第14話エリオル王太子が大変です!
それから優奈は何人かの男性の誘いを受けた。
「ダンスができない」と一様に断ったが、誘う男性側は、「ダンスは男性がリードするものだから」と言ってくれたので何度か踊った。
みんな意外と優しかったのだ。
花梨はというと、グノーシス伯爵と踊ったきり、席に戻ってしまった。
(それにしてもセイレス伯爵、見ないなあ)
来ているはずの伯爵の姿を探している内に、いつの間にかバルコニーまで来てしまった。
話し声が聞こえる。
そこにいたのは、ティアナとセイレス伯爵だった。
優奈は驚いて思わず隠れた。
(び、びっくりした。つい隠れちゃったけど、二人が一緒にいたって別に変じゃないし…)
そろそろとホールに戻った。
(知り合いなのかな…何を話していたんだろう…?)
結局その後もセイレス伯爵と話す機会は得られずに祝賀祭は終わった。
国王とエリオル王子、私と花梨、グノーシス伯爵は、王宮の応接室でお茶を待っていた。
「あの、王宮でこんなこと失礼なのですけど…侍女から『自分が持ってきたもの以外は口にするな』と言われまして…」
「ほう?侍女が、な」
「ごめんなさい!王宮にいながらこんなこと言うのは失礼でした」
国王はエリオル王子と目を合わせた。
王子は訝しげに聞く。
「それは…もしかしてセイレス伯爵家の中で、という意味ではないだろうね?」
「…というと…?」
国王は難しい顔をした。
「さて、どうしたものかな」
お茶が運ばれた。
私はお茶を見つめたまま固まってしまう。
その姿を見てエリオル王子が私のお茶を取って一口飲んだ。
「お、王子!!」
「…毒味だ」
(いやいや、ダメでしょ!)
はらはらしながら見守っていると
「おや、心配してくれるかい?」
「こんな時にやめて下さい」
「…遅効性かもしれないから、しばらく待とうか」
「うむ、それについては私も同感だ。というより、その可能性が大きいじゃろう」
「国王陛下まで!王子に何かあったらどうするんですか!」
「ん?何かあったら?我が息子ながら身を挺して女性を守ったことに感心するね」
(息子の心配は!?)
「まあ、こうして待っていてもなんだ。話を始めようじゃないか。あ、ユーナはまだお茶を飲まないようにな」
(いやいやいやいや…)
国王が咳払いすると執事がやってきた。
国王は執事に耳打ちすると、白髪混じりの執事は素早い身のこなしで踵を返し去っていった。
「父上、あまり心配されますな」
「馬鹿をぬかせ」
(そりゃ心配しないわけ、ないよね…)
二人はやっぱり親子なのだ。
「それよりグノーシスよ。この嘆願書だがな」
昨晩グノーシス伯爵がしたためた書状だ。
「これは、こうしてこうじゃ」
びりびりと音を立てて破かれた。
「な、なぜ…」
「なぜ?嫁は一人で十分だからな」
ぽかんとするグノーシス伯爵と一同とは対照的に、にんまりと国王は笑った。
「さて、まず二人はあまり力をコントロールできないようじゃが、いずれコントロールできるようになる。私らはそういう力がないもんでうまく説明できんがな。そのあたりについては神殿に行ってみるがいい」
やや間があって、
「そしてユーナは人の心の声が聞こえ、カリンは精霊の声が聞こえる。そうだな?」
私と花梨は頷く。
「自然現象を操る力と聞いていましたが…」
「人も精霊も自然の一部だからなあ」
「しかし、この力でどうやって宝石を元に戻すんです?」
「分からん」
国王はキッパリと言った。
聖女が泉に祈りを捧げた後、どうなるのか全く分からないのだそうだ。
「しかし、君たちの力はそれだけではないと思うぞ。何らかに分類できるはずだ」
言いながら国王はゆったりとお茶を飲んだ。
「…セイロンじゃな」
優雅な姿と高そうなソーサーとカップのセット。
「…それからティアナのことだが」
「元婚約者の聖女さん?」
国王の言葉に花梨が反応した。
「あんまり元元言わないでくれるかい」
エリオル王子は嫌悪感を隠さなかった。
ティアナがこの世界に来たのは大神官が泉に祈りを捧げて一週間後、今から一年前のことらしい。
「彼女はあらゆる植物の言葉が聞ける。果実を実らせることもできれば、腐らせることもできる。木の属性だからだ」
私たちにもそのような力が宿るのかと目を見開いた。
「そうそう、エリオルの保身のために言っとくがな。正式に婚約したわけではないぞ。なぜなら聖女と婚約するには宝石が元に戻らなければならないからな」
「それはどういう?」
これにはグノーシス伯爵が答えた。
「国民にとっては宝石産業が大打撃を受けている中で、婚約式を先んじてはできないからな。国の秩序を取り戻すことが先決だろう」
「そう、聖女だから婚約するんだろう位に思ってたさ。僕も大概嫌な奴だろう」
「いえ、皆もそう思うておりました…」
グノーシス伯爵は王子に言葉をかけた。
ふぅと息を吐くエリオル王子はついで言った。
「どちらにせよ、そのつもりがあったなら同じことだ」
ティアナは泉に祈りを捧げると、次の瞬間消えていた。
どよめきが鎮まらない中、エリオル王子は将来の婚約者を探した。
側近が止めるのも聞かず、ざぶざぶと泉に入った時、ティアナは現れた。
『みなさま、お待たせ致しましたわ』
ティアナは戻ったが、遂に宝石の輝きは戻らなかった。
それもそのはず、ティアナは消える前より遥かに美しく艶めき、輝いていた。
「ああ、この女は輝きを自分のものとしたのだなと…だが、誰がティアナを責めることができる。勝手に呼びつけたのはこちらだ」
エリオル王子は険しい顔をした。
「そして今回は聖女が二人。これもティアナの一件が絡んでいるのではないかと踏んでおる」
言いながら国王が何かを察知したようだった。
「おい!控えておるだろ!すぐに来い!」
扉が開け放たれ、バタバタと初老の男性が礼もそこそこに入室した。
「エリオル!」
「心配されますなと…言ったでしょう」
「エリオル…もう良い。横になれ」
(まさか)
「父上、申し訳ありません。ユーナ、君も気にするな」
エリオル王子は膝をついて、それから倒れ込んだ。
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