第5話

 私の大好きな幼馴染は、花がとても似合う。愛嬌があり、可愛らしい子だ。特に、のような人だと思っている。

 一見、バラはトゲがあり、冷酷で孤高な印象を与える。だが、ミニバラは小柄だけど、どこか気品があり、優しさや愛に溢れている。

「桜空は、本当の意味で美しい子だよね。ミニバラみたい」

 突然の私の呟きに、少し先を歩く桜空は振り返って、はにかんだ。

「どうしたの? 急に」

「なんとなく、花畑をバックに立つ桜空は、綺麗だろうなぁって想像しちゃって」

「もう、彼氏みたいなこと言って! ほら行こっ。梅の花が沢山咲いてるといいね、茜音ちゃん」

 今日はついに、桜空に提案されたダブルデートの日だ。待ち合わせ場所までの道中、桜空はとてもキラキラとした目で私を見つめてくる。花が大好きな幼馴染にとって、今日の遠出は楽しみで仕方なかったのだろう。

 だんだんと緊張してきた。異性と出掛けるのは久しぶりな気がする。

「大丈夫。茜音ちゃんにとっても素敵な人だと思うから!」

 桜空の笑顔に勇気をもらう。

 やがて、待ち合わせ場所に行くとすでに男性陣は到着していた。

「初めまして! 本城茜音と言います!!」

 にこっと最高の笑顔を男性陣に向ける。

「久しぶり、茜音ちゃん」

「は、初めまして。山崎楓斗です」

 楓斗と名乗った男性がじっとこちらを見つめてくる。だが、桜空の彼氏である逸樹に横から肘でつつかれて、慌てて自己紹介をした。

 第一印象は、とっても不思議な人だと思った。初めて会うのに、何か自分と同じものを感じる。

「あ、あの。本城さん」

「茜音、でいいよ。同い年だし」

「あ、茜音……ちゃん」

 少し顔を赤らめ、緊張した表情かおで楓斗は私の名前を呼ぶ。

「なに?」

 返事をすると同時に、目の前に小さな花束が差し出された。

「花、好きかなと思って……」

 その姿を見て、口元が緩む。やっぱり、不思議な人だ。初対面なのに、花束を差し出してくる男性はなかなかいない。

「ありがとう、山崎くん」

「あ。お、俺も下の名前でいいよ。……茜音ちゃんと仲良くなりたいから」

 照れたように頬をかきながら、そっと目線を合わせてくる楓斗。トクンと鼓動が跳ねる。一瞬で心がぽっと温まった。まるで、蝋燭の灯がついたかのような錯覚を覚える。

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