第15話 会うは別れの始まり
「何をしている」
つい先日まで倒れていたというのにばさばさと庭で布を広げている雪藍に、耀冥は顔を顰めた。
「煌葉さんに何か出来る仕事が無いか聞いたんだけど、駄目だと言われてしまいました。とはいえ、何もしないのも落ち着かないので自分の仕事をしようかと」
雪藍の腕はところどころ黒く染まっていた。
「何だこれは」
「そ……んなに直球で言う人は初めてだ。
「記憶が無い?」
耀冥が怪訝な顔で問いかけるのを、よくある反応だと気にする風もなく雪藍は頷いた。
「ええ。何故記憶を失ったのかも分かりません」
耀冥にしては極めて珍しいことだが、記憶を失ったことについてはそれ以上聞かないという気遣いを見せた。
「……今も痛むのか」
「発作がたまに起きるのと雨の日に疼痛があるくらいで、普段は何ともなく動けます」
「その様だな」
雪藍の思わず見惚れるほどに流麗だった足技を思い出しながら、耀冥は頷いた。
「うん、もう乾いたようですね」
立ち上がって布を取り込む雪藍に倣って耀冥も干された布を取り込み、「これはどうしたらいい」と問いかけた時だった。
くるりと振り返った雪藍の目を見て、耀冥は思わず言葉を失った。
人魚の涙と評される
「──っ!」
「耀冥?どうかしましたか?」
「お前、その目の色、」
耀冥の指摘に雪藍がバッと顔を逸らした。
「色が変わっていますか。いつも黒いのは特殊体質というか、その、見なかったことに──」
耀冥はギリッと奥歯を噛み締め、絞り出すように雪藍に告げた。
「……華南に帰れ。二度と
「えっ?何故急に……やはり、このような体質は気味が悪いですか」
「違う」
雪藍の腕をぐいと引き寄せて燿冥は泣き笑いのような表情を浮かべた。
「……よう、めい?」
「煌葉には私から話を付けておく。お前が華南に戻っても街の人間に危害を加えられる事がないように人員を手配する。──だから、二度と……二度と、
燿冥は別れを告げながら、ぐしゃりと苦しそうに顔を歪めて雪藍の腕をもう一度強く掴む。それから耀冥は雪藍の体を放し、「燿冥……!」と己の名を呼ぶ人の方を一度も振り返ることなくその場から立ち去った。
──誰にも見つかることなく幸せに暮らせ、我が
天藍飛花ー王は君子の華を希うー 蘆名碧亥 @luluyuri182
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。天藍飛花ー王は君子の華を希うーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます