惑い迷う道のり

第14話 捉えきれぬもの

 月日が流れるのも早く、6月も中旬を迎えようとしている頃。康平は現在、台所にて今日の晩御飯の準備中であったが、当の本人はどこか思い詰めている表情を浮かべていた。今日は雨ゆえに空模様と同じく気分も下降気味なのもあるのだが、今の彼の思考を支配しているのは、怪異との戦いにまつわるものであった。


 琥蒲第三小学校に存在していた七不思議の7つ目を退治し、次なる怪異を退治するために足を使って探していたが、視る能力を使ってもこの近辺はおろか遠くに足を伸ばしてみても全く反応が無く、ネットを使ってみたもののやり方が悪いのか、それらしき情報の影さえ掴めぬ状況下に居た。晴彦と内田も手伝ってくれているが、やはり進展は無く手をこまねいている。


 護るべき母親から一刻も早くこの日常に潜む危機を取り除きたい焦りも、一向に姿さえ見当たらない怪異への憤りもあるが、駈剛はいつもの平静を崩さずに康平へ語りかけた。



(お前の気持ちも分からんではないがな、そう慌てるな。寧ろ頻繁に怪異と出逢うなど今日では、その手の生業だの家系だのであったとしても殆ど無い。それに怪異とて無闇矢鱈と姿を現したり、痕跡を残したりはしたくないものだ。見つからんのも無理は無い)



 料理の手を止めずに駈剛の話を聞いていた彼は、今までの結果を振り返り理解はしている。とはいえ納得はまだしていない、そんな思いが大根を剥いている手と顔に若干現れ始めていた。



(まぁ、そこらの木っ端な怪異どもに喧嘩をふっかけて倒していく事も出来なくは無いが、得られる力は領域の主となった怪異よりも遥かに少ない。働きに対して得られる利が見合ってない対象より、利の大きい奴を倒した方が効率が良い)



 その理屈は至極当然のことであるのは言わずもがな、ではあるが康平の感じているザワザワとした不快感は留まることを知らず、ピーラーが勢いよく動き大根が薄くスライスされた。ミシリ、と何かが小さく鳴った。



(それはともかく、ここのところピリピリしすぎだ。気も休まって無いだろうに探そうとするな、結局俺様達が出来るのは待つことだけ)


「ああもう分かってるからちょっと──」



 黙って、と言おうとしたと同時に左手にあった2分の1カットの大根が勢いよく握りつぶされ、汁とともにバラバラになって飛び散ってしまった。



「あー!」


(おーおー、また派手にやったなぁ。)


「はぁぁぁ……、もう最悪」



 項垂れ落ち込み、溜め息をつきながらもピーラーと手の中に残された大根の欠片をまな板の上に置いた後、散らばった大根を拾い始めた。集めたものは小さなビニール袋に入れて口を閉じ、1度手を洗ったあとペーパータオルで飛び散った汁を拭き取っていく。


 ここまで力が強くなったのは言うまでもなく、七不思議の7つ目を吸収してから。怪異を取り込むことで駈剛の持つ神通力は強まり、憑依先である康平の肉体や身体能力もまた強くなっていくが、逆にそれが普段の生活に悪影響を与えていた。不意に力を込めれば容易く物を壊してしまうようになり、細心の注意を払ってちょうどいい力加減を心掛ける必要が生まれてしまったのである。


 これまでに壊した物は箸、シャーペン、ハンガー、洗濯バサミ、にんじん、コップ、飲料水の入ったペットボトル、消しゴムなどなど。そしてつい先ほど大根まで破壊した。因みにリンゴを片手で破壊するのに必要な握力は約70kgであるが、それでも大根を片手で破壊するには足りない。今であれば52枚重ねたトランプを2つに引き裂くのも容易なのだろうが、彼はそのためだけにトランプを買おうとはしないだろう。


 そして突如として増強された身体能力はこのような弊害ももたらしていた。


 康平たちの通う八尾坂第二高校は進学校として名高く、毎年のように国公立や難関私立へ生徒を最低でも必ず15人は排出するほど勉学面での教育に力を入れている。それと同じように部活動や学校行事にも注力されていたりと、全体的な評判は高いと知られている。この学校に通うために中学二年の夏から受験勉強をする者も少なくないそうだ。


 そんな進学校でも体育の授業というのはあって、部活動に通っている生徒も多い事から運動能力の高さは個人差はあるものの、高水準といっても差し支えない。そしてそんな高水準のグループの中に康平は居た。


 神通力での強化が無かった頃でも、後方宙返りを簡単にやれるぐらいには高く、元より文武両道を体現したような人物であった。その日は体力測定を行うのだが、そこで康平は嫌でも現在の身体能力の高さを自覚することとなった。


 シャトルランでは回数が150を越えても尚余裕の表情であり、しまいには最大回数である247回に届きうる245回で終わった。246回目は走り出そうとしたところ足が絡まって盛大に転けたことで、鼻から血を出して強制的に終了させられた。


 そのまえに握力測定や反復横跳びなども行われたが、これらも異常ともいえる数値を叩きだしたため変な形で目立ってしまった。それもあって普段の生活では力を抑え気味に出さなければと戒める事を選んだのである。


 その事を思い出してか、唇同士を強く押し付け合い、若干頬を膨らませ苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。果たしてこの力に慣れる日がいつか来るのだろうかという不安と、今後も怪異を取り込めば更に強くなってしまうのかという不安が、しゃがんで膝に顔を埋めた康平の溜め息として表れ出ていた。



「日常生活……無事に出来るかなぁ」


(慣れるしかないだろう、そんなもの)



 呆気なくそう言った駈剛に腹が立ってか、鯵を捌いている時、危うくまな板を包丁で割りかけたのだった。








  休日。未だに怪異を探そうとそこかしこを探しているが一向に見つからず、完全に手詰まりであったため気分転換に半ば自分の趣味と化していたことをしに裁判所へ訪れていた。



(……お前な、もっとこう面白味のある場所に行け。何でまたこのような場所なんだ?)


「駈剛の興味なんてどうでもいい」


(おーおー辛辣なことで)



 普段通りの足取りで裁判所の中へと入って行き、顔見知りになった受付に事前に確認した番号を伝え、刑事事件の裁判記録の1つを適当な椅子に座って見始める。


 このような事をし始めたのは、父親を轢いた犯人の罪状が判決されたあとのこと。それからというもの幼いながらも様々な裁判記録を読み、どのようなやり取りがあったのか、どのような判決が下されたのかを調べ、自身が目指す目標のための糧にしているのだ。その根幹にあるのは、決して良いものでは無いのだろうが。


 暫くの間、特に変わったことも起こらずただ静かな時間だけが過ぎていったが、資料を幾度も見ていた康平がその全てをファイルに戻すと、1人の足音が裁判所の一角を占める。何かに満足したのか康平は資料を返却し裁判所から退出すると、体を伸ばして緊張を解した。



「ん〜……っはぁ。駈剛、まだ足を伸ばしてない所は何処だっけ」


(北区、中央区、東区。まだ他にもあるが何をするつもりだ?)


「探索ついでに昼御飯食べたいだけ。中央区は見るところが多いし、先に東区の方に行くよ」



 そう言って康平は歩を進め、階段を降りて地下鉄駅内へと向かい東区方面の地下鉄に乗り込んだ。揺れる車内の窓から見える暗い景色をぼんやりと見て時間が経った頃、停車駅のホームから康平の居る車両に知り合いが1人乗り込んだ。



「あ」


「やぁ」



 およそ180cmの背丈に左側と右側で7:3の比率で分けられた髪とメガネという、いかにも頭が良さそうなこの男は、康平を見るやいなや挨拶を交わしそのまま隣に座った。



「珍しいね東堂君、こんなところで会うなんて」


「それはこちらも同じさ、ここで湖里君と会うなんて珍しいよ」



 彼の名は東堂とうどう 義高よしたか。康平と秀司と同じクラスに在籍し、康平と同じく優秀成績者上位5名の内の1人である。クラス別定期テストでは康平と東堂、そして西園寺の3人が1位を常に争っているが、あくまでそれはテストの場合だけ。康平と東堂は本の貸し借りをしたり、自習しあったり、お互い『東堂君』、『湖里君』と呼びあうぐらいには良好な関係を築いている。



「今日は何処に行くつもりだったんだい?」


「いや、特には決めてなくて。東区には行くけど、行き先は未定というか」


「あてのない旅というやつか、良いね」


「まあそんな……ところかな? 東堂君は今日何しに来たの?」


「行きたいところがあってね」



 そう言って東堂は携帯を取り出し、検索機能を使い康平にあるものを見せた。画面には“6月限定! メロンフェア開催!”と目立つフォントで記載された文字が。



「へー、メロンフェアね。美味しそ」


「自分もこれを味わいに東区の播弖町はりてまち商店街に行こうと思っていてね。差し支え無ければでいいんだが、君も来るかい?」


「ふーむ……。」



 少し悩む様子を見せた康平だったが、これもいい休息になるだろうと考えて、そのお誘いに乗ることにした。



「いいよ、一緒に行こうか。」


「オーケー。実は幾つか店をピックアップしていてね、暫くは自分に付き添ってもらう事になるよ」


「それは別に構わないけど。あ、でも僕お昼まだだから先にそっち食べたい」


「なら好都合だ、最初に行くのは純喫茶店でね。そこで何か食べていくと良い」


「へぇ、スイーツ専門店がやってるイメージなんだけど純喫茶で」



 そんな会話を続けながら地下鉄に揺られること十数分、地下鉄を降りて地上へ出ると、徒歩7分すると目的地である播弖町商店街まで到着した。休日もあってか意外にも人は多いが、そこかしこにメロンフェアの宣伝が店頭や商店街の入口でも行われており、ここに来た多くの人間がこのメロンフェアを訪れに来た客であると理解する。



「このメロンフェア、つい3年前から町興しのために始めたものになっていてね。様々な種類のメロンを取り揃えていて、それらを使ったスイーツも美味しいと評判だそうだ」


「みたいだね、この人の多さが証明してる」


「ここから少し歩いたところに目的の店はある、着いてきてくれ」


「ん、分かった」



 東堂の先導のもと人混みの中を掻き分けながら歩き続けていくと、途中横断歩道を渡り商店街の本筋から離れた路地に入り込む。その路地の途中に建てられた“ビビット”という名の純喫茶の店頭には、メロンフェアの旗と6月限定の特別メニューが描かれた看板があった。


 目的地がここであることを示した東堂は、そのまま店内へと入って行き、続いて康平も入店する。店内はレンガ調の壁とバーのように仕上げられた内装が目を引き、流れるクラシック音楽がより一層店内の雰囲気を別世界のようにさせていた。店員の案内で2人用のテーブル席に案内され、荷物をテーブルの下にある荷物置き用の籠に入れてすぐ、水とおしぼりが運ばれてきた。



「ご注文がお決まりになりましたら、お声かけください。失礼します」



 一礼して2人の座るテーブル席から離れていく店員を一瞥したあと、メニューを取ろうとしたが先んじて東堂が入手しており内容が見える状態で差し出していた。康平はそれを手渡しで受け取る。



「ありがとう」


「どうも。ゆっくり決めてもらっても構わないよ、時間はまだある」



 メニューに一通り目を通していき、今日の気分はどんなものなのかと考えて、康平は蕎麦飯とメロンソース仕立てのサラダを頼むことにした。



「決めた」


「オーケー、すいません」


「少々お待ちください」



 店員の言う通り少し待っていると、少し足早に2人の座る席まで着くと注文表を手に取り、メニューの確認準備を取った。



「お待たせいたしました、ご注文をお伺いします」


「僕は蕎麦飯とサラダを」


「自分はメロンロールケーキ2つとメロンパフェ、メロンゼリーにメロンシャーベットを。あとメロンスムージーをお願いします」


「マジで言ってる?」


「大真面目だが」


「えー……かしこまりました、ご注文を繰り返させていただきます。蕎麦飯とサラダ、メロンロールケーキがお二つ、メロンパフェ、メロンゼリー、メロンシャーベット、メロンスムージーですね。ご提供はご一緒に?」


「お願いします」


「承りました。では、ごゆっくり」



 店員や店内にいた客が東堂の注文内容に対して様々な反応を示しており、個人の好みとはいえスイーツを頼みまくった東堂に驚きを隠せなかった。



「……いつもこんな感じ?」


「いや、今日は特別でね。昨日少し腹のたったことがあったから、スイーツをヤケ食いしてストレスを発散しようと思っていたんだ。勿論メロンが目当てでもあったけどね」


「そのうち糖尿病とかになっても知らないよ?」


「3ヶ月に1回ぐらいの頻度だ、特に問題無いと思うけど」


「まあまあの頻度じゃない? それ」



 康平は提供された氷と水の入ったグラスを持ち、口へと運ぶと中の水を飲んだ。冷たさが喉を通り過ぎ潤いが渇きを癒す。続けて東堂も水を飲み、テーブルにグラスを置き手を離して康平に尋ねた。



「それにしても、珍しい事もあったものだな。こうして出会すというのも」


「あんまり学校以外で会わないしね」


「そうだな。それはそうと、昼御飯がてらに東区へと言っていたが、ここに来る前に何か用事でもあったのか?」


「ちょっと裁判所にね、昔の刑事裁判の記録を読みに行ってたんだ」


「あぁ、そういえば君の目標は確か検事になる事だったね」


「まぁ、ね」


「お待たせいたしました、先にサラダとメロンスムージー、メロンロールケーキになります」



 店員が配膳したサラダが康平の目の前に置かれ、スムージーと二切れのロールケーキは東堂の前に置かれた。机の中央にカトラリーが置かれた後、また一礼して店員が離れた。カトラリーからそれぞれ用途ごとのフォークを取り、いただきますと言って飲食を始めた。


 サラダはメロンソースの甘さに合わせるよう、モッツァレラチーズや塩コショウなどが振りかけられ塩見の効いた味付けとなっており、あまじょっぱい味が口に広がっていく。意外と悪くないと頭の中で感想を述べながら、また1口と食べ進めた。暫くお互い黙々と食べたり飲んだりしていると、頼んでいた蕎麦飯とメロンパフェとメロンゼリーがテーブルに置かれ、それらも食していく。


 ようやく食べ終えた頃には時計が午後1時48分を示しており、2時ぐらいに出ようかと相談しあって休憩時間へと入ったのであった。提供された暖かい煎茶を飲み、東堂は再度康平に尋ねる。



「で、すまない。話を戻すがどんな裁判内容だったんだ?」


「強盗殺人未遂のヤツ。証拠品や目撃証言が揃っているのに、環境がどうこうだの精神状況がどうだのって、テンプレート通りに言ってるような弁護士がちょっと可哀想だったのが主な感想」


「ふむ、他にはどんな感想が?」


「……少し、犯人の供述内容の必死さが分かった気がする」


「というと?」


「具体的に言うのは憚られるけど、ある強迫観念に縛られていたのが分かった。ただそれが自分を苦しめていたとしても、他者に向けるのはアウトだって事を失念していた内容だった」


「なるほど。正直かなり興味深いが、それを聞くのはここまでにしておこう」



 煎茶を1口飲み、喋ったことで乾いた喉に水分を与える。量が残り1口分まで少なくなった康平の分とは裏腹に、東堂の分はまだ残されていた。



「それとはまた別に聞きたいんだが、なぜ検事を目指しているんだ?」



 東堂の問に一時的に康平の口が閉ざされ、耳に入るのが店内に流れるBGMと他の客の話し声だけとなった。ゆっくりと視線を窓の外側の方へと動かせば、拙い走りでどこかへと向かって行く1人の小さな子どもが見えた。それを目で追ったあと、康平は静かに言った。



「ただの私怨さ、それだけ」


「……オーケー。これ以上は自分も言わないでおこう」


「ありがとう。じゃあさ、東堂君の目指してるものって何? 前に聞いたけど、学校じゃ話せないって言ってたし気になってさ」


「ふむ、まあ確かにここなら言っても特に問題は無いか」



 割り当てられた煎茶を1口飲んだ東堂は、そこから自身の目標を語り始める。



「自分は──不労所得が欲しい」


「うん……うん?」


「働かずに金を稼いで遊んで暮らしたい」


「何かトンデモナイこと聞いてるって思うのは僕だけ?」


(見た目に反してかなりの俗物だな此奴)


「不労所得は良いぞ。それを得るまでの道のりは長いが、職場での煩わしい上下関係も無く自分の思い描く悠々自適な暮らしが手に入る。湖里君も含めてこの仕事をしたいと思い描いている人には悪いと思っているが、それはそれとして労働はクソだと思っているからな」


「いやぶっちゃけ過ぎてない? 色んな人を敵に回しかねないよその発言」


「だからあまり学校では言いたく無いんだ。敵に関してはどうでもいいが、内申点に響きかねない発言は控えるべきだと思ったからな」


「それはそうなんだけど、何か違うような……」


「まぁこれが自分の目標というヤツさ。不労所得を得て趣味に生きるというね」


(……なんなんだ此奴)








 午後2時を若干過ぎたあたりで支払いを済ませて店をあとにした2人は、商店街の本筋へと戻ろうとしていたところで1人の警官に呼び止められた。



「すいません少しお話良いですか?」


「はぁ、なんでしょう?」



 以前、悪徳警官に絡まれた康平だったが目の前に居るこの警官からは特に何かを感じることも無かったので、そのまま警官の問に答えることにした。



「実は子どもを探していまして」


「子ども……写真ってあります?」


「何かご存知で?」


「ちょうどこの辺りを通って行ったので、多分その子かなと思ったんですけど……男の子ですか?」


「! ええ、男の子です。もしかしてこんな感じだったり?」



 警官が見せた1枚の写真には、夫婦の間に挟まって笑顔でピースサインをしている男の子が居た。その写真に映っていた男の子を、康平は先程窓越しに見たことがある。



「ああ、この子です」


「どっちの方へ行きました?」


「向こう側へ走っていく様子は見てました。たださっきまで喫茶店に居たので、それ以降は詳しく分からないです。」


「情報提供感謝します」



 警官は胸のトランシーバーに向けて先程出た情報を他の警官に伝えたあと、すぐにその方向へと向かおうとしたため、本来であれば迷惑行為に思われかねないが慌てて警官を呼び止めた。



「ちょ、ちょっと待ってください!」


「なんでしょう?」


「その写真の子、何かあったんですか?」


「見つからないってご夫婦が訪ねに来たんですよ」


「迷子ですか」


「ええ。ただここ最近変な行方不明事件が起きていて、他に5人ほど捜索に当たっているんです」


「行方不明事件?」


「はい。……っと、すみませんが私はこれで失礼します。改めて情報提供、感謝します」



 一礼して康平が指し示した方向へと走っていくのを見届けると、隣にいた東堂と頭の中に居る駈剛の声が重なった。



「行方不明か、怖い話だな」

(おい、反応があったぞ。)


「ちょちょちょ」


「どうかしたか?」


「ああいや! うん、確かに怖いね。行方不明事件なんて……あーそれと、ちょっと出かける用事があったの思い出したから今日は解散でも良い? 」


「別に構わないが、一体なんの用j」


「ありがと、じゃあねッ!」



 神通力によって強化された身体能力を使用し、すぐにその場から離れた康平は呆気に取られている東堂を尻目に写真の子が向かって行った方向へと走りながら駈剛に問いかけた。



「駈剛、反応はどっち?」


(いや、反応自体は小さい。だから漠然と反応があるとしか分からん)


「じゃあどうするのさ?」


(お前の眼球の中にもう1つ眼球を生み出す。反応の収集力を強められるが、使い終えると暫く反応は追えなくなる)


「じゃあ即効でそっちに向かえば良いんだろ、やって」


(了解した)



 駈剛は康平の左眼球の中にもう1つ目を発生させると、視神経辺りの痛みが強まると同時に小さな反応がどこから発生しているのかハッキリと視認できた。そちらへと向かって行くと徐々に異様な霧が発生していることを知る。



「霧? でもなんで」


(これは……小僧、止まれ)


「え、急になに?」


(良いから止まれ)



 康平はゆっくりと速度を落とし、あまり息のあがっていない状態のまま駈剛の言った通り止まった。それに伴って心做しか霧も濃くなっている。辺りを見回していくと、康平のもとへと向かって何者かが向かって来ている影が見えたためすぐに身構えるが、息切れをしているような呼吸音とともに現れた人物を見てまた驚くことになる。



「えっ……東堂君?! 何でここに?」


「ゼヒュー、ゼヒュー……あれ、湖里君?」



 どうやら向こうも、何故康平が居るのか分からないようであった。

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