第10話 くるり狂りクル抂

 かごめ歌に不快な音、変化していった景色。そして彼らの前に現れた少女と、当人が言い放った言葉。その全てが理解を拒んでいるが、現実逃避のような思考を今見える景色の全てによって塗り潰されていく。夕方の明るさであったはずの空は夜の色へと変貌したものの、その空は何の光さえも発さず不気味な程に暗い。だが視界はこの場に居る全ての存在と今いる場所を認識していて、その違和感に気付いた者は言い知れぬ恐怖を覚えた。


 同時にこの異様な状況についていけない者も居るのは事実で、理解が及ばずにいられるのは幸福なのか鈍臭いだけなのか。相も変わらず血の気の多い警察官──郷田 良樹がその少女に近寄り先程の威圧的な態度とは打って変わって、軟化した様子で伺った。



「嬢ちゃん、何処から来たんだ?」


「おい」



 勝手に動いたことに対してなのか、それとも先の郷田の行動に辟易しているのかは判断しかねるが、それを見た警察官──横峯 聡が小さく舌打ちをする。それが聞こえたのは晴彦のみだった。


 少女は目線を合わせた郷田に対し、見た目から読み取れる年齢不相応に少しばかりの蠱惑的な笑みを浮かべながら彼に同じ事を問う。



「ねぇお兄さん、遊ぼうようよ」


「おう、良いぜ。ただ仕事もあるからさ、今すぐってのは──」



 その続きを言おうとして、ふと彼は自身に起きている異変に気が付く。気がついてしまう。見ている者たちからは察しがつかない、そんな異変。



「あっ……あっ?」


「おい、いつまでもボサっとしてないでさっさと立て」



 そう言いながら横峯が郷田のもとへと足早に向かい、彼を立たせようとした。しかしその姿勢のまま郷田は首と目線を動かして後ろを振り返り横峯の方を見る。その表情には困惑が現れていた。



「体が、動かねぇ……!」


「はっ? 良いからさっさと──」



 立て、と言って膝をつく郷田を立たそうとして自身も異変に気付く。伸ばそうとした手が一向に伸びず、膝さえ曲げられず、ただその場に立ち尽くすだけ。そこで郷田の言っていた動けないという発言を思い出し、何もかも可笑しいこの現実に更におかしな事が追加された。



「あなたも遊んでくれるの?」



 彼らの目の前に立つ少女はそう言う。首だけは動くらしく少女の居る方へ視線を移すと、自身のもとに近付いていた少女の異様さをその目で知ることになった。色白な肌、否白すぎる肌。まるで死者が眼前に立っているかのような印象を受けた、そして彼が次に見たのは少女の眼。前髪で隠れていてきちんと見えなかったが今の距離ならば確認することが出来た、出来てしまった。


 白いのだ。瞳孔にあたる部分も角膜にあたる部分さえも無い、ただただ真っ白なのだ。生物として有るまじき2つの眼は何が見えているのか定かでは無いが、少女がその眼で何を捉えているのかは想像がつく。何も映さぬ瞳だというのに。



「はあうっ!?」


「へえあっ?!」


(ははははっ! 見ろ、情けない声を挙げておるわ!)



 頭の中で笑う駈剛を煩わしく思いながら、康平は何が起きているのかを考える。ただ観察していくと首などが動いていたにも関わらず、そこから下の肉体は全く動く様子を見せなかったという違和感に気付き、思いつく限りの予想をする。もしや、と思ったところで少女がこちらを見やった。次に康平はあの警察官2人の身に起きている異変をその身で味わう事になる。



「ッ?! なっ、かっ……体がっ……?!」


(ほぉ、成程。行動を強制する力か、かごめかごめをするには適しているな)


「こうへいく──っ?! な、なにこれっ?!」


「うおっ?! なっ、足が、勝手に!?」



 この3人の首から下の肉体が言うことを聞かなくなっていた。自分の意思に反して少女のもとへと歩んでいる事実が、目の前に立つ少女がこの世の者では無く異常な存在である事を康平と晴彦の2人は改めて理解した。やがてその少女のもとへ全員集まっていくと、膝をついている郷田を中心に取り囲むように少女と4人は位置につき、それぞれの腕が伸ばされ手を掴む。


 郷田の正面には件の少女、右回りに内田、晴彦、康平、横峯の順で手を繋いだ状態で取り囲んでおり、有無を言わせずに少女が。こんな状況で遊ぶなどとイカレてるとしか思えないが、生憎と主催者の立ち位置に居るのはこの少女、人間の道理など通じるなどと期待しない方が良い。郷田は自らの意思関係なく両瞼を閉じ、その視界を暗闇に染めた。



「おい、おい! 何なんだこれは?! さっさと俺たちを解放しろ!」



 若干1名、横峯が意味の無いことを叫ぶ。威圧的に叫ぶ様子に少女はどこか野暮ったいと思ったのか溜め息をつき、ただ一言告げる。



「うるさい」


「んぐっ?!」



 急に横峯の口が閉じる。口の両端からまるで何かに縫い付けられたかのような閉じ方をしたが、当の本人はそこに気付く余裕は無かった。そんな状態にした事を無視して少女は中心に居座る郷田を指さして自分の話をし始める。



「最初は貴方がオニね、始めましょう」


「ま、待ちなさ」


「貴方もうるさい」



 内田が何かを言おうとして、また少女の手によって閉じられる。有無を言わせず質疑を問うことさえ許されない、まるで暴君かお山の大将か。人への応対は少女の姿相応のそれであるため、何かを見透かされる心配は無さそうであるのが救いだろうか。



「あなた達もお喋りな人?」



 そう2人に問いかけてくるが、晴彦は首を横に振って否定する。康平の方は特に何も言わずに睨みを利かせたが、特別興味無さげに視線を中央に座る郷田に向けたあとその口を開いた。



「かーごーめー、かーごーめー」



 それを皮切りに自由に動けなかった足が動き、郷田を中心に全員が回り始めた。その出来事は事情を知らずに居る内田と横峯の2人は驚愕の表情を浮かべ、晴彦と康平は身構えた。何が起きるのかを確かめなければならないが、何が起きるのか分からない不安と死が迫っている事実が、否が応でも理解してしまう。


 冷や汗が流れる中、ゆっくりと動いていたはずの足が止まり、どうしたのかと全員が少女を見る。すると少女は瞼を狭め真っ白な目を細くさせると、口を開いた。



【うたえ】



 少女の口から放たれた声は、その時確かに人間のものでは無かった。得体の知れぬ何かの音が声を真似しているような、そういった印象を受ける声を聞いた途端に足の動きが再開され、同時に自らの意思関係なく彼らは同じ事を言い始めた。それに合わせて、少女も続けて言った。



「「「「「かーごーめー、かーごーめー。かーごのなーかのとおりぃはー」」」」」



 勝手に開かれた口、勝手に発せられる声。康平だけはこの力がなんであるのかを駈剛から知ったが、まさかここまでの強制力を与えるとは思いもよらなかったようで。その気になれば相手を意のままに操れるこの力に恐怖と一抹の希望を康平は見出した。



「「「「いーつ、いーつ、でーあーう。よーあーけーのばーんーに。つーるとかーめがすーべーったー」」」」



 ぐるぐると郷田の中心を回り続け、終わりが近づくのを実感する。やがて最後の言葉を言い終えて、郷田の後ろに立つ人物が決まった。



「「「「「うしろのしょうめん、だーぁれ?」」」」」



 後ろに立ったのは内田であった。横峯が何かを喋ろうとして、何も発することが出来ないように口が閉ざされている事実に気付くと、焦燥感に駆られて慌て始めた。


 かごめかごめのルール上、この文言を言い終えたところで答えなければならないのだが、当然ながら視界が閉ざされた郷田は自分の後ろに居る人間が誰なのか分からない。そのため外せば何が起こるのかと不安に苛まれ答えられずにいた。



【じゅーう】



 全員の背筋に悪寒が走る。どこからともなく聞こえてきたその声は先程少女が発したあの声と同じだった。しかし聞こえてきたのは少女から離れた場所、空からであったために忙しなく首を動かし続ける4人が居た。その間にもカウントは減り続けていく。



【きゅーう、はーち】



 ゆっくりと迫り来る終わりの時、この声がこの場に居る全ての人間の心臓が早く鼓動を打つ。危機が迫っているぞと、警鐘を鳴らしているように思えた。郷田は必死に考えた、後ろに居る人物が誰なのかを必死に考えた。5人のうち誰なのかを考えているが、無情にもカウントは止まらない。止まることは無い。



【なーな、ろーく】



 暗闇の中で自身の目が動き続けている。誰だ、誰だ、誰だ……まだ決められない。ゆっくりと死神の鎌は首元に当てられた。



【ごー、よーん】



 動悸が速くなり、息が荒くなる。冷や汗が止まらない、眼球が忙しなく動き続ける。もはや自分で自分を制御出来ないでいた。



【さーん、にー】



 迫り来る恐怖に、もはや耐え切れることが出来なかったのだろう。郷田は半ばヤケクソ気味に自分が知っている人間を答えた。



「よ、横峯ッ!」



 違うと横峯が首を振る。後ろに居た内田は目線をその横峯に向け、何かが不味いと直感的に感じ取る。不安に駆られる中、ただ1人少女は俯いた。暫しの間、静寂だけがこの場を支配していたが、その静寂を破ったのはその少女の声であった。



「ざーんねん、外れー」



 次の瞬間、中心に居た郷田は突然地面に伏した。突然そうなったことで理解が追いついていないが、ここで更に追い討ちをかけるように郷田の姿が消えた。もう何が起きているのか理解に苦しみ、必死に考えを巡らせる暇さえも与えないかのように、今度は横峯が無理矢理に動かされたその足で囲いの中心に座った。何かを言おうとしても口は縫われたように開かない、彼の意思など興味無いらしく少女は遊びを続けた。かごめ歌が横峯を取り囲む4名から発せられる。



「「「「かーごーめー、かーごーめー。かーごのなーかのとおりぃはー」」」」



 次にああなるのが自分であるということを拒否したかった。無情なまでの現実から逃避しようと試みて、単なる時間の無駄であった事実が待っているだけだった。



「「「「いーつ、いーつ、でーあーう。よーあーけーのーばーんーに」」」」



 もう聞きたくない、だから耳を塞いだ。しかしもう、そんな事をしてもどうしようも無い。そんな事は横峯自身も分かっていた、受け入れたくない故に逃げ出したいと願っても単なる人間にはどうする事も出来はしない。



「「「「つーるとかーめがすーべっーたー。うしろのしょうめん──」」」」



 後ろに立つモノが決まった。ただ1つの声が横峯の後ろで聞こえた。



【だーぁれ?】



 ああ、あの声だ。そう理解するにも瞬中の時間が必要だったが、理解していくと次第に横峯は高笑いをし始めた。当然だ、誰の声も重ならずただ1つの、とても印象深く残っているこの声だけが後ろから聞こえた事こそ何物にも勝る答えなのだから笑うしかない。彼の心境は安堵が支配していた、これで自分も消えなくて良いと高らかに後ろに立つモノの存在に向けて言った。



「……く、ハハハハッ! お前の名前は知らないが、わざわざ答えてくれるなんてありがとうなぁ! 俺の後ろに居るクソガキさんよぉ! これで俺は助かるんだ、アイツみたいに倒れて消える事なく俺は元の場所に──」




【ざあんねん、ハズレ】



 その声が紡いだ言葉の意味は、敗北。先程までの高笑いはどこへと消えたのやら、静寂が続いたかと思いきや間抜けな声を出して彼は瞼を開いて視界を確保すると、自身の後ろに居るはずの少女へと振り返る。しかしそこに居たのは少女ではなく、バケモノであった。


 長く伸びた首、大きく肥大化した頭部。両目は全て白から全て黒へと変わっており、おぞましき闇が彼を見据えていた。頭部に伴って大きくなった口が開かれたかと思うと何の理解も出来ていない横峯を上から丸呑みし、そのまま首と頭部が先程の少女の大きさと長さまで戻る。中心に居たはずの横峯は居らず、変わりに汚くゲップをする少女があった。


 突然の出来事に混乱し理解が及ばない状況にある中、突然少女が手を離す。すると今まで支配されていた肉体が自身の制御下となったようで、縛られていた感覚がフッと消えてなくなっていた。全員がその少女と姿をした怪異に対して視線を向ければ、クスクスと微笑みながら答えた。



「貴方たちは違うわ、ただ遊びに付き合ってくれただけだもの」


「どういう」



 意味だ、と続けたかった康平であったがいつの間にか視界に映る景色が何処かで見覚えのある場所へと切り替わった。それもそのはず時間帯が変わって暗くなっているものの、あの時5人が居た琥蒲第三小学校の校門前であったからだ。戻ってきたという安堵を晴彦が、一体全体どうなっているのかと内田が、あの時の発言の意味を考えていた康平だったものの内田が見つけたによって思考が切り替わる。



「ッ、おい。おい起きろ!」



 暗がりで視界が確保しにくいが、よく見れば内田が声をかけているのは先程まであの場に居た郷田良樹その人であった。何度声かけをしても体を揺すっても起きる気配が無く、内田は2人に救急車の手配をお願いすると自身は110番に通報し、晴彦は慌てて携帯を取り出して119に掛けた。ただ1人康平はあの怪異の発言などを思い出しながら、思いつく限りの事を考え──ある1つの仮説に辿り着いた。



「……そういう事か、くそっ」


「へっ?」


「何で僕たちを逃がしたのか、何となくだけど理由が想像ついた。……本当に僕らは遊び相手って訳か」


「君は──」



 声をかけていた内田が康平の方を見る。この状況下でも酷く冷静に見えた為に内田はあの出来事に関して何かを知っているのではと、ふとそう思った。その予想は的中しており康平も内田が何かを知っていると踏んで取引を持ちかけた。



「刑事さん、後日空いている日はありますか?」


「急に何を」


「貴方が今欲しているであろう情報を、僕たちは持っています」


「……どういう意味だ?」


「今回の起きた出来事、あの時出会ったバケモノ。僕らは一度あれとは別の存在と遭遇して、生き残った事があります」


「なにっ?」


「康平君、それは」


「今はどんな形であれ情報と、仲間が欲しい。晴彦君が力不足って訳じゃないけど多い事に越した事は無いからね。ここでこの刑事さんと協力した方が、今回の件を終わらせやすくなる」


「君たちは、一体何を知っているんだ?」


「それはお教えします。但し、貴方からも情報が欲しい。僕たちが話せることは突拍子も無いけれど、今この地で起きている全ての異常事態の真実になります。貴方も今回の件に関して情報が欲しいはず、今までの犠牲者を救いたいんです」



 康平の言葉と意思を聞いて内田は考える。確かに今回の件に関しては何も分からなさすぎる、加えてこの学校が関与しているという特に関係性の無い繋がりとしてあったものが、寧ろこの学校に潜む何かの手によって引き起こされている可能性が浮上してきたのだ。現にその被害者は今この場に横たわっている、何かを知っているのならそれを知りたいと思うのは必然だろう。



「本当に、君たちはこの件のことを知っているんだな?」


「ええ、信用は話をして得てみせましょう」


「……分かった。だが君らは学生だろう? また明日、午後2時にあの喫茶店で落ち合おう」


「分かりました、お気遣いどうも感謝します」



 本当は今すぐにでも話をしたいが、今は優先すべきことを優先しなければならない。今回の件で事情聴取されるのは確定しているため、内田とともに警察の取り調べに関わることになった。その夜は酷く疲れたようで、三者三葉にぐっすりと眠りについた。








 その翌日の朝、康平は自室で頭の中の駈剛とともにあの怪異に対する見解をノートに記す作業をしていた。今回出くわしたのは琥蒲第三小学校で噂される七不思議の七つ目、“かごめ歌の怪異”と仮称。元宮幸斗曰く、その七不思議の7つ目を知ると異界に連れて行かれるという証言をしていた。実際は7つ目を知っただけでは何かが起きるわけではなく、他にも条件があるという線が濃厚になってきていた。


 ではその条件が何なのか、というのは未だ定かになっていないが7つ目を知っている人間が何かしらの形で琥蒲第三小に関わることで発生するとの予想は立てられる。一旦これはここまでにしておき、次は怪異の容姿や能力などを書き連ねていく。


 分かっていることは、あの少女の形をした怪異は何かの条件をもとに姿を切り替えること。かごめかごめで間違えれば即刻、死という結果が待ち構えていること。行動や言動を強制的に操る力があることを書き記していき──あの時の発言を思い出し静かに怒る。



(一々目くじらを立てるな、怪異とはそういうものだ。どこまでも理不尽でどこまでも身勝手、気にしていたら余計に気力を使う)


「……人の命を奪う遊びがあって良いって言うのか?」


(はぁ、いい加減に)


「いい加減に出来るか!」



 康平にしては珍しく荒々しく叫んだためか、少しして康平の部屋のドアをノックしたあと母親の声がした。



「康平? 大丈夫?」



 怒りの中に生まれた若干の申し訳なさで冷静さを何とか取り戻せた康平は、自室のドアを開けて心配している母親と対面する。母親の表情は珍しくおろおろとしており、そんな表情を見て完全に冷静になった康平は普段の笑みを見せる。



「ごめん、母さん」



 だがその笑みにどこか陰りが見えたのか、母親は康平の頭と体を引き寄せて抱擁すると優しく頭と背中を撫でながら聞いた。


「何かあった?」


「……ちょっとね。大丈夫、近いうちに解決するからさ」


「康平」


「ん?」


「辛い事があったら、お母さん聞くからさ。だから1人で抱え込まないでね」


「……分かってる」



 母親の背中に両腕を回して抱擁を返す。穏やかな表情を取り戻した康平は優しげに言った。とうの昔に身長を越しているため、母親の肩に頭を乗せるような状態になっている。



「昔みたいに過労で倒れないように上手くやってるからさ、大丈夫」


「康平の大丈夫はあんまり信用できないかな」


「えぇ……」


「ふふっ」



 暫くの抱擁が続き、2人とも満足気に離れると康平は再度母親に向けて言った。今度は不安な表情をさせないような、落ち着いた声色で。



「約束するよ。辛くなったら母さんとか、色んな人に話を聞いてもらって楽になるようにするから」


「うん、そうしなさいな。母さんならいつでもウェルカムだから、幾らでも聞くよ」


「業務に支障が出ないようにしておくよ」


「はははっ、そんな心配別にしなくていいから」


「母さん課長なんだから、僕のことで仕事を疎かにしたら不味いでしょうに」


「そこまでキャパシティは低くないですー」


「はいはい」



 少しだけ普段とは違うけれど、普段のようにお互いを思いやる姿勢は崩さない。これに安心感を感じられたと同時に、母親は守らなくてはならないと強く康平は思った。と、ここで康平の携帯が鳴った。そろそろ予定の時刻であることを知ると携帯をバッグに入れ、それを持って出かける準備を済ませていく。



「どこか行くの?」


「うん、晴彦君と少し遠出してくるよ。帰りは遅くなると思うけど、ちゃんと帰ってくるから安心してて。」


「夜遊びは感心しないけど、まあ悪いことしないなら良いよ。しないと思うけど」


「しないから。母さんだって知ってるでしょうに」


「まぁねぇ。補導されないように気をつけるんだよ」


「流石にそうなる前には帰るから。じゃあ行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」



 準備を一通り済ませた康平は家を出て外へと向かい、隣から出てきた晴彦とちょうどのタイミングで合流しそのままあの喫茶店へ向かって自転車を漕いだ。胸に秘めたる守るべきものを怪異の魔の手に脅かされないようにと願いを持って、彼らは行くべき場所へと向かった。


 そんな中、康平の中に居る駈剛だけは何かを考えていたようで。あの喫茶店に到着するまで特に何かを語りかけることも無かったが、特別気にしない事にした。

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