第10話元聖女
エリオル王子にエスコートされてホールへと進んだ。
(う、視線が痛い…)
「あれが聖女…?」
「王太子様がなぜエスコートされてるのかしら?」
「エリオル王太子だわ」
「ティアナ様が見たら大変よ…」
密やかな囁きは集まればざわめきとなる。
(ティアナって誰じゃい。エリオル王子の取り巻きかしら?)
玉座の前へと歩んだ。
「国王陛下にお目にかかります。帝国の王太子、エリオル・ライオネルでございます」
エリオル王子は絵で見るような美しい所作で流れるようにお辞儀をした。
(集中しなければ…)
スカートの裾をついと上げ、片膝を曲げる。
「国王陛下にお目にかかります。アランロルド・セイレス伯爵が後見人を務めます、優奈・木之本でございます」
「おお、二人とも、ばっちり決まっとるな!優奈、君は鮮やかな色のドレスが似合うな!そしてエリオル、警備ご苦労。はっはっは!」
「父上、よしてください」
(さっきまで凛々しかったのが、急に彼女を連れてきて家族にからかわれる息子みたいになったな)
聴衆のざわめきがそこここで聞こえた。
「警備?」
「なんのことかしらね…」
「あ、ティアナ様がいらしたわ…」
(だからティアナって誰。まずそうな気しかしない…)
「さあ、つかえてしまうから、こちらへ」
エリオル王太子は私の手を取り幕を潜って玉座へと続く廊下へエスコートしてくれた。
王太子は勿論だが、今日は私たちも紹介されるので国王陛下の一段低いところに座るのだ。
「あの、エリオル王太子様」
「ユーナ、今日は余所余所しいな」
「それはそうでしょう。式典中なんですから」
「今父上に挨拶している彼女のことが気になるかい」
私は答えに困った。
「妬いてくれるかい、嬉しいね」
「嘘」
「ティアナはな、一年前にこの世界に来た聖女さ。僕の元婚約者だ」
「…はい?」
「面白いだろ、この腐った世界は」
エリオル王太子は困ったような顔で笑った。
歪んだ笑顔だった。
「さあ、段差がある。気をつけて」
私の手を取り前を進む王太子の手は、ぎゅうと力が込められていた。
「やあティアナ、君も来てくれたか」
国王陛下が少し低い声で言う。
「生活に困るようなことはないかね?」
「お陰様で不自由なく暮らしておりますわ」
「それは何よりだ」
どんな女性なのか…私はエリオル王太子の後ろからこっそりとその姿を見た。
金髪に青い目。
まるでフランス人形のような
恐ろしいほど美しい女性だった。
「後がつかえますので、私はこれで失礼しますわ」
一礼して、ティアナが顔を上げる。
そしてティアナは私をまっすぐ射抜くように見据えた。
そして、微かに首を傾げ、くすりと笑った。
私は、その場にへたり込みそうになった。
(あれは、本物だ)
異世界がいくつあるのか分からないけれど、まるで中世ヨーロッパの貴族のような出立ち。
「…狸め」
国王陛下がボソリと呟いた。
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