第10話 靖二の覚悟
【日本・東京麻布】
あれから十五年俺は日本に連れて帰られ羽柴としていろんな勉強をした。
会いたかった人にもう一度会いに行く勇気の持てないまま、二年前悲劇は起きた。そして俺はそれをはるか遠く離れた日本で知ったのだった。自力で立ち上がった彼らはそれでも未だ、アマルフィの祭典には参加権はない。
俺は俺にできるやり方で彼を助ける。
「親父ちょっといい?二人で話したい」
リビングでお袋とくつろぐ親父に話しかけると、まるで来ることが分かっていたかのように、俺の前に俺の分の珈琲を差し出した。
「書斎に行くか」
立ち上がろうとした俺たちにお袋が声を掛けた。
「こちらでどうぞ。私が絵を描きに行くわ」
「今何を書いているんだ?」
「この前蓮の花の写真をくださった方がいらして、本当は早朝にキャンバスを持っていけたらいいのだけれどまあ仕方がないわよね」
「連れて行ってやろうか?」
「大丈夫よ」
お袋は決して親父にわがままを言わない。なんでなんだと小さい頃聞いた事があるが、おふくろは、親父の弱ってる心に付け込んだ罪悪感かしらと言っていたと思う。
「でどうした?」
「羽柴家の後継者の権利についてなんだけど」
「ほう」
「俺がついでも俺の伴侶がついで良いって言ったよね」
「俺が納得いく相手ならばな。性別も年齢も問わないぞ」
靖二は心理戦を得意とする。駆け引きのたぐいだ。特に相手が親父なら負ける確率0パーセント。
「親父が認める相手って俺が幸せになれる相手だよね」
「当然」
「それならば俺の希望はただ一つ。かつて一度だけ食べたことのある思い出の味を作る人と添い遂げたい」
「相手がそれを作るとは限らんぞ」
親父は煙草を薫らせながら顎をさすった。
「賭けさ。本当に欲しいものは手をこまねいていては手に入らない」
特にあいつ相手なら尚のこと、捕食者の本能に火をつけないと‥
「優勝するか分からないぞ。百にもゼロにもならないからな」
「俺の食べたいものを作る人を選ぶさ。忘れていたらジ・エンドだよ」
「取り敢えずは、あれにぶつける世界タイトルの料理の祭典を企画したい。俺を助けてくれた仲間を今度は俺が助けたい。お願いだ力を貸して欲しい」
「そう言ってくると思っていたさ。任せろ、外堀を埋めるのは得意なんだ。そろそろさ」
「親父‥‥知って‥‥‥」
「俺だって感謝しているのさ。あの空白の二日間がお前に与えた影響は計り知れないよ。お前の事ならなんでもお見通しだ」
携帯が震える。親父は機械越しに
「いいタイミングだな佐伯。ああ時は満ちた。いつでもいいぞ」
と言った。
佐伯さん‥親父の秘書だ。時は満ちたとは‥俺のことか
親父にはかなわねえわ。
財力や行動力にプラスして、天性の人たらしの才能を持つ親父は、世界各国にメディアを通じて情報を流した。
【世界一の料理の祭典 羽柴戦開催】
開催日 ・十二月第二日曜日
お題目① ・審査員が今まで食べたなかで一番美味しかった思い出のシチューと飲み物(一部審査員の顔は非公開)
お題目② ・最高のシチューとそれに合わせた飲み物
参加条件・プロであること・過去の祭典での資格剥奪等の有無は問わない
場所 ・アマルフィの祭典会場と同じ
優勝賞金・①は五千万
・②は一千万
副賞 ・①の優勝者にのみ開示
さあ天辺はどいつの物だ?
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