともコントロールできるようになりました」

「ふむ…」

私は何かピンときて

「ティアナに、ですか?」

国王は深く頷いた。


ティアナに手をかざす。


「ちょ、なに?やだ、何するのよ?」

「あら?どうして怖がるの?聖女はあなただけなんでしょう?」

「ひっ!」


ティアナの額から、しゅうしゅうと黒い煙を吸い上げた。

ところが、吸っても吸っても黒い煙はもうもうと湧いてくる。

私も煙を吸うたびに、どんどん疲弊していった。

いつ終わるともわからない煙を手のひらが吸っていく。


「なんだ、これは…」


あたりを煙が立ち込める。

ティアナは少しずつ落ち着いていくが、煙は上がり続ける。

どれだけ時間が経ったのか、私はティアナから湧き出る煙をようやく全て吸い切った。


ティアナはすっかり大人しくなった。


「心に羽が生えたように軽やかだわ…。あなたは、本当に聖女なの?」

私はこくりと頷く。

「じゃあ私は?私も聖女よね?」

縋るようなティアナにエリオルは厳しく言った。

「聖女なら宝石を戻してみせろよ。できないだろ?君は美しさと引き換えに聖女であることまでも捨てたんだ」

ティアナはがくりと項垂れた。


「…エリオル王子の目を、治します…だから、せめて私を聖女と呼んで…」

「…解毒の薬をよろしく、聖女サマ…」

エリオルは深いため息をついた。


「アンタ達もよ!」

言われて使用人たちは顔を見合わせて、ため息交じり言った。

「聖女サマ、エリオル王太子を治してくださーい」

「せーじょさま、お願いしまーす」

明らかに馬鹿にしているように聞こえるのだが、聖女と呼ばれれば、ティアナはもう何でも良かったようだ。


ティアナはすぐに薬を精製すると約束して、連れていかれた。


私は身体の感覚がなくなっていた。

ふるふると震え、エリオル王子が何かを言っているようだったが何を言っているのか全然聞き取れない。


景色が暗転して


どさり、とその場に倒れ込んだ。

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