鬼か、人か、怨念か。背後に忍び寄ってきたものは——

 日本のどこかにある山奥の小さな村。若い子は進学の為に外に出てしまう——。

 この物語の舞台は、そんな奥底の少しばかり世間と隔てられた村。
 その村出身である主人公の亜瑚は、大学に通いながらナレーターを目指し、趣味で動画サイトに怪談話を投稿していた。

 そこでぽつりと語られた、幼い頃の不思議な出来事。
 その投稿から恐怖の連鎖が始まるとも知らずに——。


 今作は声を大にして正統派のジャパニーズホラーと呼びたい傑作。
 村の閉鎖的な仄暗い慣習と人々の繋がり、ミステリーのような徐々に明かされていく真実や、その出来事に呼応するかのようにじりじりと迫ってくる村の古い言い伝え、鬼の祟りの真相。
 悲惨な断末魔や山奥の蝉の声さえも耳元で再生されるかのような、凄まじい臨場感。
 一体何奴を信じたらいい!? 全てが敵に視えてしまうかのような恐ろしい展開の中で、主人公が選ぶ決着とは一体。そして語られる『鬼妃』とはなんなのか。

 土地の伝承や民俗学、これは実際に起こったのかと思うほどに設定が細やか。
 こわやこわや……と思いながらも、ついつい次の展開を追ってしまう。
 真実が暴かれていく中で、人の本質や関係性の変化に魅力を感じ、最後は感情移入してしまうところも見所。

 その鬼は異形であったか神であったか、はたまた人が生み出した"モノ"か、ヒトの姿をした何かだったのか。
 ひたり、と首筋に手をかけられる感覚を味わいながら、是非最後まで読んでほしい。

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