第17話
「器材見せて貰っていいっすか?」
えっと…
うーん…
こちらの方はー…いちさんだ.
ボーカルの人が,えっと…
しちさんだ.
似てるから最初は,ごっちゃになってと…
ベースの…やたさんが,言ってた.
しかも子音が似ているから,
呼んでも違うのが来てって笑った.
だけど,それは違うって,
しちさんもいちさんも否定してた.
耳が悪いって言われたくないっぽい.
まぁ確かに,耳も生命線.
そしたら,ギターの…えっと…ごうさんが,
やたさんの活舌を指摘してた.
歌わないからいいんだよって,やたさんが言って.
うちのギターは,色々私生活とんちきだけど,
こっちのギターさんは,調整役みたいだな.
じんみたいな役回りだったりするのか.
じんは,しちさんと話し込んでる.
なんか…
まだ誰がどれか,記憶固定されてねぇから…
記憶力ゲームをされているみたいだ.
間違って呼びそう.
ボーカルやドラムの方々は,
んちさんって,それっぽく言ったら大丈夫じゃないかって…
こんな心構えは多分駄目で
伝わっちゃうんだ.
あぁ.
いちさんが
「触っていいよ.」
って言った.
いんすか?
まじで?
いきなり今日の今日出会った知らない人に触らせてくれんの?
俺だったらやだなぁ.
だから,こその,見てもいいすかの声掛けだったのに.
「打ってみたくない?」
使い込んだ瞳がきらっとして,俺を見てた.
やたさんのようにグレーの髪を短く刈り込んでる.
顔の皺は生き様.
ちょっと眉間に皺寄せながら打ち込んでたから,
怒りっぽい人なのか判断に迷う.
今日,俺バチも置いてきてて.
まさかのプレイヤーにはならんだろって,
勝手に思い込んでた.
よく考えたら何でだ.
一緒にやんのに.
あぁ…やるって決まって無かった.
その前のプレとかリハとか…
要は合うか合わないかの顔合わせ的な何か.
バチだけ持って来て,相手の相棒叩く気満々とか…
それもそれで駄目な話だろう.
だから,合ってる.
ここまで,俺は俺的に合ってる.
両手体の前で上げながら,
焦ったように首を振ると,
「使っていいよ.」
ってバチ目の前に提示して笑った.
歯が見えて,煙草とか吸うんかなって,
ただ…ちらっと頭をかすめた.
やべぇ,俺バチとか貸せるかな.
じんなら躊躇ないけど…
きぃちゃんにだったら渡せるか…
ひとも…あぁ…どうだろ.
でも,あいつも…いや,どうか分かんねーな.
この人,いちさんにも,
すんなり渡せたのだろうか.
借りた後なら,借りたしって思ってやれるけど.
何も無い中…渡せたか.どうか.
「いや,今日は大丈夫っす.」
なんか一回目は遠慮しとけって心が言ってきた.
「俺のが使えねぇのかよ.」
お…?
俺ー脅されてんの?
手を上げて下向いてたけど,
顔上げたら…いちさんが笑ってた.
こんな持ちネタの人いるよなって思いながら,
じゃあ遠慮なくって小刻みに頷きながら受け取って.
「椅子合う?」
って気にしてくれる.
体格同じくらいだから,きっと合うだろうって
思い込んでたんだけど…
少し下げた方が合うから…
短足なんじゃねぇかとそら恐ろしくなる…
まじか.
「いちさんより足短いらしいっす…」
言うと,いちさんが笑った.
「ちょっと靴底厚いだけかもね.」
って言うけど,
普通のスニーカーに見えるという…
中が凄い事になってる奴じゃねって
思い込んでおこう.
いちさんと連絡先を交換する.
なんか仲良くなれたっぽい.
っばっと、あっちそっちの連絡先繋がる。
お互いにフィルターかけていなかったらしくて、
あるだけ出せるだけ全て繋がった感じ。
「あっなんかすみません.」
って言っちゃったら、
「お互い変な人じゃないから大丈夫だよね.」
って言われた。
はいって言ったけど…
変か変じゃないかって、自分じゃ判断つけらんないかも
とも思ったりした。
じんが,そろそろって俺に声を掛けてくる.
あぁ.うん.
「いちさん,今日は有難うございました.」
って頭を下げたら,
いちさんが
「楽しかったね.」
って言った.
何聞いても惜しみなく出してくれる人だった.
何だかちょっと驚いた.
対バンとかしないから,よく分からないけど,
俺何聞かれても,あそこまで手の内は明かさんかも.
ただ、上から色々言われたら、俺はっ
こうでって言い張ったかもしれない。
色々使い込んでて,
あれはあぁで,これはこうって教えて貰った.
何だろう.
余裕があるんだよな.
こっちは,余裕なんて無くて.
一気に,こっち側へ来るよ色々とって笑った
いちさんを見て,
そうかもなーどうだろなーって思うだけだった.
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