日本のどこかにある山奥の小さな村。若い子は進学の為に外に出てしまう——。
この物語の舞台は、そんな奥底の少しばかり世間と隔てられた村。
その村出身である主人公の亜瑚は、大学に通いながらナレーターを目指し、趣味で動画サイトに怪談話を投稿していた。
そこでぽつりと語られた、幼い頃の不思議な出来事。
その投稿から恐怖の連鎖が始まるとも知らずに——。
今作は声を大にして正統派のジャパニーズホラーと呼びたい傑作。
村の閉鎖的な仄暗い慣習と人々の繋がり、ミステリーのような徐々に明かされていく真実や、その出来事に呼応するかのようにじりじりと迫ってくる村の古い言い伝え、鬼の祟りの真相。
悲惨な断末魔や山奥の蝉の声さえも耳元で再生されるかのような、凄まじい臨場感。
一体何奴を信じたらいい!? 全てが敵に視えてしまうかのような恐ろしい展開の中で、主人公が選ぶ決着とは一体。そして語られる『鬼妃』とはなんなのか。
土地の伝承や民俗学、これは実際に起こったのかと思うほどに設定が細やか。
こわやこわや……と思いながらも、ついつい次の展開を追ってしまう。
真実が暴かれていく中で、人の本質や関係性の変化に魅力を感じ、最後は感情移入してしまうところも見所。
その鬼は異形であったか神であったか、はたまた人が生み出した"モノ"か、ヒトの姿をした何かだったのか。
ひたり、と首筋に手をかけられる感覚を味わいながら、是非最後まで読んでほしい。
幼馴染・舘座鬼知景の訃報を受けて、故郷の紀日村に帰省した前野亜瑚。ナレーターを目指す傍ら、動画投稿サイトで怪談朗読をしていた彼女の日常は、葬儀の席で旧友の成美が叩きつけた、「あんたのせいで、知景は死んだ」という罵声を皮切りにして、急速に崩れ去っていくーー。
非業の死を遂げた親友、鬼の祟りを恐れる村人たちの激昂、家族の密談から漏れ聞こえた「きひ」という謎の言葉。この村で何が起こっているのか、正常な思考の暇さえ与えないまま、度重なる不幸の連鎖は加速していき、亜瑚の周囲を夥しい数の「死」が取り巻いていきます。
お話の見どころは、容赦も慈悲もない圧倒的な怖さと、情感の美しさにあると思います。恐怖に立ち向かう亜瑚や、知景と生前に交流があった男・安(いずく)の目を通して謎を追いかけていくうちに、知景と関わってきた人物たちの心の内側が、万華鏡のように向きや形を変えて見えてきます。
苛烈な感情を炸裂させる登場人物ひとりひとりの魂の叫びが、既に故人となってしまった彼女の姿を形作っていて、凄絶な美しさが胸を打ちます。
「きひ」という言葉の意味を知り、謎の核心に迫る時。きっと深い悲しみと、途方もない恐れ、そして優しい感動に包まれるはず。おすすめです。
故郷で亡くなった幼馴染みは、「鬼」に祟り殺されたのだ……という衝撃的な幕開けから。村を襲う変死現象に立ち向かうべく、村の伝説に迫る物語。
とにかく、話運びが抜群に面白いです。
凄惨な怪奇現象も怖ければ、「この人も信じられない!?」が連続する人間模様も怖い。インパクト大の展開が序盤から次々と起こり、そのたびに興味も膨れ上がっていきます。陰惨でありつつも加速感の強い、地獄のジェットコースターに心を鷲掴みにされます。
推理・解明パートが入ってくると。民俗学や日本史をフィーチャーしての、「因習」に対する新たな解釈も展開されます。超常的な現象を含みつつも、絶妙に「近いことは実際あったかも」を刺激する筋書きがお見事でした。
後半の展開について言及は控えますが。
この物語の真骨頂は、呪いや恐怖によって明らかになる人間の心理だと思います。
真実が明らかになるたびに、そこに秘められた人間の心情も炙り出されます。
恐怖心ゆえに、弱さゆえに、人間がこれほど残酷になってしまう……その一方で。
愛ゆえに、想いの強さゆえに、土壇場で他者に寄り添えるのも人間です。
優しくはないかもしれない、綺麗とも言いがたい、それでも狂おしく強い「愛」が秘められた物語でもあります。
個人的には、幼馴染みの少女たちが辿る結末が……こんな苦しい百合があるかよお……(嗚咽)
……ごほん。
とにかく、抜群に面白いホラーであり、ミステリーであり、ロマンスでもあります。みんなが寝静まる頃、どっぷりと一気読みしてみるのがオススメです。
しっとり情感溢れるジャパニーズホラーのご紹介です。
細かく分類するなら、伝奇や土俗ホラーにあたるのでしょうか。
主人公は女子大学生。就活もあるってのに古い友人が亡くなった。それで久々に帰郷すると葬儀の席で「彼女が死んだのはお前のせいだ!」と責められる。そこから連続して始まる関係者の変死。原因とされる「鬼」の祟り、繰り返される悲劇の果て、ついに明かされる人々と村の秘密……。
ざっくりしたあらすじはこんな感じ。
本作の魅力は何と言っても「鬼」の恐怖、それからドロッドロの愛憎劇。
「鬼」、日本にいればあまりに身近なこの怪異とは果たして何なのか。本作では超自然的な脅威として君臨する一方、全貌の見えないまま暗躍する正体不明の存在です。読んでもらえばわかりますが、角が生えてて虎のパンツとはワケが違う。強力で、恐ろしく残虐。ですが、惨たらしさなら人間たちだって負けていません。祟りに怯え、妄執にとらわれ、醜さを露にする人間たちの凄まじさが、本作では燦々と真夏のヒマワリ畑のように所狭しと咲き誇っています! 鬼の理不尽で圧倒的な暴力がいっそ清々しく感じられるほどで、これも是非読んで「あ~こういうことか~」となってほしい素晴らしいクオリティ。主人公の亜瑚が村に帰ってから先は、鬼の祟りと故郷の人々からどことなく漂う不快感をノンストップでお楽しみいただくことができます。
そして、もう一つ。本作の個人的なオススメポイントは、“故郷”の書き方です。大学生でもうほとんど大人の亜瑚は、祟りの渦中に巻き込まれて村の本当の姿を知ることで、言ってみれば自分の原風景を見つめ直すことになります。実家から離れたことがある方でもそうでない方にも、「懐かしい地元」というものがあるんじゃないでしょうか。それが成長して改めて行くと、居心地が悪くて、生臭くて、こんなんじゃなかったと愕然とする。そこまででは無くても、変わってしまってしっくりこない違和感を覚えたりする。そんな、遠く離れてしまった、しかしこちらを掴んで離さない“故郷”というものが本作にはある。悍ましくて滑稽なくらい哀れに崩れていくあの村。あの村に帰れば鬼がいる。しかし、それだけではない。
夜闇のように立ちこめる恐怖の中に、何があるのか、是非貴方も確かめてみてください!
山奥の小さな村、奇妙な因習、次々と怪死を遂げる村人たち……
そう、これは、みんな大好きジャパニーズホラー!
村社会特有の閉鎖的な空気感や、どんどん拗れてじわじわと精神を圧迫してくるような人間関係が、とてもリアルです。
正太不明の『鬼』によって、クズほど派手に死んでいくのが痛快ですらあります。
幼馴染の死から始まった『祟り』の恐怖と、その呪いが何によって引き起こされているのかを探っていく謎解き要素もあり、読み手を飽きさせません。
個人的には、男性の登場人物がどの人も悉くいいところに抉り込んでくるキャラ性で、みんなそれぞれグッときました。私の最推しは高西さんです。
『鬼』の正体は何なのか。
そして、タイトルにもある『鬼妃』とは。
全ての真相が明かされる時、呪いは解けるのでしょうか?
非常にスリリングで完成度の高い、怖いもの見たさたっぷり読み応えたっぷりの物語でした。
非常に面白かったです!