第4話
茜音が顔を覗き込む。思わず、苦笑を浮かべる。
「本当に付き合いが長いと何でもバレちゃうね」
「それね。……で、何か逸樹くんとあった?」
「ううん。逸樹くんとは順調だよ! あのね、今週末良かったら久々に一緒に出掛けない?」
「あ、ちょうど三月になるね。いいよ、日曜なら休みだし」
茜音は、横に置いてあった鞄から分厚い手帳を取り出し、慣れた手つきでページをめくる。その姿が様になっていて、かっこいい。惚れ惚れしてしまう。
「本当っ! 逸樹くんと親友と四人で出掛けようと話があって」
「え。彼氏と二人でデートしなくていいの?」
「うん。たまには大人数でワイワイしたいねって話してたの」
ちょっと苦しい言い訳だっただろうか。ヒヤヒヤしつつ、茜音の顔色を窺う。彼女は特に疑問に思った様子もなく、「久々に出掛けるね」と楽しそうに話しながら、手帳をしまっていた。そっと心を撫で下ろす。
「じゃあ、どこ行く?」
「フラワーパークとかどう? 前から行ってみたかったんだよねっ」
「いいね! 桜空が好きそう。梅の花とかも咲いてそうだし」
あっさり行き先も決まり、日帰りでレンタカーを借りて行く事になった。再び二人の間に沈黙が訪れた。だが、会ったときの居心地の悪さはなく、いつもの安心する心地のよい無言の時間だった。
二月にしては少し暖かい風がそっと、わたし達を優しく包み込むかのように吹く。
「社会人になって、久々に桜空と出掛けるなぁ。何か楽しみっ。逸樹くんとも会うのは大学生の時以来じゃない?」
「そうだね。もうそんなに
「……あっという間だね」
茜音の言葉に別の意味が含められていることに、はっとして、彼女を見つめる。その横顔は、かつて生きる気力を失っていた彼女ではなくなっていた。気付いたら、しっかりと前を向いて生きようとしている茜音がいたのだ。
わたしは、少し心配しすぎていたのかもしれない。最愛の人を亡くしてから、茜音とちゃんと向き合おうとしていなかったのは、自分だった。
その事実に胸を痛めながらもわたしは、前を向く茜音の横顔から目が離せなかった。
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