第12話羽柴戦序章 オランダ編ヴィンセント
オランダ人シェフ
【
大きな花瓶に今日の花を活けながらビアンカがパチンパチンと花をきっている。綺麗な黄色いシンビジウムは白いエリカと組み合わせるとレストランの白い壁によく栄える。
オーベルジュとして三部屋を賄っているこの店はマダムのセンスの良さが目玉の一つで、ヴィンセント・ファン・ゴッホにちなみ部屋には絵画が飾られている。
「Vide`o mare quant`e bello♫ Spira tantu sentimento♪」
カンツォーネを口ずさみながら庭を歩いてくるヴィンセントを見つける。
「あらその歌を歌うなんて随分と機嫌がいいのね、ヴィニー。今回の世界大会の出場者締め切られたわよ」
「で?勿論」
「居たわ」
「
ヴィンセントをヴィニーと呼ぶのは今回のペアを務めるマダムビアンカだ。
「良かったじゃないの」
「ペアは?」
温度が上昇している。
「勿論」
「悠か」
ビアンカはヴィニーの纏う空気を感じ、コーヒーをいれようとした手を止め、白湯に変えた。
本気のヴィニーは水か白湯しか飲まなくなる。どうやらその方が味覚が鋭敏になるのだそうだ。
結婚する前から変わらない儀式のようなもの。
「ビアンカ、明日から十日間臨時休業の張り紙を出しておいてくれ」
温度が更に三度ほど上がった気がする。こういう時のヴィニーはぞくぞくするほどかっこいい。
「わかったけど、どこに行くの?」
わかっていてもつい確認してしまうのは安心したいからだ。
本気になった証拠‥‥ここぞというときに必ずヴィニーがすることといえば
「アムステルダムに行ってくる」
「ゴッホ美術館ね」
長い髪をハーフアップにまとめ、片側に赤いメッシュが入った三枝にも劣らぬイケメン具合。
「何を作るかは決まっているの?」
「これだ」
ヴィニーが投げてよこした絵葉書はハネムーンでクレラー=ミュラー美術館に行った時のものだ。
「玉ねぎのシチューね」
それなら極上のバターをゲットしなきゃいけないわ。
「アムステルダムのL`amuseでエシレのバターが買えるから。おじさんに出してもらって」
「明日からは当分ゴッホのスープだわ」
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