第3話

「相変わらず、台風みたいな奴」

 店長が小さく呟いたのが聞こえ、僕は苦笑する。

「てか、さくちゃんを夏祭りに誘わなくてよかったのか?」

「え?」

「せっかくの夏休みで、デートできる機会チャンスだぞ? それに柊は、一度狙ったものはそう簡単には諦めない奴だから、気を付けな」

 店内に戻ろうとする時にそっと囁かれた。

 店長の言葉の意味が全く理解できず、思わずまじまじと彼女の後ろ姿を見つめる。

 そもそも桜空を夏祭りに誘おうなどとは考えていなかった。一緒に行けたら楽しいだろうな程度に思っていたのである。

 だが、当日は桜空も神社の手伝いがあって、忙しいだろうと勝手に考えていた。それに何故、柊のことがここで話題になるのか、不思議でならない。

「柊さんと紺野さんって、どういう関係……なんですか?」

「え。ちょっ、待って!? “紺野さん”って言った? え、二人って、まだ全然進展してないわけっ!?」

「?」

 またまた店長の言葉に首を傾げる。

「まじかぁ……、まさかの」

「何か不味いこと、言いました? 僕」

 店長が呆れたように僕を見つめ、分かりやすいほど大きな溜め息をついた。

「……いや、大丈夫。ちょっと誤算だっただけ。柊とさくちゃんがどういう関係まで進んでいるのかは、何とも言えない。けど、柊はさくちゃんのことが好きだよ。間違いなく」

 店長は、どこか寂しげに微笑む。その表情や言葉の節々に引っかかりを覚えつつ、柊が度々向けてくる敵意のある視線が何なのか、少し分かった気がした。

 そのことが分かった途端、急に柊と桜空のことが急に気になりだし、二人が歩いて行った方へ視線を向ける。

「ぼけっとしてるとさくちゃん、取られるからな」

 店長の言葉がいつまでも耳の中で木霊した。

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