第19話

わっけわっかんねぇ.

なんで…

俺は…

このポーズ?

アピールって意味でも

実際の態度って事でも.

こんなん…

するつもりだったか?


地面見ながら跪いて無言でバチ差し出してる.

受け取ってくださいって…

恰好.


あれ?

アンコールもダンって終わって,

待ってっ,動かないでって

気持ちで

ステージをダンって飛び降りて,

ごめん通して,ごめん通してって

繰り返して

これ.

なにこれ.

必死に真面目に.

なにこれ.


きいちゃんに

女の子と

ちょっと話してる所

見せちゃえって

かっるい

いたずら的なのりだった.

少しでもムッと思ってくれたらいいなとか.


どんな奴か全く知らないのに.

そいつから黒い上下で行きますよっ

少し遅れますって知らせられてて,

何それ黒子やんとか

いきなり重役出勤ーとか,

ただの文字のやり取りして,

何気に入口意識してた.

今日は,いちさんたちに,こっちが披露.

感触はいいとこいってんじゃないかと思ってる.

上手くいったし.

こっちが揃う日と向こうの提示する日と,

スタジオ合わなくて,贅沢に箱借りちゃって.

箱借りて,それだけじゃ勿体ないよねって,

ファンサービスの日開幕.

折角だったら来たらって…

軽い気持ちだった.


空気が…

違った.

彼女の周りだけ.

いや

空気が

全体が変わった.

気がした.


顔が浮かび上がる.

客席.

暗い箱ん中.

衣装が闇に溶けて,

彼女だけ浮かび上がる.


途中で

ドラム打ち付けてんのか

心臓打ち付けてんのか

分かんなくなった.

会場がざわつき始める.

それは分かった.

それだけは分かった.


じんから言われてた,

あれを思い出した.

ステージ上で初めてだった.

分かんなくなったら

声聴いてって.

リズム刻むとか,

そんな次元の事が

出来なくなった.

何やってんのか分かんなくなった.

ステージ上,

じんの声だけが浮かんでた.

じんの声聴きながら

落ち着いて

音に戻ってく俺自身が.

そしたら,

ギターもベースも戻ってきて,

完全体に.


でも今度は

俺だけ見て

俺だけ見ててって

彼女を捉え始める.

不思議な感覚だった.

何でだろう.

真剣な顔して

射るような眼差しを

せざるを得ない.

きいちゃん駄目だったら

今度はこっちとか

完全に駄目だろ.

頭は,そう言うんだけど.

彼女を

手に入れないといけない.

アクション起こさないと後悔するぞって

そう体が心が言ってた.


彼女が

バチを…

受け取って…くれる.

なんか,それだけで

受け入れて貰った気持ちになる.

いやいや

怖いだろ.

頭おかしいんか.

「あぁ悪い.」

立ち上がりながら額に手を当てて,自分自身も分からない.

「よく分からなくって.」

ぼそっと言葉が出て来てしまう.

さらっと

髪が流れる.

彼女の.

「俺…

多分,貴女の事が知りたいんだ.」

顔見ながら言ってしまった言葉を,

こっち見ながら聞いている顔を見る.

あれ?

この子…

あのクッキーの子か.

照明も戻って判別出来たら出来たで,

勝手に驚く.


ははっ.

じんの事,好きだった子だ.

あぁ,

いつも,こんなんだ.

「楽屋来る?

じんもいるよ.」

言っておきながら,

じんは君の事,想い返してくれないと思うけど.

悔し紛れに心の中で呟く.

振出しに戻って,

もう盤ごと投げ捨てたい.

たまたま,繋がった繋がりを足掛かりにしたのか.

俺を踏みつけて本丸に辿り着こうとするのか.

したたか過ぎて仕方ない.

後ろ頭掻きながら,溜め息も一緒に付きたい.

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