第6話

「なんか、いい感じじゃない? あの二人」

「だね。やっぱり、楓斗を誘って正解だったな」

 そっと距離を置いて、前を歩く二人の後ろ姿を見つめながら、逸樹と並んで後をついていく。

 初対面の人とも仲良くなれる楓斗は、完全に茜音を自分のペースに持っていってるように見える。茜音もどちらかというと人見知りしないタイプなので、楓斗と楽しそうに話しているのを見ると、二人は馬が合いそうだ。

「それにしても、楓斗くんが花束を用意してるのには驚いちゃった。花とか興味なさそうなのに」

「ああ、あれね。茜音ちゃんの写真が見たいって言うから見せたら、彼女をイメージした花を渡すって急に言い出して」

「えっ、何で渡そうと思ったんだろ……?」

「たぶん、あれは惚れたな。楓斗のやつ」

「え、そうなのっ!?」

 改めて前を歩く二人の背中を見つめる。どことなく、二人の距離が近いような気がしなくもない。――――というより、楓斗の方が茜音との距離を詰めているように見える。だが、茜音も特段嫌がっている風には見えないので、心を許しつつあるのかもしれない。

「さーくーらー! 来てきてっ。梅の花がすごいよ!」

 ふとこちらを振り返った茜音が手招きしている。

「え、ほんと!? 今行くー!」

 逸樹の方を見たら、「行っておいで」と優しく微笑んでいた。そっと頷き、足早に楓斗と茜音の元へ駆け寄り、その目の前の光景に目を奪われた。

「すごい……! 綺麗……」

 目の前が梅の木の並木道になっていて、赤や白い花がそこを通る人々を魅了するように咲き誇っている。言葉も出ない。

「来た甲斐があったね」

 追いついた逸樹がわたしの右横に立ち、小さく囁いた。わたしは、何度も首を縦に振る。

 ふと、左横に立って同じように梅の花を見ているであろう幼馴染の顔を見やると、彼女の頬に涙が伝っていた。

「あ……かね……ちゃん……?」

「あ、ごっ、ごめんっ。なんか……感動しちゃって」

 涙で潤んだ瞳でわたしに笑いかけるとすぐに拭おうと頬に手をやる。それを遮るように後ろから別の手が伸びてきた。

「泣きたい時は、思いっきり泣くのが良いぞ」

 手の主は楓斗だった。茜音の肩を自分の方へ引き寄せ、周りから泣いてる姿を見えなくしながら、優しくポンポンと彼女の肩を叩く。

 最初は見るからに茜音の体は強張っていたが、安心したのか、徐々に肩の力が抜けていき、小さくすすり泣く声が聞こえた。思わず、もらい泣きしそうになっていたら、優しく温かい手がわたしの頭を撫でた。逸樹の手だ。その手に甘えるようにわたしは、逸樹にすがりつく。

「僕たち、あっちの方に行ってるから」

「ああ」

「昼頃にあそこのカフェで待ち合わせな」

「了解」

「頼んだぞ、楓斗」

「任せろ」

 彼らは短く言葉を交わし、わたしは逸樹に手を引かれるがまま、奥の花畑のエリアに向かった。

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