第20話 女神の再来①

「なに、おめーまたやらかしたの?好きだねー」

 涼にすら呆れられながらアランはポリポリと頬を掻いた。

「出来心だったんだよ。本気じゃない」

「お前さん最低発言だぞ?悠とラフのあの顔見てみろよ」

「怖いからやめとくよ」

 アランはバツが悪いらしく三枝に隠れるようにして小さくなっている。



 どうやら彼はムッシュアランの恋人らしい。顔は見ていて知っていたけれど、それだって今日ここにくるまでエンダーが本選通過者をパンフレットで見せていてくれたおかげだ。


 そうでなければ、記憶力というものに縁のない俺では、カメリエーレの顔をなんとなくでも記憶できているわけがない。

「俺って物知らなすぎなのかな?」

 アンドリューは独り言のように話すと

「今さらですけどね。やっと気がついたんですか?良かったですね、これ以上恥を晒さずにすんで」

 エンダーが追い打ちをかけた。

「まあまあ‥‥そう待ち針で刺すような言い方しなさんなって」

「まち針って」

 エンダーはご機嫌ななめなのを隠さなかったが、悠は 「トゲなんかより遥かに痛そうじゃないか」とクスクス笑いながら、彼をなだめていた。

「いや間違ってないですから」

 アンドリューは苦笑した。


 店内に流れていたオルゴールのクリスマスソングは一周してワンダフル・クリスマスタイムに戻っていた。何か違うのが聞きたいと思っていた頃、タイミングを見計らったかのようにラファエルはヴァイオリンを出してきた。ホール中央にクイッと顎を動かし立てた親指で、悠にやらないか?と誘う。

 ラファエルとの競演なら断る訳がない。悠はラファエルのバイオリンの才能を高く評価していたし、目の前の朱璃の形見を弾きたくないわけがない。

「喜んで」

 




 今日食事に来ていたお客はまさにラッキーの一言に尽きると思った。

 美しい男が二人中央に歩み寄ろうと席を立つ。目ざとく見つけた一人の紳士が

「ミラクル」 

 と囁くとその声を拾い水面が揺れるかのように声が広がっていった

 

「ウォォォォォォォォォ」

「ファンタスティック」

「エンジェル」

「クールガーイ」

 黄色い歓声まで飛び

 レストランというよりライブハウスのようだ。

悠とラファエルが中央に歩き出す。

ラファエルのヴァイオリンに悠のハープの織り成す音楽。



「なあエンダーあれ二人共、まさか弾くつもりなのか?」

「当然でしょうね」

 アンドリューは目を白黒させながら、中央に歩いて行く二人をじっと見つめていた。

「ほほぉ、涼の食事の誘いに乗ってわざわざ上まで上がってきた甲斐があったというものだ」

 愛妻家で通っているヴィンセントはビアンカの耳元で囁いた。

 

「今日は最高の一日になったよ、ビアンカ」

「まさか本戦二日前に女神たちの競演を生で聞けるなんて、ファンタスティック以外の何物でもないですわ。ヴィニー」

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