第23話 あなたのこと、大好き。


 両断された龍の半身が、ドスドスと音を立てて地面へと落ちた。


 そこの中心に降り立ったのは、一人の人間だった。龍の素材が使われている装備に身を包み、握られている剣も龍の素材で鍛え上げられたものだと思う。


 それすなわち、


「……龍殺し《ドラゴンスレイヤー》」


 各地で龍を狩る龍殺し。倒した龍を素材にして装備を作り、その身に纏うと言われている。


 顔まである装備を着ているため、顔は分からない。


 そんな相手から感じるのは、隠す気もないほどの敵意。


「……白々しいッ」


 そして、一瞬だった。

 殺気を感じたと思った時にはすでに俺のすぐそばで剣を振り下ろしており、俺の命が刈り取られようとしていた。


 咄嗟にしゃがみ、俺はそれを躱す。


 追撃。それも躱す。さらに追撃。それも躱す。


 そして何度目かの追撃を躱したところで、大きく後ろに飛ぶと、一気に接近してきた。


 ーー早い。


 俺はそれを身を捩ることで、回避した。


「クラウディア。ここは危険だから、逃げるんだ」


 俺は避けながら、クラウディアを安全な場所へと避難させようとする。


「嫌よ」


 それを拒否するクラウディア。


「私が逃げる必要なんてないわ。だって、もう、斬ったもの」


「ぐふッ」


 その時だった。

 敵の体勢が崩れ、相手は地に膝をついていた。


「……っ」


 ……俺はその姿に目を見開いた。


 いつの間にクラウディアは剣を抜いていたのだろうか。

 ……全然、気づかなかった。


 見ると、何事もなかったように腕を組みながらそっぽを向いているクラウディアがいる。立ってる位置も全く変わっていない。剣を抜いた素振りもない。


 その態度は、余裕。こんなこと自分にとって造作もないという態度だ。


「……く、あなたはやはり、クラウディア……。Sランク冒険者の……」


 膝を着いたままの相手が、クラウディアの姿に苦々しそうな様子をしていた。


「いきなり斬りかかるなんてご挨拶ね。死ぬ前に理由ぐらいは聞いてあげないこともないわ」


 クラウディアが腕を組んだままの状態で歩いてきて、膝を着いている相手を見おろしていた。


 赤龍が現れた地点。村を囲むように張ってある結界。そこに現れた龍の装備に身を包んでいる相手。


 敵か味方か。


 俺に切りかかってきたことから、敵ではあるのだろうけれど、どうにも気になった。



 その時だった。



 両断されていた赤龍から、妙な気配が感じられた。

 切られた断面がうごうごと蠢きだし、真っ二つになっていたそれらが独立して動き出す。


「ッ」


 それを感じ取ったのだろう。龍の装備に身を包んでいる龍殺しさんが、眼光を鋭くさせて剣を握り直していた。


「あなたは下がってていいわ。ここは私がやるわ」


 俺の前に出てそう言ったのは、クラウディアだ。


 けれど。


「必要ない。だって、もう、倒し終えているのだから」


 瞬間、動き出そうとしていた赤龍の肉体が、破裂するように辺りに飛び散った。


「っ!?」


 驚きに目を見開く龍殺しさん。


「……ッ」


 クラウディアは一瞬驚いたように、そして悔しそうに唇を噛んでいた。


「……ねえ、今のって私への当て付け?」


 そして、口元をヒクつかせながら、俺の方を見た。


 もしかして、龍殺しさんを一撃で膝をつかせたクラウディアに対抗して、俺が妙な動きを見せていた赤龍を一撃で倒したと、彼女はそう言いたいのかもしれない。


 俺は確かに、龍殺しさんを無力化させたときのクラウディアの動きを捉えることができなかった。


 けれど、さっきの俺の動きを、クラウディアも捉えることができていないみたいだった。


 つまり、互角。


「ふっ」


 俺は語らず少しだけ笑っておいた。


「うふふっ」


 クラウディアもいい笑顔をしていた。晴れ晴れとするような、可愛らしい笑顔だ。


「初めて会った時も、あなたはそうだった。私、あなたのそういうとこ大好きだわ」


「俺もクラウディアの笑顔は大好きだ」


「「ふふっ」」



「……この二人……仲間なんじゃないの……?」


 膝をついている龍殺しさんが戸惑いの表情で、俺たちのことを見ていたのだった。



 そして分かったこと。

 さっきの赤龍は、本物じゃない。ガワだけ似ている別のものだ。生き物かどうかも疑わしい

 何かまでは分からない。けれど、倒した時の感覚が龍を倒した時のものではなかった。もっと言うなら、あの赤龍からは龍の気配も感じない。


 そして、ここら一帯に張ってある結界は、恐らく龍殺しさんが張ったものだと思われる。

 俺に対しては攻撃してきた相手なのだが、恐らくあの赤龍のようなものから結界の中にある村を守ったのも、龍殺しさんなのだろう。


 ここら一帯に充満している龍の気配は誰のモノだか分からないが、それをバラまいたのが今回の件の元凶だと思われる。


 そして龍殺しさんは恐らく、俺がその元凶だと思っているのだと思う。


 理由は俺の中にある龍の血。かつて俺は龍の血を飲んだことがあるため、まだそれが残っているのだろう。

 そんな俺は、見る人から見たらこう見えるはずだ。


「魔族」


「……ッ。やはり」


 やはりそうみたいだ。


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