第7話

「お待たせ」

 息を切らしながら、遠くに見えていた背中に声をかける。ゆっくりと振り返った彼女を見て、目を見開く。神社一帯を見下ろせる小山で、屋台などの灯りを背に佇む桜空はあの時と同じように、言葉では言い表せないぐらいに美しかった。

「変……かな?」

 無言で見つめる僕を見て、不安そうに桜空は自分の髪に触れる。

「いや……。むしろ、すごく似合ってる。想像以上に」

「本当? よかった」

 花が咲いたように笑う桜空。白地に淡い色合いの花が散りばめられた浴衣に紫色の帯。いつも下ろしている髪が団子に結われていて、うなじが綺麗に見える。神社の光が反射しているからか、頬が染まっていて色っぽい。

 心臓が早鐘を打つ。今すぐ抱き締めたい衝動に駆られる。

「里中くん……?」

 その時、花火が一斉に上がり始めた。地響きみたいにお腹にドンと響き渡る。

「うわ……」

「今年も綺麗……!」

 横に並んで花火を見上げる。次々とカラフルな花火が打ち上がっていく。ちらりと隣を盗み見る。桜空は目を輝かせながら、花火を見ていた。

 あの桃の花が咲き乱れる中を舞う桜空と表情が重なる。

 連続で打ち上がっていた花火が止み、辺りはしんと静まり返る。そのタイミングを逃すまいと僕の身体が勝手に動いた。

 彼女の名を呼び、自分の胸へ抱き寄せる。

「桜空のことが好きだ。今年のひな祭りの日に、君に心を奪われてからずっと」

 身体を強張らせていた彼女の肩の力がふっと抜けるのが伝わる。桜空が少し顔を上げたので、間近で見つめ合う形になった。

「そんなに前から……?」

「そう、そんなに前から。一目惚れだった」

「……知らなかった」

 ちょっと不貞腐れたように頬を膨らませる桜空。そんな姿も愛おしい。

「僕と付き合ってください」

 さっきより抱き締める腕に力を込める。

「……はい、喜んでっ!」

 彼女の瞳から一粒の雫が溢れ落ちるのと同時に、盛大に大きな花火が打ち上がった。

「あっ……!」

 桜空が花火を見上げて、声を上げる。釣られるように上を見ると、空一面に桃の花のような形をした花火が次々と打ち上がっていく。

 まるで、自分達を祝福しているかのように――――。


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花とキミと 玉瀬 羽依 @mayrin0120

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