第18話

メンバー揃っていない事を,じんが

しっかりと詫びてスタジオを後にする.

また,じんとしちさんが,やり取りをして

何かが決まる.

するにしろしないにしろ.

決定権は互いに持ってあるから対等で.

俺は大層良いイメージ.

向こうは分かんないから,駄目でも

今日を糧に自分の肥やしにしたらいい.

安定感と重量感ある演奏を体感した.

ちょっと上がってる.盛り上がってる.

だから,きいちゃんに歌わせちゃえっていうのは

流石に乱暴過ぎだろって思ったけど.

俺らだって出来るって所は見せたかった.

「言いたい事は分かるけど,声質が合わないよ.」

じんが言う.

「きぃちゃんは歌えると思うんだってば.」

俺が言う.

多分平行線.

論点は,そこじゃねぇって事を

お互い話してる.

分かってて,お互い同じ論を

ずっと繰り広げてる.

楽しくはないけど

つんけんでもない.

こうやって…

あっやっぱ楽しいかも.

耐えきれなくなって笑う.

笑った方が少し譲歩する.

「そしたら,コーラスっぽくいくのは?」

「今,流行じゃないでしょ.」

むむむ,駄目か.

「たら,きぃちゃんのために1曲下ろしてよ.」

「忙しくて無理.

けもが作るんだったらいいよ.」

えっ?

「あー…

保留で.」

じんが笑った.

この話終わりだ.

「俺らも,やれるって所を見せたいのよ.

なんで男女ミキシングなのか.

最大限良さを見せつけたいじゃん.」

そう言ったら,

「分からないまでもない.」

じんも言ったけど,

「今まで積み重ねたものを無視して

新しくやっつけで出そうとしても

それおかしな事なんじゃない?」

言われてしまった.

口歪めて,下を向いて前のめりになって腕組みをする.

甚だ…尤もか.

そんな感じの帰りだった.

「ん?車は?」

「車検中。」

「後ろ乗ってく?」

「あー…いや、いいわ。」

「遠慮すんなよー。」

「今の感じ見んのに、ぶらっと街感じてくる。

次ので俺らが昇ろ。」

強い目力が交差する。

「ぶっちぎりで。

売れるの生み出してね。ママ。」

笑って言うと、

「任しとけ。」

戻って来た。ありゃーやるな。やってのけるな。

うちのママ、男気溢れてんね。

きぃちゃん用のメットを最近入れてる。

あの電話以来、なんか…もしや

後ろ乗っけちゃう事あるんじゃないかって…

そう願ってる。

そういや一番に、じんへ被らせなくて良かったと

ふと思う。


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