第20話

「ごめん,スティック返して.

帰り支度しないと.

意味不明過ぎて笑っちゃうよな.」

俺の商売道具.

俺の心だから.

あげらんない.

じんを好きな君には渡せない.


「今日はっ!けもさんに会いに来ました!」

「あぁーいい,いい.そんな気遣い要らんって.

大丈夫よー.」

身の振り方ぐらい分かってる.

「帰られんから.

スティック戻して,こっちに.」

「そんな感じだったら返せません.」

「どんな感じだよっ.

早く,こっちに渡して.

帰られんから.」

思いっ切り奪い取ってもいいんだけど…

なんで,こいつと大事なスティックを引っ張り合いこしてんだ.

力具合が分かんなくて,ちょっと心配になる.

「君,これ危ないから.

怪我すると嫌だから.

手を離して.」

「嫌ですっ.駄目ですっ.」

「何でっ!?

これ,俺ので.俺のだからっ.」

こういう時は,あれだな.

「何?これ,俺のだから欲しいの?」

ニヤニヤして手を止める.

こう言うと大概,何言ってんだよってなるんだよな.

ほらほら早く.

言えって.離せって.

「駄目ですかっ?」

えっ?

「要らんやろ…

あぁ何?君,ドラム志望?

俺の代わりに入る?

女2でちょうどいいかもなー.」

「プレイヤーにはなりたくないです.」

んーえっ?

もうなんだ,この人.

「ほら君,だいぶ俺これで時間食ってるから.

片して撤収が,相当に遅くなんじゃん.」

「じゃあ私が一緒に帰ってあげますから.」

えっ?

「どう考えても,こっちが君を送ってあげなきゃなんない図になんでしょ.」

じんは絶対に送んないよ.君を.

だけど,こっちにお鉢が回ってくんのは面倒なんだっよっ.

君の事,食べらんないでしょ.

「ほらっ君も撤収っ.」

して返して俺のバチ.

あーもうー客もいねーじゃん.

メンバーも,どっか行ってんじゃん…

無理に引っ張ったバチが爪を引っ掛けた…

みたいだった.

「…っ」

手を庇いながら小さい子が更に縮こまる.

「ごめんっ大丈夫っ!?」

やばいっ…

根元からいったのかもしれん.

手元にバチは戻って来たけど…

だいぶ良くない状況.

泣きっ面にバチ.

でっかいの襲来.矢継ぎ早で.

気持ちが腫れる.

爪って引っ付くの?

急げば何とかなる?

10秒ルール適応?

取り敢えず拾って当ててみるか.

多分…無理だよな…

拾って…触って…

これ…プラいな.

ぷらっちっくだな.

可愛い花が舞ってる.

これ付けて,じんに見て貰いたかった…

んだろうな.

俺が…邪魔しちゃって…

あぁ…

うん…

「あー…ごめん.

弁償するよ.

言い値で.」

俺言ったよな,忠告しただろ,

そっちが手を離さんからって

言われんだけマシと思ってよ.

はぁ…余計だな.

時間よー戻れっ.

SNSで繋がる前までっ.

神よって祈りたい気分.あー俺,無神論者だった.


「言いなりでいいですか!?」

あ”ぁ!?

「言い値は出すけど,言いなりにはならんよ.」

可愛いのに小憎らしいな.

つかっ

言い値も出したくねーけどなっ.

お前のせいだからっ.

お前が手を離さんからっ.

ぐっとこらえた所で,状況が良くなるそぶりが全くなかった.

「あー…もう…

言いなりになってやるから…」

もう帰らせて…

頼む…

頼むよっ!!!

無理矢理ぶち当たりに行った小さい石で

盛大にすっ転んでる気分.

ノリツッコミの極極極酷い版.

「して…これ…はい.

花が…可愛いね.」

小さい爪の形に凹凸の花がくっついてる.

ここは褒めて置こうって打算が働いてる.

それ以上の意図は無い.無いんだっ.決してっ.断じて.

「可愛いですよねっ.」

にこにこしながら,こっち話しかけてくる.

「う…あー…うん.

爪がね.」

「欲しいですか?」

えっ?何が?

「爪を?これ?拾ったやつ?

悪いけど要らないよ.わーきゃー可愛いー

とかって,着けてても怖くない?」

俺の言った言葉で…笑う.相手が.

「見てみたくなりますよね?」

下から顔を覗き込まれると,落ち着かなくなった.

「いや,なんない.」

視線逸らしながら,どぎまぎしてないように振舞う.

「返すから手を出してよ.」

そう言うと,左手を出してくれるんだけど,

微妙に左右に揺れてる.

ん?

「痛くて揺れてる?大丈夫?」

「大丈夫です.」

と言いながら揺れてる.

何でだろう.こういう癖のある人か.

身体的特徴の人だったら…指摘しても良くないな.

仕方ないか.

こっちも相手の左手を左手で包み込んで支える.

右手で相手の手の平の中央に乗せて,包み込むように握らせる.

また,落としても失くしても事だし.

きちんと受渡式は成功した.

ちょっと小さい手だなとか,あったかいなとか,

思ってない.思ってねぇから.

「手は,わざと揺らしました.」

ニヤッと笑って,こっちを見てくる人に…

あぁなんか,やべぇ奴に掴まってんなーとか…

思いつつ…

「君さぁ…小悪魔って言われない?」

あぁ…

褒めてねぇ…

にっこにこ笑う,その顔は…

確かに可愛い.大天使ですね…

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