天藍飛花ー王は君子の華を希うー
蘆名碧亥
プロローグ
「
男は
「こら、燿冥!ちゃんと聞いてから押してくれよ!」
「聞いている。それにお前がこれでいけると思って
主君にして冷酷非道と名高い
「慶鳳楼には国一の妓女が揃っているというから早目に押さえておきたかったんだ。中でも
「蓮の癖に芍薬か」
はっ、と小馬鹿にしたように鼻を鳴らす主君を見て、煌葉はやれやれと首を横に振った。
「君の女嫌いもここまで行くとどうしようもないな。噂じゃ
「全く興味がないな。しかし、那国の公子が執心している女か。何かと使えるかもしれんな」
耀冥が邪悪な笑みを浮かべたのに気付いて、煌葉は騒ぎを起こされては敵わないと慌てて話題を変える。
「そ、そんなことより君ねえ……っ!また臣下に手を出したって?!いい加減にしてくれよ!大事な子女を入内させた貴族達から非難を浴びせられる僕の身にもなってくれ……!」
「知らん。誰も娘を後宮にあげろなどと頼んでいない、女を相手にして子が出来たら面倒だ。手を付ける気は無い。送り返せ。貴族どものくだらん与太話を聞いてやるのもお前の仕事のうちだろう。給金は足りている筈だぞ」
夏煌葉は全く悪びれない主君の傍若無人ぶりに頭を抱えた。
面長の細面にくすみ一つない玉の様な白肌、はらりと流れる絹の様に美しく艶めいた腰までかかる黒髪。
眉目の間隔は狭く、くっきりと織り込まれた横に長い切長の幅狭の二重に、長い睫毛から覗く
芸術品の様に美しい旧知の顔を
「別に男色家って訳じゃないんだろう?なんだかんだで入内してくる度に妃候補の顔を見に行ってるし──まさか、まだ例の子を探してるのか?!確かに可愛かったけどさ、あれからもう二十年以上経つんだぞ?!」
「
旧知の主君は
彼の不機嫌な顔と対面した時こそまさに『蛇に睨まれた様』と表現すべきだと煌葉は常々思っている。
「分かった、分かったよ。明日の剣技会だけはサボらないでくれよ」
「ふん、どうせ変わり映えしない面子だろう。つまらん」
「はあっ?!」とまた煌葉が耀冥に非難の声を浴びせた。
「君が!そう言って毎年サボるから今年から素人の参加を認めたんじゃないか!いいか?!絶対に城から出るなよ?!国民の中じゃ君は今『才能ある者なら身分関係なく登用してくれる革新的な王サマ』ってことになってるんだからな!」
悲鳴に近い煌葉のお小言を背中に浴びながら、平時は
*礼部:主に朝廷の儀式や祭祀を担当する部署
*李部:人事担当
*戸部 :財務担当
*倡優:俳優
*九九大慶:慶寿の際に演じられる有名戯曲の総称
*月季花:薔薇
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