第14話 貴様だったのか


「くッ、キリがないわ……ッ」


 飛びかかってくる敵を切り捨てながら、銀髪の少女オリビアが険しい顔をしていた。


 周囲には無数のレッサーデーモンの姿。

 倒した側から地面から這い出てくる。その数は止まることを知らない。


 それでも彼女オリビアは、片っ端からその下級悪魔を倒し続けている。


 磨き抜かれた刀身が敵の首を刈り取り、流れのままに次の敵を真っ二つにする。見惚れてしまうような動きだった。彼女が剣を降るたびに、緑色の血の雨が空へと飛び散っている。


 さらに身体強化の魔法も使っているのだろう。彼女の一撃一撃の威力も、凄まじいものだった。


 俺は俺で飛びかかってくる敵を倒し続けていた。


 本来ならば、俺も剣でレッサーデーモンたちを一掃したいのだが、剣が俺の力に耐えきれないため、鞘から抜かずに柄の部分で突き刺すように倒している。もしくは、素手で倒している。


 そして倒したレッサーデーモンが握っている武器、先が分かれている小槍を手にした俺は、その小槍を横に一振りして、複数体同時に薙ぎ払った。こちらも緑色の血飛沫が待っていた。使い終わった武器は、役目を終えたとばかりに壊れてしまった。俺の力に耐えきれなかったようだった。


 武器はこうやって、倒した相手から調達していけば問題はないが……。


「でも確かにキリがないな……」


「どれだけ出てくるのよ……」


 互いに背中合わせになって言う俺たち。


 周囲には、変わらずにレッサーデーモンの群れ。

 互いに互いの背中を任せながら、戦っている。


「あなた、なかなかやるわね」


「そっちこそ」


 つい、笑みをこぼしあう俺たち。けれど、笑ってる場合じゃない。


 とりあえず、一旦全部倒してしまうか。


 瞬間、俺は周囲に薄く魔力を広げていき、レッサーデーモンたちを全て捕らえた。


 そして、広げた魔力に働きかけてその魔力を膨らませた結果、この場にいたレッサーデーモンたちが体内から爆散するように弾け、緑色の血がまるで花火のように一帯に降り注いだ。


「っ。これ、あなたがやったの!? すごいわね……」


「でも、すぐに出てくるか……」


 ボコボコボコと、地面から手が生えたと思ったら、這い出てくるレッサーゴブリンたち。


「まるで、3年前……。ここにあったダンジョンで、本来起こるはずだったスタンピードが今起きてるみたい……。これだけでは終わらない気がするわ」


 彼女はそんなことを言うものだから、俺もそんな気がしてきた。


 そして、まるでそれが正解だったと言うように、再び地面が揺れた。


「う……っ」


 今度の揺れは、今までよりも強いものだった。


 そして轟音が轟いたかと思うと、一際大きな揺れののち、周囲に爆発が起きた。


 土煙が舞い、視界が悪くなる。


「ぐっ……そっちは無事!?」


「大丈夫だ」


 視界が悪い中、彼女が俺の手が握りながら、心配をしてくれる。

 そうしていると、土煙の中に浮かんでいる影の姿を確認した。


 でも、これは、でかい……。


「う……っ」


 風圧が巻き起こり、土煙が晴れる。


 そうしてこの場に現れたのは、下級悪魔レッサーデーモンの上位種。


「き、キングデーモン……」



『三年だ。我の計画が瓦礫とともに崩れ落ちて三年。この時をどれほど待ち侘びたことか』




 威圧を感じさせる声で、キングデーモンはそんなことを言っていた。


 人間の何倍ほどもある肉体。青黒いその肉体は太く、頑丈そうなものだった。

 背からは、禍々しいオーラが漏れ出ている。

 目は充血しているかのように真っ赤で、それが怪しく光っている。


 周囲に這い出てきていた下級悪魔レッサーデーモンたちは、歓喜の声をあげ、その登場を祝福するかのようだった。


『我は許さぬ。三年前に、我を阻んだ者を。そしてその憎き者の気配を感じ、長き停滞から、こうして今動き出した』


「な、何を言って……」


『分からぬか。三年前、我の邪魔をした者がいる。ダンジョンコアを破壊して、我らの進行を阻んだのだ。そいつが今、この場にいる』


「ッ。まさか、三年前のあのスタンピードはあんたが……ッ」


『クク……。人間どもよ、あの時絶望の渦に飲まれるはずだった貴様らが、再び絶望に飲まれる時がやってきたのだ』


 ブワッとオーラが膨らんだ気がした。


『本来なら貴様らは三年前に我が糧になっていたのだ。いわば、余生。どちらにしても、あの時貴様らは死ぬはずだった。そのために我は3年の歳月をかけて再び力を蓄えた。今から、本来の未来がお主らには待っているのだ。ーー我らに蹂躙されるという未来がな』


「……ッ。そう言うことだったのね……ッ」


 彼女オリビアが怒りを込めるように、剣を力強く握りしめていた。

 彼女は睨んでいる。キングデーモンを。


 キングデーモンは愉しむかのように口の端を歪めていた。しかし、こちらにも憎しみがこもっていた。

 三年前、自分の企みが崩れ落ちた。誰かに邪魔をされた。そう、さっき言っていた気がした。


 でも、三年前……。

 というと、あの時だ。

 俺がダンジョンの崩落に巻き込まれたあの時。


 じゃあ……。


「そうか、貴様だったのか」


『ほう……?』


 俺もキングデーモンの前に立った。


「そもそもの崩落の原因を作ったのは、お前だったのか」


 こいつがダンジョンで何かを企んでいたから、三年前のあの日、ダンジョンは崩落したのか。


『貴様……何を言って……』


 俺はあの時、崩落に巻き込まれて死にそうになった。


 でも、そうか貴様だったのか……。


 あの原因を作ったのが、こいつだったのか。


「許せない……」


『ッ!? 貴様、もしや……貴様だったのかッ』


「貴様だッ!」


 刹那、俺はキングデーモンの懐に潜り込み、握りしめた拳を叩きつけてその巨体を吹き飛ばしたのだった。


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