第6話

「捨てろよ?」

「えっ?」

見るからに…

手作りのクッキー。

上から見て下から見て、

どんな気持ちで作ったんだろうとか思ってみる。

考えると気持ち悪くなるから考えぬ。

「怖くね?」

「あぁ…まあ…」

でも、お前のために作ってくれたんだ。

「捨てるのが悪いから貰ってない。」

「うん…まぁ…

それは分かる。皆…

他のメンバーそんな感じだよな。」

「捨てろよ?」

「何回言うんだ。

張ってんぞ。」

「えっ!?」

後ろ振り返って焦りまくるじんの後頭部に

笑いを浴びせて遣る。

「うっそん。

明るいとこ通って帰ってるよ。」

さっき、じんが帰り心配してやってただろ。

「やっば。

何。超焦る。」

あはは。

「一応、人は見てる。」

「あー…あ?」

「食べてるよ。」

「こわ…

いつか、ヤバい事になるって。」

「なっても覚悟はしてる。」

「えっ!?」

暫し驚いた顔を見続ける。

「頼まれてっていうやつは

受け取らない。」

「…あぁ。

まぁ、そうだな。

受け取ってない所、見た事がある。

でも、それも稀な。

手作りが好きなの?

飢えてる?」

ばっかやろう。

「市販品の方が安心して食えるー。

だけど…受け取ったからには…

あぁ、この人が作ったんだなって認識して、

この人にだったら…まぁいいかって気持ちで食べてる。」

「こっちもこっちで、怖いわ。

ほどほどにしろよ。

こっちは誰と組んだらいいんだよ。」

「ははっ。

あっち停めてるから。」

「おぉ。」

フィスト・バンプ。

「ぅうぇーい。

お疲れっすー。」

「お疲れー。」

まじで今日は最強に疲れたわ。


「けもっ。」

「何?」

まだ何?忘れもん?

「打ち上げ。」

「行けんって。

お前だけ行っとけ。

もう終わってんわ。」

「こっちもしない?」

「今から?」

なんか帰る気満々になってるけども。

1泊 駐めっぱ,やっすいとこ選んでるから,

まぁいいが.

「それ。」

「これ?」

2人してかち合う視線は

さっきの一生懸命クッキー.

「一緒食べてみる.」

「あっ…あぁ…

食べるんなら1つ残らず食ってやれよ.

お前の腹におさめて取り込んでやれよ.

一生懸命を捨て去すなよ.」

「けもは…

時々いい事言うな.」

「いつもだろ,こら.」

「1人では食いたくない.」

「あ?」

「その子のだけ特別に食べるって気持ちにはなれない.」

「あ…あぁ.」

路肩に座って…

「じん,開けて.」

手渡す.

投げようかと思ったけど,

あぁ駄目駄目って思った.

「全部,開けて食ってる?

あん時の…イベントの…

食べこなせた?」

「全部,開けて食べてますよ.

このあいだのは少し…だいぶ…

結構…後悔しながら食べ終わった.

ひとが体格について言うもんだから…

お前っって,正直思った.」

ははっ.

だからって言わんかったけど.

知らんでも回る事って世の中あって,

それをいちいち言ってたら切りが無くて.

知ってる奴が知ってたらいいんかなって.

いや別に知られんでも自分が分かってたら

いいんかなって.



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