第17話 迷い続けた路の先
駈剛によって強制能力が働いた康平の足は、あの人間であった怪異から逃れた2人であったが、その代償として歩行すら困難になり痛みで苦悶の表情を見せる康平の姿があった。右足首の腫れた箇所をこれ以上刺激しないよう、下にバッグを敷きすぐにでも動けるように、避難先である古風な民家の背の高い生垣に寄りかかる。これ以上康平自身へ向けて行動を強制する力は使えない状態に陥っており、もう彼の逃げ足に期待は出来ない。
顔面蒼白なうえ、不快感を催す汗が頭部の汗腺からじわじわと浮き出てきている中、痛みから来る不安定な精神状態を元に戻そうと呼吸を繰り返し、暫くして僅かに落ち着きを取り戻し始めたところに、生垣越しにまたペタペタと鳴る音を聞いて2人は両手を口にあて息を殺す。あの人間だったものが近くを通り距離が近付く度に、気味の悪いあの音が死の宣告として聴こえてしまう。下がりかけていた心拍数が一気に早まり、時間が遅く流れているように感じられる。
何秒、何十秒、何分、その音が聞こえない間だけが時間の感覚だけがあやふやになっていた。やがて音が聞こえ、それが遠ざかっていき聞こえなくなると張られた緊張の糸が一気に切れた。2つの安堵の溜め息が彼らのいる半径5m以内の範囲に広がり、そして何の変化もない今の状況を認識する。認識せざるを得ない。この限りなく絶望ともとれる今を。康平が息を整えているあいだ、東堂は何も言わずただじっと黙りこむのみ。ようやく息遣いも落ち着いてきた頃になると、駈剛が康平に言った。
(馬鹿者め、全く……もうこれ以上はお前自身を動かす事は出来んぞ。たとえどれだけ頼みこもうと無理だからな)
「わかったよ」
(いつもこのぐらい聞き分けが良ければいいのだが)
「さっきのは仕方なかっ──ッ〜〜!?」
(えぇい余計な事をするな、じっとしろ!)
咄嗟に動いてしまった康平だったが、結局更に痛みに悶えることとなった。また時間をかけてある程度まで痛みが引くと、駈剛は話を続ける。
(小僧、今状況が良くないことは理解しているな)
「それは、勿論。こっちがお荷物になったし、まともにあれから逃げ切れるか怪しいし」
(だが俺様は運のいいことに、この領域から脱出する方法を見つけ出した。お前の言っていた、時間の差異とやらに着目してな。それをやればこの領域の主と対面し、其奴を倒すことが出来る)
「そういや、分かったって言ってたな。で、どういう作戦なのさ?」
(それをするにしても、先ずはそこで黙り込んでいる東堂をどうにかせねばならん。おそらく今回は詳しい奴に任せる必要がある、俺様達以上にな)
康平は未だに黙ったままの東堂へと視線を向ける。両膝を抱え込んたまま顔を埋めており、それをこの場所に来てからというもの崩さずにいた。足首に負担がかからないように手伝ったりはしたが、もう出来ることが無くなると次第にこうなっていったのである。おそるおそる、康平は東堂へと声をかけた。
「東堂君、少し良い?」
「……何だ?」
「手伝ってほしい事があるんだ、この領域から脱出するための方法を駈剛が思いついて」
「どうやって?」
そう東堂は聞いた。その割り込みようは話の流れを断ち切るみたく言ったように康平には聞こえており、それを踏まえて先程の声色から判断すれば彼から悲観的なものを感じ取れた。話の主導権が、東堂に移り内心が吐露された。
「どうやって、ここから脱出するつもりなんだ? 君のその足で。」
「確かに、もうさっきみたく走れはしない。でも」
「でも? ふふははッ、まるで出られる確信があるみたいに言うね」
「……それを駈剛が見つけてくれたんだ。あとはその方法を実行してみるだけ」
「だが2人で逃げ切れる保証はどこにも無い」
そこで康平は言葉を止める。東堂の言っていることは、ある意味もっともな意見であることを改めて知ったから。声を荒らげたかったはずなのに、それを押しとどめ努めて冷静になろうとしたような声であったことを感じ取ったために。
「君は、自分やあの子を抱えながらいきなり現れてくる人間だったモノを危なげなく避け続け走ることができた。この5mより先は見えない霧だらけの世界で、すぐに対処出来たのは君だけなんだ。
でも今はそうじゃない、もう走れなくなった君ではすぐにあれから逃げ切れる可能性は無くなった。君を連れて逃げようとしても、自分では君みたいに出来やしない。そうなってしまえば共倒れになってしまう。
そのくせ、この空間に居続ければいずれ、あのような怪異になってしまう。八方塞がりじゃないか、この状況で脱出を目指すなんて無理だ。無理なんだよ……」
(此奴、自ら諦めおって……! 大体助けてくれるだの他人事みたく言いよって!)
「駈剛、黙って」
康平はそこから二の句が継げなかった。能力が無くとも彼の感情は分かる、絶望的状況による諦観。正しくそれであった。そも康平は2度、これと似たことを経験している。どのような事が起きたとしても必ず解決する糸口を見出し怪異を倒してきた実績や、自身の母親が安全に怪異の危険に晒されることの無いように、そして理不尽を振りまく怪異を赦さぬ執念にも似た信念があって、窮地であろうと決して絶望しなかった。
しかし東堂義高はそも普通の人間である。自身の身に危険が迫ればそれを守るように防衛反応が出るのは自然のことであるし、ましてやこのような危機的状況から逃れられる可能性があったとて、悲観的にもならざるを得ない。普通という枠組みの中で生きてきた人間にとって、異常に立ち向かえる気概を常に持ち続けることなど到底出来はしない。
暫しのあいた静寂だけがあり、悩みに悩み抜いた康平は駈剛に脱出するための方法を訊ねた。東堂からは康平の中に潜む駈剛の声は聞こえはしないが、何やら真剣な表情で聞いていた康平は足置き場にしていた自分のバッグから携帯を取りだし、何かを操作し始めた。
ジクジクとした痛みに襲われながら、康平は残り充電量が46%という不安な数字になった携帯を操作し、少しして何やら四苦八苦といった表情をしていた。やがて何やら痺れを切らしたかのように、大きな溜め息をついたため気になって東堂は何をしているのか訊ねた。
「何をしているんだ?」
「東堂君の言ってた掲示板ってヤツをちょっとね。」
「はっ?」
一体何を言っているんだといわんばかりに顔を上げ康平の方へ視線を向けたあと、康平の持つ携帯の画面を覗き込んだ。そこには康平の出したであろうコメントから全く関係ない話へと進み続けているスレ民たちのコメントが続いており、2度3度と視線を康平と携帯画面を往復させた。
「君は、一体何をしている?」
「言ったでしょ、ここから脱出する方法」
「いや……いやいやいや待ってくれ、この状況で掲示板にコメントする事とこの空間から脱出することに何の関係が?!」
「えっと、ここからは駈剛が言ってたことなんだけど──」
そう前置きをして康平は次のように述べた。
この世界で個人間で使用されるSNSと、不特定多数間で使用されるSNSとの差異。それは人数の違いだと駈剛は言った。正確には“情報を認知する対象”の差であると。不特定多数の人間にその情報が閲覧されているということは、言ってしまえばそれだけの人数の人間がそう思っていることと同義であり、そう意味付けされる。
話は変わり、この2人と1体には全くあずかり知らぬ事なのだが、自然科学には観測者効果と呼ばれるものがある。簡単に、詳しい説明を省きながら言うと、観測するという行為によって観察される現象にもたらす変化のことである。駈剛は知ってか知らずか──否、それを実際に体験していたことで、これを利用した脱出方法を思いつくことが出来た。
多数の観測者によって今、康平と東堂の居る空間が曖昧なものから確実なものへとさせる。この情報を見た不特定多数の人間が、観測者効果によって現実と地続きになっている曖昧な空間を、安定した空間へと変化させることが出来れば、ここに迷い込んだかつてのスレ主と同じ場所へと辿り着けるという算段であった。
「駈剛が言うには、妖怪ってもとは何かしらの神様であったパターンもあったらしくって。神様であった存在が人の認知によって妖怪へと変化して、そのまま妖怪として生き続けてる存在も居るんだって」
「……そういえば、思い出した。多度大社に祀られているヒトツメノムラジと呼ばれる神も、一目連という名前の妖怪として伝わっている。神風──台風を神格として見るか、妖怪として見るかの違いがあるだけだったが」
「その台風を神様として見るなら……えっと、なんだっけ?」
「ヒトツメノムラジだ」
「そのヒトツメノムラジって存在になって、妖怪として見るなら“いちもくれん”って存在になるのなら、この空間も誰かの認知が入り込むことで、現実か領域か分からない状態から、完全に別々のモノとして認識される。かつてここに迷い込んだ人も、この空間を多数の人によって認知させたことで存在しない湖に辿り着いたのなら」
「この空間から脱出できる可能性があると? だが仮に自分たちがその湖のある場所に辿り着いたところで、出られる保証なんて何処にも」
「いや、多分その湖に領域の主は居る。こればっかりは完全に勘だけど、明らかに現実とかけ離れた場所だと、その可能性は高い。確実と言っても良いぐらいに」
不意にコメントを打つ手を止めて、康平は東堂の方へ顔を向ける。こんな絶望的な状況のなか、とても落ち着いた表情をしており、彼を安心させるように言う。
「大丈夫、たとえどんな事があっても東堂君は必ず守るし、助ける。約束したでしょ」
朗らかに顔を崩してそう答えた康平を見て、東堂は一瞬呆気に取られたものの、すぐに自分の発言や態度を思い出し自らを責めた。今もこうして希望を見出し、何があろうと諦めることなく前へと進むことを選んだ康平という人間。今の自分はどうだ? 康平が足を挫いて走れなくなり、自分もバケモノに変わるかもしれない恐怖にただ塞ぎ込んでいただけ。体力の無さを理由に康平ばかりに負担をかけさせていた事を自覚し、東堂は自分の両頬を一斉に
彼が諦めていないのであれば、自分も諦めてなるものかと意気込んだ東堂はすぐに自身の携帯を取り出し、電源をつけてその掲示板に発信し始める。康平以上の入力速度で状況を周囲へ拡散していくと、瞬く間にその掲示板が東堂のコメントを中心に話が展開され始めていくではないか。
「すまない、湖里君。格好悪いところを見せてしまった」
入力する手を停めず、携帯の画面を見ながらそう言う。本来ならば無礼とも取られかねない行為ではあるが、別に康平はそのことを気にするような人間でも無かった。
「ううん、それよりもありがとう。怖いはずなのに、協力してくれて」
「……君は、自分が簡単に終わってしまうような状況の中でも戦うことを選んだ。情けない話だが自分は結局、君にばかり負担を押し付けていたんだ」
「僕だけじゃ辿り着けなかったよ。この方法は駈剛が思いついた事だし、そのキッカケは東堂君だもの。負担なんて思うわけないさ」
「だが自分のせいで君は走れなくなった、これは自分の傲慢さが招いた結果でもある。だが君が許してくれるのなら、自分は全力を尽くして君を助けたい」
「許すも何も、全然気にしてないよ。君のせいでもない、強いて原因を言うなら自分が力の調整をミスしただけさ。気に病むことは無いよ」
「……ありがとう」
「いいって」
(に、しても速いな。お前より指を動かす速度が速いぞ)
「だよね。あ、あと何で東堂君が掲示板とかのことを知ってるのか気になったんだけど」
そう康平が言った途端、入力していた指を止めて少しだけ東堂の動きが固まった。徐に彼は自身の眼鏡のブリッジ部分を左手中指で上げると、どこか自暴自棄気味に曝露した。
「よく掲示板を利用しているのさ、趣味がてらね」
「趣味」
「ああ、喧嘩をふっかけてきた相手にレスバで勝つのがね」
「……レスバ?」
「レスポンス・バトルの略だ。まぁようは、見知らぬ相手と口論して相手を黙らせるのが趣味だ」
「えぇ……」
「そして先日、そのレスバに負けた腹いせにメロンフェアに来たというわけだ」
「……ストレス大丈夫?」
(おい小僧、此奴との付き合いは考えておいた方が良い。俺様が言うのもなんだが)
「いや、東堂君はそこまで心配しなくて良いと思う……多分」
───────────────────────
聞かなかった方が良いのではと思った東堂の趣味のことはさておき、掲示板の流れは意外にも話が停滞することなく上手い具合に流れ始めていた。そしてこのタイミングで晴彦からのメッセージが届いた。早速中身を確認していくと、送信時刻が16:02から順に1〜2分の間隔を刻んで表示されながらメッセージが現れるが、現在の時刻は16:54分を指しており改めて現実との時間のズレを実感する。
内容のほうはというと、晴彦が調べた限りでは今は湖は無いものの江戸の時代の終わりぐらいまで、播弖町は元々海へと繋がる湖を中心に形成された村落があったらしい。ただ明治に入ってから文明開化のそしりを受けこの土地一帯を工事し、湖は埋め立てられ現在ではその面影すら残っていないらしい。
そしてその湖に関する興味深い話もあった。かつての播弖町では毎年6月になると湿気の影響なのかは分からないが湖の周りで霧が発生しており、入ったら最後迷いに迷って出られなくなるため神隠しの湖として有名だったらしい。
ある日、旅の坊主がその湖で休んでいたところ竜の頭が現れ坊主を襲いかかった。間一髪のところで逃げおおせた坊主がその湖のほうに振り返ると、周りに霧が立ち込めていたのでここは犯してはならない聖域なのではと思い、すぐにその村を離れたとか。
このような事を調べてくれた晴彦に感謝の文を送信したあと、東堂の進捗状況を聞こうとして駈剛が割り込んできた。
(小僧、怪異の反応が追えるようになった。念の為、ここで眼を使ってみろ)
ようやく戻ったのかと思ったあと、すぐに眼を使う。ここには誰かの残滓が見つかるかどうかは置いておき、何かしら不審な点が無いかを探るために使ったが、康平はこの視界が機能している半径5mより外の霧に注目した。首を動かして辺りを見回し、何かを考え込んでいる素振りを見せたあと、駈剛に問いかける。
「駈剛、あの霧の中で見えてるのなに?」
「霧の中?」
(あん? ……ふむ、これは)
「何か分かる?」
(妙、といえばそれまでだが力の流れが一定方向へと移動しているな。おそらくお前が見たのは、力そのものだろう)
「神通力みたいな?」
(まぁそう捉えて構わん。この場合は妖力、妖怪の力として考えると……これを追えば霧の発生源に辿り着くやもしれんな)
「なるほどね。東堂君、掲示板の方はどう?」
「ひとまずは自分たちの話題に注目している。移動するに越したことはないが、足の方は大丈夫か?」
「あー……ッ、駄目だ。まだ十全じゃないや」
「そうか」
(だが動かねば
「わかってる。東堂君、ちょっと立ちたいから手伝って」
「良いのか? まだ十全じゃないのだろう」
「このままじっとしてるよりかは良いでしょ。それに少し妙なものを見つけてね、すぐにでも動きたいんだ」
「……分かった、ならばこうしよう」
東堂の支えありきで左足に重心を寄せて立ったあと、そのまま東堂は康平の目の前でしゃがんだ。
「良いの?」
「君を支えて歩くよりはスムーズに移動できる。なに、湖里君に比べれば大した事じゃない」
(今は此奴の言葉に甘えておけ、その方が良い)
「……ならよろしくお願いするよ」
「任せてくれ」
ゆっくりと康平は自身の体を彼の背中へ預け、東堂は康平の指示のもと移動していく。とはいえ動けば必ずといっていいほど人間が変異した怪異が練り歩いている、足音が聞こえればそちらとは逆の方向へと走り東堂の体力を考慮して隠れて休みながら移動し続けること約30分。進んでいく度に霧が濃くなり続け半径5mの視界も狭まっていき、次第に視界の全てが霧に包まれていく。それでも背負っている康平の指示に従って東堂は歩き続けていると、突如霧が晴れた。
2人がまず目にしたのは鬱蒼とした木々。いつの間にかその中へと入り込んでおり、以前ここに迷い込んだ者と同じ事が起きていることを知ると、康平は急ごうとする東堂を宥めながら指示を出す。徐々に広がっていく視界が目的地へと確実に近付いていることを示しており、興奮を隠しきれていない。だがあの書き込みと同じことが起きているとするのなら、今度目にするのは────
「見えた、降ろして」
「オーケー、右足はつけないように」
「了解」
あの池を視認できたところで康平は東堂から降り、右足を刺激しないように茂みに身を隠す。同様に東堂も身を隠すと池のほうを見る、遠くからではハッキリと見ることは出来ないが僅かに灰白色の何かが通っていくのが見えたようだ。そして康平の眼には妖力の流れが発せられている方向へと視線を向けると、その大元を見つけ出した。それが何かまでは分からないが。
「駈剛、あれは?」
(おそらくこの領域の核やもしれん。ここまで主の姿すら見えてないことも鑑みるに、どうやら相手は姿を見せたくないらしい。或いは姿を現したくないのか)
「でも多分、あれに誰かが触ることが出来ればこの領域から脱出できるんだよね」
(お前が触れなければ領域の主を倒せんがな。となれば必然的に──)
駈剛の言葉を最後まで聞くことなく、康平はゆっくりと東堂を見る。この事を伝えるべきか悩んでいると、その当人が康平の考えを悟り意見を申し出る。
「湖里君、囮役が必要なんだろう」
「……ハッキリ言っちゃうとね」
康平は反応のある方向を指で指し示しながら次のことを言った。
「あの方向にこの領域の核があるんだ。普通なら領域の主が居るはずなんだけど、今回は勝手が違ってるみたい」
「そうなのか」
「うん。で、僕と駈剛の目的は領域の主を倒さなきゃならないから必然的に僕があそこに行って触る必要があるんだけど」
「周りに居るあれらが邪魔だと」
「簡単に動けないから、1回であそこまで跳んでく必要がある」
「よし、分かった。まずは移動してなるべく近付いて、囮役として自分が動いたあと湖里君が跳んで彼処にあるものに触れる。それで良いのだな」
「いや、うん。非常にありがたいんだけど……かなり危険だよ?」
「もう今更だろう。大丈夫、任せてほしい」
「……わかった、でも無理はしないでね」
「そのつもりだ」
そう会話を交わしたあと、すぐに実行に移った。先程のように背負っていくのは見つかる危険性を考慮すると真っ先に捨ておく選択肢であったのと、人間の変異した怪異との距離自体もかなり離れているため、匍匐前進で移動するのがベストとした。とはいえ右足首の捻挫もあって、左脚を折りたたみ左足を地面につけて伸ばすことで移動はできているが、地面と体が密着しているため腕や体の左側半分が汚れている。東堂は先に行った康平のあとを追うように移動し、ようやく目的地に辿り着く。
多少なりと近づいたことであの反応の正体が何なのかを知った。小さな祠である。おそらくはあれに触れればこの領域は解除され、主を倒す機会を得られる。絶対に失敗はしてならないと2人は意気込んだ。2人は離れた場所に位置し、東堂が叫ぶ。
「こっちを見ろ!」
一斉に怪異が東堂の方へ振り向き、そして迫る。何十もの数が襲いかかってくるが、それに臆することなく作戦通り逃げおおせた。東堂の体力が尽きる前に素早く終わらせる、チャンスは──今。
(今だ跳べッ!)
左足と両手を地面につけたあと、勢いよく片足で立つと膝を曲げて体の中にある全てのバネを駆使するように跳んだ。あの祠の周りに居る怪異はおらず、おそらく全てが東堂を追うために向かったのだろう。本命である康平は祠の方へ落下していくとその手を伸ばした。
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