第35話奪われた光を奪還する作戦 1

「【ユーナの闇の力でティアナから輝きを取り戻して、カリンの光の力で宝石に戻す】んだって」



精霊の言葉を受け、私たちは考え込んでしまった。



ティアナが素直に、奪った輝きを差し出すだろうか。

何もかもを無くしたティアナの最後に残ったプライドがそれだ。

無理に奪ったらティアナは一体どうなってしまうだろう。




しばらく続いた沈黙の後で花梨がボソリと言った。

「そんなの気にする必要があるのかな」

するとこれにグノーシスが答えた。

「むう、儂が思うに、あまり刺激しない方が良いだろう。彼女には仮にも聖女の力があるのだ。敵意を駆り立て無い方が得策といえよう。事を大きくせず、無益に荒立てない策を練ろうではないか」

「それにはグノーシスの意見に同意する」

とエリオル王太子も加勢した。


私は混乱した頭で考える。

一体どうすれば良いだろう。


「無理かもしれないけど、一度ティアナにきちんと話すしかないかと思います」

気がつけば私なりの思いを口にしていた。


「それは…難しいだろう…もしかしたら一生お願いし続けることになるかもしれないぞ」

エリオル王太子も難しい顔をして言った。



「紛糾しとるな」

威厳のある声に誰もが振り返ると、そこには国王陛下の姿があった。

「いやあ、声をかけたのだが反応がなかったんでな、扉の向こうはさぞ激論を飛ばしておるのだろうと思ってね。入らせてもらったよ」


そんな父親の言葉に息子は苦い顔をした。


「王太子殿下、そしてお集まりの皆様、私も失礼して良いでしょうか?」

国王陛下の後ろに控えていたのは、リノーアと共に登城したらしいセイレス伯爵だった。

私の後見人である銀髪の紳士だ。


「セイレス伯爵!私が倒れたので駆けつけてくださったとリノーアから聞き及びました。度々ご心配をおかけして申し訳ありません」


私が目覚めてから、セイレス伯爵は国王陛下となにやら会議をしていたらしく、面会していなかった。


「ユーナは謝りすぎるところがあるね、何も気にすることはない。良くなったみたいで安心したよ」

セイレス伯爵は相変わらずの笑顔で答えた。


「ところで諸君、ティアナから宝石の輝きを取り戻す手立てについて大討論中かな?」

「…父上、あまり茶化さないでください」

エリオル王太子の言葉を左手で遮って続けた。


「もし、良ければ私とセイレスの考えを聞いてくれんかの?」


セイレス伯爵は満面の笑みで一歩前に歩み出た。

聞けば、セイレス伯爵はグノーシス伯爵にも劣らない優秀な人物なのだと言う。

国王陛下も一目置いているようだった。

長丁場の会議の末、国王陛下とセイレス伯爵が出した結論とは如何なるものか


皆の視線を一身に受けた銀髪の紳士は意外なことを口にした。



「聖女ティアナの華麗なる祝賀祭を開いてはどうだろうか」



「ご冗談を……」

エリオル王太子が苦笑いのまま後退りする。


「冗談?何を言います。このセイレス、王太子殿下に冗談で提案をするようなことがあるでしょうか」

セイレス伯爵はいたって真面目に言った。


エリオル王太子だけではない、花梨も私も戸惑い視線を泳がせた。


しかし、グノーシス伯爵だけは違った。

大きく頷いている。

「なるほど、セイレス伯爵はやはり、なかなか頭の切れる方ですな」


訳の分からない私たちは取り残された気分でいた。

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