第6話 クレマチスの庭②

「んで悠は何でこいつ、拾ってきちゃったわけ?」

 このやり取りまたすんのかよ!という悠の顔色をキャッチしたのか、涼は片手に持っていたお玉を振り回し

「わかったわかった。なんでもいいからそこの奴も手伝えよ!」

 と言い捨てキッチンに戻っていった


「うちのボスのお許しも出たし、君も花を飾るの手伝って、お前たちは机の上にお皿とかをだ出そうな」

 悠は弟たちにテキパキと指示しエマが返ってくるより早くセッティングを終えた。

「涼おいしそうな匂いがするよ。今日の献立結局何にしたわけ?なんかえらく豪華な感じがするんだけど」

「っつうかその前にそいつ名前は?」

「どうでもいいんじゃ無かったのかよ」

 悠は流そうとしたが

「お前!とかだとみんなが反応しちまうだろ」

「関係ないだろ。どうせ俺なんて」

 あっっバカ靖二‥‥‥反応しちまった。ジーザス‥

「お前の意見なんて聞いてねーよ!」

 みんなはこうなったら涼が譲らないのは知っている、当然視線は捨て猫に集まるわけで、

 目が言ってる。

『自分で蒔いた種だ、どうにかしろよ』



 わかったっつーの。

「靖二‥‥‥靖二だよ」

 靖二は自分を靖二と名乗った。

 捨て猫が口を開いた。

「しゃべれんじゃねーか」

 いじわるそうに涼が笑うと

「うっせーな!はぐれたのはホントだよ。ホテルは覚えてる。帰りゃいーんだろ」

 出ていこうとする靖二の細い手首を、涼の節くれだった大きな手が掴んだ。

「待てよ。どこから悠に引っ付いてきたわけ?捨て猫君は」

「靖二だって言っただろ。記憶力ないのよ!」

 威嚇するように虚勢を張る靖二に、涼は見下ろすように睨みつけると唇をなめた。


「おい病気!」

 悠は何かを察知したのか涼を静止にかかる。

「おい病気っつってんだろうが」

 涼は悠の制止も軽くいなし、言った。

「黙れ。邪魔をするな」

 声が一オクターブ下がると自分でもわかる。ドSのスイッチ入ってる。

「勝手にしろ!」

 悠は壁に体を預け周りの子供たちは二歩下がった。

 頼りのリコは着替えにいてしまったし、後五分は降りてこない。

 いくら10歳も年上だろうと、女性の着替えを急かす奴らはここにはいない。エマの躾の賜だ。


 捨て猫はビクッと身体をちぢこませて、自分の乾いた唇をなめた。

涼は尾てい骨に響くいい声で靖二の耳元に唇を持っていく。発動するのは【尾てい骨直下型】ドМでこの攻撃に耐えられた奴はいない。

 小さなころから一人ぼっちで生きてきた涼は自分を売るすべにはたけている。顔も声も筋肉一つでさえ、武器になる。

 落ちろ!捨て猫!

 組み敷かれるのは性に合わない!

 狙うは攻撃側だ。

 それに‥ドМは体が反応するからすぐわかる。こいつは

Мだ。それも飛び切り優秀な。最上級の獲物。

「で?どこからついてきたわけ?んー?」

 俺の声にもう理性は働かないだろう?手が靖二の腰をつかみキスをしようと顔を近づけた瞬間、涼の目の前で赤いものが流れた。


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