第24話運命の瞬間③


 そして注目のお題目一つ目

「お題目一つ目の優勝……」

 佐伯が言い始めると、それを遮るように

 コツコツと音がなる。靴の音だ。



「十五年前、俺はひとりぼっちの迷子の子猫を拾ったんだ。拾ったのは俺。甘やかしたのもケンカしたのもあいつ。その子猫は涼に敵意をむき出しにするしぐさを見せながらその実とても懐いていたんだよ。たった二日間だけだったけれど、さみしがり屋の子猫は本当に楽しそうだったんだよ」


「誰も誰かを馬鹿にしてはいけないなら勿論それは自分も入るのよ。あの時リコが言ったセリフ……少しは解ったのか?同じ事いってんとまたリコに怒られんぞ。なあ、猫……具のたいして入ってない薄い牛乳のシチューと、ただの水道水が、あの頃の俺達にはご馳走だったな」


 涼は黒のコックコートのズボンに手を突っ込み、柱にもたれかかってニヤリとした口元を歪ませたまま

「うめーかよっ」

 と聞いた。


 部屋の奥から聞こえてきた小さな声は、まるで春の訪れを感じるような天使の声だった。

「すごくうめーよ!ばか……」



「優勝者は、

 三枝 涼

 雨宮 悠

 トラットリア・アッローロ」

 会場は割れんばかりの拍手で埋め尽くされた。





 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る