第31話王宮へ舞い戻る

とっぷりと日が暮れて、宿を探し回ったが生憎そこそこの宿しか見当たらず、花梨から顰蹙を買った。


「すまない…」

とグノーシスはつい謝ってしまったが、宿探しに奔走した侍従を思えば言っていい謝罪ではなかった。

侍従達にも悪いことをしたと猛省した。


猛省ついでに当てられた部屋のベッドで寝転がりながら考える。

花梨の話は半分も理解できなかった。

「えすえぬえす」というのもよく分からなかったし、「ころっけ」というのも聞いたことがない食べ物だ。


だが要するに、お互いに自分の目で見た真実と価値観以外のことが理解できないのだなということだけは分かった。

どちらが正しくどちらが間違っているというものではないだろう。

花梨の性格はなかなかだと思ったが。

人にはその立場に立ってみて初めて分かることもある。

永遠に分からないことだってある。


女性に股間を蹴り上げられた痛みを理解しろと言っても無理だし

男に子を産む辛さを理解しろと言っても経験できない以上理解するのは土台無理なのだ。


だが、理解できなくても寄り添うことはできるだろう。

想像力を働かせることはできる。


二人が欠如しているのはそこだ。

しかし、それもまたグノーシスの価値観なのである。

そんなことを思いながら眠りについた。



夢を見た。

花梨と二人で知らない世界にいる夢だ。

そこは四角い建物ばかりが建つ珍妙な景色だった。

「ころっけ」を食べた。

白くてふわふわしている。

花梨がソースで絵を描いたが

「上手くできない」と言って笑っていたので、花梨が楽しんで笑うという姿は初めて見るなと思っていたら目が覚めた。


目が覚めて、ため息をつく。

なんだか少しだけうんざりした。




早々に支度を済ませて宿を後にした。


馬車の中で花梨に少し寝れたかと聞いたが

精霊の声に疲れて眠ると、その声にまた起こされるので連続した睡眠が取れないのはキツいと言われたが、その表情はどことなく柔らかかった。


そこから王宮にたどり着くまで一言も言葉を交わすことはなかった。


登城して、エリオル王太子に取り次いで貰おうとお願いしたが、

なんでも薬を飲み終わるまで待って欲しいと言われ、応接室で花梨と二人待たされた。

そうか、意識が戻ったとはいえ本調子ではないのだろう。


優奈も王宮に滞在しているとのことで、優奈だけでも会えないかと聞いたら、こちらもやはりエリオル王太子絡みの所用ですぐには面会が難しいと言われてしまった。


至急である旨を伝えたが、なんだか王宮内がバタバタと忙しなかった。


先触れもなく突然舞い戻って再訪したのだから、取り次ぐのに時間がかかるだろうことは予想していたが待っている時間というのは心がすり減る。


日が高くなってきた。

既に4杯目のお茶が運ばれている。

不意にはめ殺しの窓の外を見ると優奈が歩いていくのが見えて、咄嗟に扉の方へ走り出した。

その時


扉が開いた。


「やあ、すっかり待たせたね。一体どうしたんだい」


声の主はエリオル王太子だった。

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