第16話

「俺らだけでいいのか?」

まじで。

「仕方ないだろ。

合わないんだから。

合わせようがない。」

まぁ…尤も。

きいちゃんも、ひとも?バイト。

「きぃちゃんとこ,バイト減って忙しいって

言ってたもんな.」

「バイト減ったら忙しくなくない?」

「あぁ…バイトの奴が.

昇ったってよ.」

「あぁ…理解した.

メジャー?でぶー?」

「だってよ.

パンって動画跳ね上がったって。

とんとん。」

たんたんたんと掌を過激急勾配の階段状にジェスチャー

一緒したった。

じんの溜め息だけ聴こえた.

羨まっしい.

口に出すと悔しくなるから言わぬ.

お互い.分かってる.

「あぁ…ひとも新しい事業始めたってよ.」

「ん?」

あぁ…それ,どーでもいーわ.

「貰った.」

見せられても…

「俺,声もかけられて無いし,そんなん知らんよ.」

そんな間柄じゃなくなってきたって事くらい

分かってるし,あれこれ聞きたい訳じゃねぇけど.

「使わないから,やる.」

「こういうのって何か許可取り必要っしょ.

そんなん出来てんの?」

「突っ込んで聞けないから.」

「あ…うん…まぁ…だな.」

お洒落なデザインの…

出張型ね…何てものに手ぇ出しとるんよ.

「ん…ほらっ.

見たから.返す.」

「だから,要らないって.」

「こっちも要らんわ…」

「涙拭いたらいいじゃん.」

「これで?何で泣かすのだよ.」

「よく泣く…」

「あぁ!?」

「嘘って.悪い冗談.」

ぐいぐい押し付けてもポケットに手を入れて

受け取ろうとしないから,

ポケットにねじ込もうとする.

隙間あるようで,ねぇなぁ.

「俺は必要ないから.」

「はっ!?俺も必要ないって!」

頑なに受け取らねぇから,地面にぽとっと落ちる.

「持っとくの嫌だったんだよね.

このまま捨て置くか.」

じんが言うから,それもそうかとも思って…

「いや,誰の目にも止まる所に,

こういうの置いて置いたら駄目だ.」

言いながら拾って…ポケットにねじ込む.

「使わんからな.」

そう言うと,

「鼻ぐらい拭いたらいいよ.」

ってじんが言うんで笑った.

「時間,時間.」

とも言うので,そうだった.

俺ら,待ち合わせの場所に向かってると思い直した.

「悪かったな。電話.

言えばいいのに。」

「言わなくてもいいって

いつも言うから。」

「あぁ…」

あぁ…

電話の、あの日あの時じんは今日日の調整中だった。

顔合わせのスタジオに、じんと急ぐ。


リードボーカル2人.

男女ミキシング。

気の合う2人.

何やら連れ合いとの事.

どう見積もっても神経を逆なでするような

しないような.

きいちゃんの,いつも立ってる場所見ては,

見ては.

がっちりロマンスグレーをまとめあげてる.

紳士的な男性.

視線に気が付いて首を傾ける.

右手を少し上げて,首をすくめながら下を向く.

俺の事情は,この人らに全く関係無いし,

俺は俺のやるべき事をやらなければならない.

挨拶自己紹介そこそこで,相手の披露を気を締めて聴く.

ロックとバラード聴いて,この人たちの事を

入り口だけ把握する.

実は,それ程他のは聴かない.

惹いてしまうから.憧れて。

弾いてしまうから.真似して。

退いてしまうから.巧過ぎて。

本当は若輩者の俺らが先に出さないと失礼だったんじゃないかって,

そんな風に思ったけど.後の祭りだし.

取り敢えず腕組みは失礼だから癖でもしないように

しないとだろってだけ考えて,

片方の腕時計握りしめて,不自然でわざとらしくならないように,

上向きに握った手をエアーで刻んでた.

ちょっとポラ見た時の自分を,

全力で止めに行かなくちゃなんない.

年数重ねるって,こういう事なんかと.

ひよっこのひよちゃんは,そう思った.

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