第24話 王城への招集
絢爛豪華な玉座の間。
王都ディフレシスの中心に鎮座しているその場所に、四人の冒険者が招集されていた。
「……なんで、また私たちが呼ばれたのかしら」
「勅命の招待状が届きましたわ」
言ったのは、真紅の髪の少女と瑠璃色の髪をした少女。
セリカ・ロードライトと、ジュリア・ルピナスである。
どちらも気が進まないと言った様子で、眉間に皺を寄せている。
「ま、まあまあ、お二人とも。この前の黒龍討伐の件で、追加報酬を頂けるって話だったじゃないですか」
それを宥めるのは、桃色の髪をショートヘアにした少女。治癒師ココである。
「まあ、黒龍は私たちが倒したんじゃないけどね」
眠そうな顔をしているのは、小柄な少女ポーネである。
以前、国王から直々に勅命を受けて、山へと黒龍討伐へと赴いた四人が、再びこの場に集められていた。
急な呼び出しだった。急だったため、セリカとジュリアは逃げるのが遅れてしまった。
((帰りたい……))
また面倒ごとを押し付けられたら大変だ。嫌な予感がしてならない。だから帰りたい……。
「っていうか、私、報酬ならもういらないんですけど。だって私、お金いっぱい持ってるもん」
「私もです。お金なんてあってもどうせ使い道がないですし、余りすぎて困ってるぐらいですわ」
((……殴りたい))
ココとポーネは、拳を握りながらプルプルと震えた。
ココもポーネも貧乏である。元から貧乏であり、実力をつけてからも貧乏だ。何かと入用の物が多く、費用がかかるため、常に金欠だ。
そんな自分たちの前で、お金が余りすぎて困っている発言をする不届き者たち。
あるところにはあるのだ。お金というものは。だからそれを手に入れるため、ココとポーネはコツコツと努力をしているのである。
そして、準備が整い、王が玉座に腰掛け、国の重鎮たちが揃ったところで、話が始まった。
「皆の者、突然の呼び出しへの対応、感謝する」
「「「「はっ」」」」
「先日の黒龍討伐はご苦労であった。改めて礼を言いたい。そして今回、再びお主たちの力を借りたいのだ」
歳のほどは50程。がっちりとした体躯と、覇気のある眼光の王が、四人に向けてそう言った。
((……どうせ、また無茶振りだ))
セリカとジュリアはそんなことだろうと、がっくりと肩を落とした。
「実はこの王都に危機が迫っているのだ」
「また……ですか?」
「うむ。治癒師ココよ」
「この前も、黒龍のことで危機が迫っていた気がする」
「そうだ。錬金術師ポーネよ」
恐れることなく、ココとポーネが王に確認した。
この流れなら自分も、とセリカとジュリアは思い、堂々とした態度で言うことにした。
「色々事情があるのは分かったけれど、あいにく私はそこまで暇じゃないわ。やることいっぱいあるし、他を当たって欲しいわね」
「その気持ちも分かる。だが、話を聞いてから判断するのも、遅くはなかろう」
「いいえ。その時間すら私には勿体ないので、速やかに退室させていただきたいですわ」
((……話を聞いたら、絶対に押し切られる))
セリカとジュリアは、切実にそう思った。
要件を聞いたが最後、どうやっても説得されて死地へと赴かなくてはいけなくなるのだ。
「それに、騎士団があるじゃない。そのための騎士団でしょ?」
「そうだそうだ。あの剣はお飾りか」
「き、貴様ッ! 王に向かって、なんと無礼な口の聞き方だッ!」
「「……ッ」」
セリカとジュリアはまずいと思った。
控えていた重鎮のうちの一人が憤慨していたのである。
「……よい。お主は下がれ」
「しかし、王よ!」
「ワシは、よいと言ったはずだ」
「も、申し訳ございません……。出過ぎた真似を……」
王が止め、この場は収まった。
(危なかった……)
そして、その王は、内心冷や汗をかいていた。
王は知っている。
この場にいるセリカ・ロードライトと、ジュリア・ルピナスは、この国始まって以来の才能の持ち主であると。この二人がその気になれば、何事も容易くこなせるのだ。その最大戦力が、この国に留まってくれている。もし、この二人がいなくなりでもしたら、大きな損失だ。そんなこと、あってはならない。
((危なかった……))
そして、セリカとジュリアも内心、冷や汗をかいていた。
二人は知っている。
目の前にいるこの王が、かつてその実力で名を馳せていた存在だということを。今でこそ老いで全盛期よりも実力が落ちてはいるだろうものの、その力は計り知れない。幼い頃に、その伝説をよく耳にしたものだ。そんな王に向かって調子に乗った口を聞いてしまったのだから、即刻処刑されても文句は言えないところだった。
(((お、恐ろしい……)))
王も、セリカも、ジュリアも。
互いに互いを恐れあっていた。
まるでこの場は、破裂する寸前の風船を処理する現場のような切迫した状況である。
けれど。
(なんとか、この者たちに助力してもらわねばならぬ)
(なんとか、この場から逃げないと……)
(なんとか、依頼を受けずに済む方法を考えないと……)
各々、譲る気はなかった。
思考を巡らせ、最善の策を脳内で導き出そうとする。
「申し訳ございません。準備に手間取り、遅れてしまいました」
「!」
そこに鳴ったのは、静かな声。
上品なレッドカーペットの上を歩いてきたのは、齢16程のブロンドの髪をした少女である。
細部まで丁寧に仕上げられた純白のドレスを身に纏い、歩く姿はどこから見ても一切の乱れもなく整っている。
王都ディフレシス。ディフレシス王家の第三王女、エリーゼ・ディフレシスである。
彼女が現れたそれだけで、この場の空気が一変した。この場にいた者たちの視線全てが、彼女の方へと向けられることになった。
「おお。エリーゼよ。遅かったではないか」
「申し訳ございません」
王の前に来たエリーゼが、品のある所作で謝罪をする。
そしてこの場にいる者たちにも、遅れてしまったことを謝った。すると、周りの者たちは、逆に萎縮してしまい、慌てふためくことになった。
「いつ見ても綺麗……」
そして、治癒師ココはエリーゼに見惚れてしまっていた。
ココだけではない。先程まで、この場から逃げることだけを考えていたセリカとジュリアも、エリーゼの登場に思考が全てそちらにいっていた。
美しいのだ。それほどまでに、王女エリーゼが。
「……?」
そして、ポーネだけが気づいた。
(王女様、少しだけ立ち姿が不自然な気がする……)
気のせいかもしれない。けれど、エリーゼの姿にポーネは少しだけ首を傾げた。まるで足を少しだけ挫いているような、そんな感じがする。
「ポーネさん。この度は急な招集に答えてくださり、ありがとうございます」
「い、いえ。滅相もございません……」
ニコッと微笑みかけられて、ポーネの思考は一気にかき消されてしまった。
まるで、魅了の魔法でも使っているのではないだろうかというほどの、美しさ。それが第三王女、エリーゼという人物だった。
「さて。エリーゼも来てくれたことだ。早速本題に入ろう。数日前、情報が入ったのだ。王都付近で、とある魔物を目撃したという情報が。正体は分からない。調査に向かわせ、討伐したのだが、またすぐに目撃情報が入った。しかも、倒したものと同個体。なんと分裂し、再生していたのだ。自然に発生した魔物なのか。それとも、作られた魔物なのか。分からない……。前代未聞だ。そしてその魔物が、数日後にこの王都に向かって進行してくるという予測が立っておる。しかも力を増して、だ。故にそれの対処をお主たちにお願いしたいと思い、今回こうしてーー」
「私からもお願いします。どうか、お力を貸していただけませんか?」
「分かりました」
正直、王の長い説明は全く頭に入ってこなかった。
けれど、王女エリーゼに「お願いします」と言われたら、セリカもジュリアもココもポーネも即答で頷いてしまっていた。
そしてセリカとジュリアは「やってしまった……」と思い、こうなったらとあの人を頼ろうと思うのだった。
((この前、黒龍を倒してくれたあの山にいた人に助けてもらおう……))
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