移りゆく世界

第7話 オモテとウラの変わり時

 6月の始まりを迎え、そろそろ梅雨の時期へと差し掛かっていく時期になる頃。多湿の期間に突入し洗濯物が乾きにくくなるといった傍迷惑なものであれば、作物や植物を育ませる恵みとしての一面を見せる雨は、同様に人間が多少神経質にさせる一因となったり思考の底へと沈める要因になる。雨が人間や全ての生き物に対して良くも悪くも影響を与えていることを示している、そんな毎年当たり前の日常の中に奇妙な出来事が混じったようで。



「おあッ?! イッデっ!」



 本日は晴れ模様を示している空の下、湖里家の住んでいるアパートのベランダで康平が驚いた声を挙げた直後に勢いよく何かがぶつかる音が響き、出勤準備をしていた母親が慌ててその場に駆けつける事態が起きた。



「ちょっと康平、大丈夫?!」


「いでで……あーうん、取り敢えずは。ちょっと滑って転けて、背中と室外機がぶつかっただけだから」


「どこ打った?」


「えーっと……あ、ここだイッ?!」



 肩甲骨の下角付近の辺りに手を当て、更に背中が痛んで少しばかり悶えることになった。痛む箇所を極力動かしたり、触れたりしないように洗濯物を干したり身だしなみを整えたり通学準備を済ませたりして通学路につく。あの騒動のあとも暫くは徒歩で通学していた康平だったが、つい先日新しい自転車を用意することが出来たため自転車通学に戻った。


 若干ながら痛みを伴って通学し、いつもの通学路を自転車で漕ぎ、少しばかり雲の多い晴れ空の道を進んでいく中、康平の頭の中でくつくつと笑う声が響く。取り憑いている駈剛のものであり、そんな駈剛の笑っている様子に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。



「もう良いでしょ、さっきからずっと笑ってるんだから」


(クカカッ! 無理だな、あの反応と形相は忘れられるわけが無かろうて。良いものを見させてもらったのなら笑わねば)



 声にならない唸りを喉から出し目を細めて駈剛へ睨みを効かせるが、姿が見えているわけではないので何処を見れば良いのか定まらず、視界は虚空を映す他なかった。


 信号で止まったところでふと康平は辺りの景色を見回す。いつものように車道を走行する車の列に、携帯を見たり身だしなみを整えたりして待ち時間を潰している通行人、一定の区間で植えられている街路樹。そうした日常のありふれた景色とは真逆の領域、バケモノの理不尽を詰め込んだあの場所と今を比べた。


 石禾町いさわちょうに蔓延っていた明里あかさと詩音しおんの成れの果てであったバケモノをで倒したが、未だ駈剛の復活には程遠いらしく他の地域に在する同様の存在を倒し取り込まなければならない。そんな駈剛の望みに意外にも肯定的な反応をした彼は、この時何を思っていたのかは彼のみぞ知る事であった。


 垂直車線の信号が赤へと切り替わっていくものの、特別やむを得ない状況下でも無いのに関わらず通る車が1台通過した直後に、康平の進路方向にある信号が青へと切り替わる。自転車専用レーンにある程度従いつつ横断し、学校へと向かった。


 おおよそ10分程度の時間を経て到着し、校門前に立つ風紀委員に挨拶をして駐輪場に自転車を停めたあと自身が在籍しているクラスへと向かって校内へ入る。道中、何やら校内の雰囲気が少し変わっていることを察知し関連する出来事からしてあの事絡みやもと思い浮かびながらも、もう自分の領分では無い事態ならば無視をするに限る。


 2-Cに到着し鞄を机横のフックに引っ掛けて自分の席に座ったあと、いつもの勉強のルーティーンを始めた。まだ背中の一部は痛むがそれが支障をきたす訳もなく朝礼の時間までの間、勉強し続けていた。そうして朝礼の時間に差しかかろうとしていたところに、慌ただしくしている生徒が康平の隣の席に勢いよく座り小さく「セーフ」と呟いて康平を見やった。



「はよっす」


「おはよ。今日は何の理由で寝坊してきた?」


「いやさ、テストも終わってぇ。まぁゲームしてたわけですよ、あまりにも面白いもんだからついね?」


「なるほど? まぁ程々にね、それで睡眠時間削ったら元も子も無いでしょ」


「仰る通りで。あ、テストの復習手伝ってくんない? 全部返却されたらで良いんで、お願いします!」


「じゃあミヤケ堂の羊羹一本ね」


「おっひぇ、相変わらず容赦無い」


「人に頼むんだから当たり前じゃない? 嫌なら東堂とうどう君とか西園寺さいおんじさんみたいな人に頼めば良いじゃないのさ」


「東堂はともかく、西園寺は……」



 ちらりと2人の男女をそれぞれ見て、また視線を康平へと戻す。康平たちの席から斜め左前の最前列に座り、黙々と本を読み進めている近寄り難い雰囲気を出している男が『東堂 義高よしたか』。康平たちの席から右斜め前の一番廊下側、そこで複数の女子生徒とたむろしている若干改造された制服を着ているのが『西園寺 佳花よしか』。


 この2人は康平と同じく中間・期末テストで学年上位を争っているのだが、他二人は真意のほどは不明なものの康平本人は特に順位を気にしているわけではないので争っていると表すのも少々異なるよう。



「一番頼みやすいのがお前しか居ないんだよ。東堂はなんか怖くて頼みにくいし、西園寺はいつも上から目線だし」


「言った手前あれなんだけど、まぁ西園寺さんはね、うん。でも東堂君は親しみやすいよ。この前図書館で会ったけどおすすめの本貰ったし」


「そりゃお前だけじゃね? お前だけに対して距離が近い感じがあるんだけど」


「そう? 距離感なら普通だと思うけど」



 そんな会話をしているところで学校のチャイムが鳴り、担任教師が教室に入り朝礼を開始した。出席状況を確認していく点呼が終わり、話題はテスト返却へと移る。隣の席に座る男子生徒のテンションが下がっているが、どうやら大半の生徒が同じような反応を示していた様子。


 それはそれとして、担任教師が担当している古文のテストのクラス平均点が82.6と告げられたのち学年上位5名の内3名がこのクラスに居ると知らされると、教室内の意識が東堂、西園寺、康平の3名に寄せられた。古文の授業時間内に解答や見直しの時間を設けるため、朝早くから古文の結果と直面することになった生徒たちの心境や如何に。


 順に呼び出されテストが返却されていき、康平も呼ばれて取りに来たが特に何の心配もせず結果を見る。97点、最後の文章翻訳で躓いたらしいがそれ以外は赤丸で囲まれている。その結果に満足しつつも、今一度どのように答えれば良かったのか再確認する必要があると考えながら席へと着く。隣で覗き見ていた男子生徒が特に驚く様子も無いまま何とも腑抜けた声を出した。因みにこの男子生徒の点数は80点と、平均点よりは低いがそれでも高得点に分類される結果であった。


 このような調子でテストの大半が返却されていき、残っている4つの答案用紙は明日返される事を知らされると明日もナーバスな雰囲気になるだろう生徒たちがチラホラと見られる。ただ1人、康平だけはバケモノに関わるあれこれを考えていた。








 琥蒲町こがままちのとある細道、車が1台通れるかどうかといった広さの車道の一画を内田勇誠は見ていた。この狭い道路を通るのは大抵この辺りの住人などだが、以前ここで交通事故が起きた事があった。幸い歩行者なども居なかったからか被害は電柱や壁の破損で済んだが、その運転手が今もまだ目覚めていない事態となっている。本件をその内田が担当していたが未だに真相ははっきりしないまま、もう一年以上経ってしまった。


 既に様々な手続きは済み、未解決ながらも捜査は行われなくなったが、不可解な点が多すぎた。それを無視して操作を終わらせることなど、この男からすれば納得する理由が見当たらない。なのでこうして非番の日を利用し、当時のことを思い出しながら勝手に調査している。勿論こんな事をしても進展が無いのは既に理解し意固地なのも彼自身承知しているが、どうにも諦めきれずにいるから此処にいる。


 ただこうして見ていても何かが変わるわけではないことを理解しているため、内田は持ってきていたメモ帳を取り出し当時の出来事を振り返り始める。もう何十何百と繰り返してきた所作は彼の癖と化していた。


 『山県やまがた 陸朗ろくろう』33歳の性別男で独身、無職。親元を離れず実家暮らしをしており基本的に外に出ることはなく精々最寄りのコンビニで酒や食品などを買う程度、周囲との関係性は良好とはいえず評判も同様。共働きの両親も更生することを諦めているようで宅内でも距離を取っているような人物であった。


 事故当時、山県陸朗は無免許ながら父親が所有している車に乗って何処かへ行こうとしていた。無免許とは言ったが、以前は免許を持っていたものの違反行為の積み重ねにより免許は剥奪処分され、それ以来教習所に通ったことは無い。山県陸朗は車を発進して10分程経ったこの場所で事故を起こし、それ以来目覚めないまま。検査の結果アルコール基準値を超えていたため飲酒運転による自業自得として認知されるようになったが、表に出されない情報を知っている身からすれば色々と不審な点があった。


 確かに飲酒していたのは事実だったが、道路に残されたブレーキ痕や車轍しゃてつから読み取れたのは、奇妙なことにそうなったような軌道だった。それを裏付けるかのように車に搭載されていたドライブレコーダーには小学生ぐらいの女の子が歩道から飛び出していいたのが映っていたが、当時は夜中であったことも相まって更に謎を引き寄せた。そして極めつけにはその少女を避けた直後、須臾ほどの時間だが速度を上げて勢いよく電柱に突っ込んで行ったのだ。道路にブレーキ痕があったというのにも関わらず。


 以下の情報から捜査当初はその少女を探すために付近の小学校や民家に聞き込みを行い、所在を確かめに訪ね回ったが、全員同じような反応だった事は今でも忘れていない。まるで口を揃えたかのように“全然知らない”と言っていたことなど忘れようがないだろう。暗中模索、五里霧中。そんな表現が当てはまっている状況が、延々と続いて真相が分からないままになったのだから。


 そしてこの辺りを中心にした根も葉もない噂まで広がる始末、内田が聞いた話では昔死んだ少女の幽霊などといったものであったが、正直お巫山戯にも程があると今でも思っている。そんな眉唾物な噂よりも内田はこの事故を起こした山県陸朗と、既に故人となった相田あいだ有美ゆみ。その2人を起点に事故により目覚めない人物を調べて判明した共通点が気になっていた。


 山県陸朗も相田有美も幾人かの昏睡状態者も、全員ある小学校と何らかの関わりがあった。それだけだったがどうにも気になって、今こうしてこの場に居る。とはいえ進展の気配など全く無く、現実に何度も突き当たってから溜め息の回数が増えた。メモ帳を閉じるとすぐに溜め息を吐き、それを仕舞うとまた溜め息を吐く。歩いてその小学校、琥蒲第三小学校付近の喫茶店に入り珈琲を頼んで空いている席に座った。


 10人も入れば満席になるぐらいの小さな喫茶店であるが、近隣住民からは親しまれている店のためか昼時はすぐに満員になる上、店主と話すために居座る客も居るため空いている時が少ない。今回は運良く空き席が多くあったため寛いで座ることが出来た。もうこの店の常連となり店主や住民達と話すことも多くなったが、彼の心境はこの奇妙な共通点に囚われたままでどこか上の空でいつも対応していた。珈琲がテーブルに置かれる。



「お待ちどうさん。最近どうよ、調子は」


「えぇ、まぁ変わりなく元気ですよ」


「そうかい。ま、刑事さんもあんまり思い詰めんなよ? 考えすぎて逆に見えなくなる事もあるしよ」


「ご忠告どうも。いただきます」



 カップを持ち上げ、1口飲む。コーヒーの苦味とコクのある風味が喉を通り体へ染み渡っていく。これを飲んでいると確かに固まっていた思考が解れていくような感じがして、調査関係なくこの店に行きたいと思う時があるぐらいにこの店が好きになっているのを実感していた。店内に流れるニュース音声は他県で開催しているイベントについての情報が流れており、耳障りのいい内容と女性キャスターの声を聞いていると別の客が入店してきた。


 内田自身も閉店の1時間前に入ってきたので何とも言えないが、どこかの学生服を着た学生がこんな時間にこの喫茶店に入ってくるのも物珍しく感じる。その学生は店内の窓ぎわの席に座りメニュー表を少し見てジャムトーストとりんごジュースを頼み、注文が出来るまでの暇つぶしか携帯を触り始めた。


 何やら真剣な表情で操作しているため、そこまで熱中する何かについて考えた。ゲームという線が濃厚だろうと予想づけた。しかし時折何か考え事をしている仕草を見せたり唸ったりとしており、ゲームにそこまで悩む要素はあるのだろうかと感じていたところに、その学生のもとへジャムトーストとりんごジュースが配膳された。同じように見ていたであろう店主がお人好しを発動してか、その学生に訊ねた。



「何をそんなに悩んでるんだい?」


「あー……個人的な用事です。これからどうしようか方針を立ててる最中と言いますか」


「何の用事か聞いても? 困り事ならそこに刑事さんも居るし」


「あら、刑事の方でしたか」


「どうも」



 紹介されたので挨拶をする。学生の方も同じように挨拶を返し、また店主の方に向き直って話を続けた。



「ありがとうございます、ただ警察の方に相談する必要のない小さな事なので大丈夫ですよ。今日の晩御飯どうしようか、とか。その程度のことで」


「君、一人暮らししてるのかい?」


「いえ、母と。日毎に交代で晩御飯作ってて、今日は僕の当番なので」


「へぇー凄いね、料理できるんだ。何作るの?」


「作ったことがあるのは炒め物とかシチュー系とか、唐揚げに照り焼きチキン、ハンバーグ、アジフライ……まぁ色々と」


「結構作ってるねぇ、それなら一人暮らしでも問題なさそうじゃないの」


「まぁ楽しかったりするので、趣味も兼ねてレシピを開拓するのでレパートリーが多くなるんです」


「ほほー、それは凄いな」


「ありがとうございます。ジャムトースト、いただきますね」


「はいよ、召し上がれ」



 弾んだ会話が終わり、学生はジャムトーストを頬張る。パンの隙間に詰め込まれたイチゴジャムが僅かに飛び出て、それが彼の頬や唇に付着する。特別気にすることなく1口食べると先程の柔らかな表情が一変し何かを真剣な表情で考え始めた。ゆっくりとしたペースでジャムトーストを1口、また1口と頬張って食し時折りんごジュースを飲んで一息つく。少しの間その繰り返しが続き、ジャムトーストとりんごジュースが無くなって口周りを拭いたあと学生は少し落ち着いてから会計を済ませる。



「ごちそうさまでした。今度はまたゆっくり出来る時に母や知り合いと来ても?」


「どうぞどうぞ、歓迎するよ」


「ありがとうございます。では僕はこれで」


「またのお越しをー」



 退店するさい内田にも向かって礼をしたあと、その喫茶店を出ていく。残った内田の方も暫く調査のことを考えたあと、その店を出た。




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 テスト返却のあと、すぐには帰らず自転車を漕いである場所へと辿り着いた康平はその場所を見やると一言呟く。



「ここ、琥蒲第三小じゃん」


(知っているのか?)


「ここの生徒だったんだよ。でも何でここから?」


(さてな、目の反応を追っていただけだからな)


「……駈剛もあんまり役に立たないね」


(喧嘩売ってるのか? 買うぞ)



 康平が辿り着いたのは嘗ての母校である琥蒲第三小学校。以前に使用した見えないものを見る力を用いて、この場所に辿り着いたのは良かったものの、小学校から漂うこの歪なオーラが何であるのかは予想していなかった。何であろうかと考えると、該当するであろう事柄を何とか思い出せることに成功した。



「学校の七不思議?」


(あん?)


「いや昔は興味無くて全然憶えてなかったんだけど、小学校の時とかよく話題になったって今のクラスメイトが言ってた話を思い出して。トイレの花子さんとか、音楽室に飾ってある音楽家の肖像画の目が光るとか」


(……なるほど噂話か、今回はその七不思議が関与しているやもしれん)


「噂話が? でもそれって、あくまでも娯楽の一種とかだよね。何なら実際に見たわけでも聞いた訳でもない物が独り歩きしているだけだと思うんだけど」


(まぁ言わんとしている事は分かる。普通ならそう考えるだろうが、噂話に力が宿ることは何も可笑しい事では無い。寧ろ当たり前にあるものだ)


「あるの?」


(そうだ。何も知らないお前さんの為に教えてやるが、作られたものでも力が宿る事は有り得る。本物の模倣品、根も葉もない噂話など、そうしたものは人の意識が向けられる事で力を宿し、影響を与える存在足り得てしまう)


「へぇ。」


(例を挙げるならば寺社仏閣で売られている御守りや札などもその類だ)


「意外と身近にあった」


(兎も角、今回は噂話に力が宿った存在であるのは確かだろう。あとは何の噂話が力を得たのかだが、何か知ってるか?)


「いぃやぁ……僕もクラスメイトの話を聞いて今ようやく七不思議あったなって思い出しただけだし、具体的に何があるのかは全くと言っていいほど無いし」


(はぁ、使えんな)


「喧嘩売ってるの? 買うよ?」



 ここまで会話を続けているが傍から見れば独り言をしているだけなので若干人の目が康平に向けられているが、彼自身が変に図太いのか特別気にしていない様子。漏れ出ている異様な気配を放つ学校に視線を向け、困り果てているところに駈剛が言った。



(それよりお前、良かったのか?)


「何、急に」


(綾部晴彦のことだ、もう返事を待って1週間以上経つぞ。これでは断られたも同義ではないのか?)



 そう、実は康平が彼に協力を訊ねてからこれで1週間以上ほど経っている。塾で会っても多少ぎこちない挨拶をしてくる程度で、基本は康平から距離を取っているのが現状であった。普通ならここまで待たせられるのは断られたと受け取っても良い筈なのだが、康平は首を横に振って否定した。



(何故そう思う?)


「晴彦君とは高校に入ってからの関係だけど、人となりは理解してるつもりだからね。断るのならその場で言っていたよ、まだ晴彦君は決めかねているんだと思う。だから待つよ、晴彦君の判断が聞けるまで」


(お前な……しかし、同じ建築物内なのにかなり最近からの仲なのだな)


「晴彦君のほうは5年前に入居してきたけど、興味とか縁が無かったら意外と関わらないものだよ」



 そんな会話をしつつも、視線は母校である琥蒲第三小学校の方を見つめている。一応この同じ小学生時代を過ごしていた同級生のアドレスを持ってはいるので個人間やり取り用のSNSを開いて訊ねようと試みた時、正門から出てきた1人の人物が康平に向かって声をかけた。



「班長?」


「ん?……あ、君は」



 彼のもとにやって来たのは小学校高学年の男子生徒、どうやら彼は康平のことを知っている様子らしい。そして康平自身も彼のことを憶えているよう。



「久しぶり田辺たなべ君、元気してた?」


「元気……だと思うんですけど」


「いやどっちよ?」



 田辺と呼ばれた男子生徒の答えにツッコミを入れ、2人の間に笑みが溢れた。班長と呼ばれた事から察せられるがこの2人は学校の掃除班で一緒の仲であった、当時康平は小学6年生で田辺は小学1年生だったので会った時間は少ないはずだが、康平のことを憶えていたらしい。そんな楽しげな雰囲気の中、ふと康平はある事を思いつく。先に口を開いたのは田辺からであった。



「で、班長はこんな所で何をしてるの?」


「ちょっとワケありの用事でね。で、その用事に関係することなんだけど」


「うん?」


「田辺君、学校の七不思議について何か知ってる?」



 それを聞いた田辺は頭の中でクエスチョンマークが浮かんでいたとか。

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